70.現状を把握しよう
ボフッ!ボフッ!と寝台の上でひと暴れして「ふざけんなボケ!禿げろ!」と、人様にお聞かせできない暴言と、禿げへと導く呪いの言葉を大声で叫び、気持ちを落ち着かせた。
なんの為に大人しく話を聞いていたと思っているのだ!・・・ざけんじゃねーよ。家に帰る話をしたかったのに、サッサと言いたい事だけ言って出て行ったよ!
「はあぁ~・・・。そもそもさぁ、食料事情が!?なんて言ってないで買ってくれば良いじゃん!あの阿呆が!」
あっ、『妃よ』・・・の意味聞くの忘れた!・・・うん、全力で聞かない方向で。
「はぁ~あ・・・」
暴言だけ吐き捨てても仕方がないので、「よっこらせっ」と掛け声と共に、立ち上がる。
・・・ちょっと、気になる事があるのだよね。
視界に入っている鏡台に向かいテクテクと歩く。まだ、私は自分の姿をキチンと確認していないのだ!・・・同じ銀髪の違う人だったら、詰んでいるだろう。
もうキャロラインではないって事だったら---お家には帰れない。
恐る恐る鏡を覗き込むと・・・、おう!良かったよ。私キャロラインだった。ヤッターっと腕を天高く伸ばし喜んでみた---けど・・・あれ?やっぱり腕長いよね・・・伸びている気がするよ。
しっかりと姿を確認すべく、鏡を見る・・・。
えっ、成長している?どれくらい・・・?どういう事・・・?!
うわーっ!!と自分の髪の毛をワシャッと掴み、鏡をマジマジと見る。伸びてはい?髪伸びているよね?
顔も・・・ちょっとだけほっそりした?
まじまじと鏡を覗き込むと、鏡の端・・・部屋の隅の白い物体。
!!・・・あれ?動いている・・・?鏡に映りこんだ白い物体がモソモソと動いている・・・。あれは・・・!!
「ココン様!」
ビクッと動き・・・顔を上げた。
---ココン様がいるじゃん。私帰れる!!と、ココン様に走り寄り抱きしめた。
『・・・すまんが、帰れぬぞ』
「はぁ、何で!!ココン様は凄いのですよね!なのに何でですか!!」
ユッサユッサと揺さぶるが・・・ココン様は目を合わせてくれない。
「どーしてですか!!」
私の腕が力尽きるまで揺さぶり続けたけど・・・意味はありませんでした。・・・くたびれた。
『我も・・・魔に属するのだ、魔を統べる王に敵うわけなかろう・・・』
・・・言われれば、そりゃそうですね。・・・納得です。
「---私大きくなっているようなのですが、・・・どういった事なのですかね?」
『・・・一年程、寝ていたぞ』
「??はいぃ~?」
なんでも、私は人間なので急に魔力の濃い空間に連れてこられると体が壊れてしまう・・・らしい。
・・・怖っ。なんて恐ろしい場所に連れてくるかな!
で、少しずつ体を馴染ませて、起きているよりも寝ていた方が体への負担が少ないので寝かされていたと・・・。
予定では半年ちょっとだったけど、なかなか目が覚めず・・・今日になったと---。
---マジカ!・・・寝すぎだろう、私!!
「うわ~ん、私の馬鹿!!寝ボスケ!有り得ないよ・・・」
ガックシ、もう脱力です。・・・一年も行方不明になっているなんて、マジ有り得ないよ!
---私はのんきに寝ていたって?!
「十分馴染んだようだな・・・動くのに問題なかろう?』
「ココン様・・・お父様やお母様・・・お兄様は?」
---もう、死亡認定されていてもおかしくは無い。
・・・ここで生活基盤を整えるしかないのかなぁ。・・・でも生きているよ!って言いたいぞ!!
『---我も知らんのだ、共に連れて来られたのでな』
わ~ん!誰か教えてください!!
・・・シクシク、と悲劇の主人公ぽく泣いてみました。
---泣いてもどーにもならないのだけどね。
ここは一つ泣いておいた。・・・今なら悲しみのお姫様っぽくしていても誰も文句はないだろうからな!!
さて、一通り攫われた悲劇のお姫様をやってみたので、現状を整理してみよう!
