66.呼びだされた弁当屋
「久しぶりだね、こうして君と会うのも」
にこやかに出迎えてくれたのは、この屋敷の主人である、ランドルフ侯爵家の当主様だ。
「ご無沙汰しております」
俺は、普段使わない丁寧な言葉を使い、頭を下げた。
キャロライン様・・・改めてこの名前で呼ぶ事はあまり無く、正直鳥肌ものだ。
「お前」とか「アキラ」と呼ぶ事が多い俺は違和感を覚える---が仕方が無い。
侯爵様と対面するのは3度目か・・・。
誘拐されたキャロライン様をお連れし一度、マヨネスの事業を始めた際に一度、そして今回だ---。
「今回君を呼んだのは、言っておきたい事があってね・・・」
と、執務机の上に腕を組み、顎を乗せ、俺を見据えて告げた。
そして、侯爵様の隣に立つギルベルトとか言ったか・・・侍従が口を開いた。
「キャロライン様からの指導を受け、カボチャ料理をメニューに加えたようですが、冬の食糧不足を補う為に栽培された量まで買い集められると困る。カボチャを使用した料理の数は抑えるように---。そして来期の冬に関しては、我が領地での栽培数を増やす事に致しますので、必要数の報告をするように---」
と、言う内容だった。
「---はぁ、分かりました」
俺は、カボチャ料理を減らし、次の冬に使いたい数の報告が必要だという事を頭に入れ、---何故、報告が必要なんだ?!という感情のままに返事をしてしまった。
「---理解されていませんね。カボチャ料理をキャロライン様にお願いしたのは、貴方への新商品開発の為ではなく、冬の食料として領地の住民が美味しく食べる事ができるように---と、領民の為に旦那様がお嬢様にお願いしたのです。・・・利益の為に買い集める事はしないように」
鋭い眼差しで静かに、侍従は告げた。
「---意を