そもそも、お前たち魔族になったのだから、魔力だけ空気から摂取しておけよ!と文句を言いたいところだけど・・・そんな事言っても始まらない。
「一年の間に得た情報を教えて下さいな」
だらだら、ごろごろしていた訳では無いでしょう?・・・うふふふふっ。
ココン様によるとこんな感じらしいです。
魔力を摂る為に食事・・・肉を食べた魔族が「あれ?何か違う!?求めていたのと!」と首をかしげる。そして、食べる行為をする度に「何か違う!」と。
人間の味に慣れたココン様に言わせると、ちょっとその気持ちは理解できるらしいです。
食べる・・・・・・デジャヴュ(うん言いにくいね)既視感を覚え、違和感を覚える。食べる・・・「何か違う!」・・・求めていた「食べる!」という行為と違う!ってストレスを感じたところから始まっているのだろうか?
それが、複数人集まって・・・更に増える・・・ストレス溜まる、騒ぐ、暴れる。
あれか、以前私が体験した、白いスープを見てミルクとイモのスープだと思って一口食べたら激甘だったとか、フルーツだと思って食べたら辛いとか、口に入れた瞬間・・・予想していたのと違う!!と、声を大にして言いたくなる残念な感じ・・・私の住んでいる場所は普通に食事が美味しいから救何とも思わなかったけど、生肉は食べたら生臭いだろうし、そのまま焼いてもね・・・肉によるだろうけど。
うん、まぁ気持ちは理解できなくもないけどね・・・美味しい物はいいよね。心が和むというか・・・ね。
肉焼くでもいいじゃん!立派な料理だよ・・・って思ったけど、焼くだけは料理じゃないかな?・・・塩と胡椒は必要だし、出来たらハーブとか、---日本人なら醤油は欲しいところだね。焼肉のタレみたいな、ブレンドした調味料があれば最高だ!
そもそもなんだけど、食べる行為に既視感覚えたら、焼くだけ?!という行為に対しての既視感は無かったのか?!と突っ込みを入れたくなったのだけどね!
探して研究するくら位して欲しかった!
ここに転生する前、料理を沢山しました!料理趣味です!って、既視感覚える程料理した人はあまり居ないのかも・・・。だってファンタジーな世界を希望するのだよ?料理好きっているのかな?ゲーム好きな人ってその時間ゲームするのだよね?きっと・・・。
こじらせていると、自宅警備が仕事だったりするし。
主婦だって、一人だったら作らないで冷蔵庫にある物で食事済ませるし。主婦でも、料理苦手な人も料理しない人も居るしな。
う~ん、まあ、食材もないだろうけど。
既視感で作る・・・とすれば、ファンダジーの世界に転生したり召喚された登場人物が本の中で良く作っているではないか『マヨネーズ』を!と、思ったけど、懇切丁寧に作り方までは書いてないかな?この世界に来る前に実際に作った事がある人はなかなか居ないだろうし。
マヨネーズは、材料をミキサーに入れて混ぜれば出来る。凄いスピードで混ぜることができれば材料知っているだけで出来るのだけど、ミキサー使えないなら、混ぜる順序は大切なのだよね。
食べ物の事を考えていたら・・・「ぐ~っ」とお腹が鳴った。
---うん、お腹すいた。肉食べたい。香辛料効かせて・・・ちょっと待って、私の食事は?---人間は食べないと死んでしまうのだぞ?!
「食事はないのか!!」って、力いっぱい叫んだけど・・・気づいてしまった。
肉・・・焼いて出てきたらどうしよう・・・料理できないって・・・必要ないって・・・生肉食べるって・・・何の肉ですか?!って聞くのも怖いよ!!
絶対あのヴァイって人・・・「肉は肉ですよ」とニッコリ微笑んで言いそうだよ!
「ココン様・・・何か持っていませんか?」
---絶対、隠し持っているよね!?
本日二度目の揺す振りの刑をしてみました。
さて、パン&マヨネーズとスープで軽く食事を済ませました。
---ココン様の残り少ないお楽しみ食材を頂きました。・・・元々は私のだからいいのですよ!!
食料事情が問題だと言うけれど・・・一番食料が必要な私の食事は?・・・考えてないでしょ!!
餓死しちゃうよ!
料理するにも材料が必要なのだけど、どうやって調達するのだい?農業とかするの?考えただけでも恐ろしいお肉は要らないよ!
「ココン様が蓄えた食材を出して下さいな、全部ですよ!」
物凄く嫌そうな顔で、尻尾を一振り。
「・・・これは凄いですね~」
いきなり目の前に現れたのにもビックリしたが、出てきた量にも驚いた。
突然目の前に現れたのは、私に出されるオヤツのレパートリー全てと、カゴいっぱいの様々な野菜。ゴロゴロ・・・と、転がったのは真っ赤に熟れたリンゴとカボチャ・・・それとパンだ。
「・・・お庭になっていたリンゴの実を全部採ったのはココン様ですか!酷いです!みんなで採ろうって楽しみにしていたのですよ!」
「---1年以上も前の事で怒るな。ここにある事で、飢えないのだから感謝しろ」
ツン!っと、そっぽを向いてしまった。
その通りなのですが!納得いきません!
ココン様が独り占めして隠していたリンゴはバラバラと転がったのを回収して箱に山盛り盛った。
マッチョな大人の男の人でないと運べないくらい大きな箱を隠し持っているなんて、ビックリだよ。
調味料もあるし、勿論、マヨネーズもケチャップ、ソースもある。・・・ビックリする程の食いしん坊さんだな、おい!
必要な物だけを手に持ち、残りはしまってもらおう。
「仕舞っておいて下さいね」
ココン様が尻尾で、人撫ですると食材が全て消えてしまった。
「便利な尻尾ですね~。私に一本下さい!!」
って、お願いしたら、嫌な顔されました。
『尻尾を切れと・・・』
さて・・・あの二人、言いたい事だけ言って出て行ったけど、食材渡さないで私に何をしろと?
どうやって貴方達を呼べばいいのだよ?
城から出るなって・・・言われてもね~。
疑問が山程ある。
??城から出なければ良いなら、城の中は歩いても良いって事だよね?---ふふっ、城の中は城の敷地は含まれますか?---勿論含まれますよね!
お腹も膨れた事だし・・・まずは探検と言う名の、脱出経路を探しに行く事にしました。
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「---ランセイ、それは・・・どうしたのだ?」
既に一年が経っていた。
---緩やかな時間の流れを感じながらも、この生活にも慣れてしまった様な自身に嫌悪を感じ、ふと我に返り傍らにいない焦燥感を感じ・・・日々仕事にのめり込んだ。
キャロラインが残したランセイを傍らに執務室に籠る日々が---1年となったであろうある日。
「---えっ、何がどうなって・・・!」
当の本人・・・ランセイも解っていないようなのだが・・・!---これは、なんと声をかけてよいやら。
試案しながらも、うろたえている様子を見ているが・・・頭を動かす程にパラパラと抜けいていくのだ!髪の毛が!
その時、ギルベルトとは違う乱暴な入出を伺うノックの音が響き・・・返事をすると同時に扉が開かれた。
「---ご機嫌伺いに参りました、侯爵様・・・ハッ!なんだそりゃ!」
畏まった態度で一応礼を尽くした様に装ったガイ---という妖精使いが入出してきたのだが・・・ランセイを指さし笑い出した。
「---おい!どういう事だ」
私は、キャロラインに何かよくない事があったのか!気が気ではないのだがな!と睨みつける。
「---あ・・・こりゃ失礼しました。これキャロライン様の仕業ですよ、絶対!」
ヒーヒーと笑いを堪えられず、腹を抱えながら答えた。
---キャロラインがか?
腑に落ちない顔に気付いたのか、何故そう思うのか口を開いた。
「---アイツ・・・いや失礼。キャロライン様は、腹を立てるとすぐ『禿ろ!』って言っていましたからね。ぷっ、あははははは。---余程、腹の立つ事があったのだと思います~ランセイが禿るくらいにね!」
放心状態のランセイが気の毒に思うのだが・・・全く情報の無い一年に光が差し込んだのだ。---歓喜が体中に沸き起こった。
「---そうか!キャロラインがか!---くっはははははっ!」
最後に腹の底から笑ったのは・・・いつだったか。
騒ぎを聞きつけて駆け付けたギルベルトを思わず抱きしめたのは、一生の不覚だ!




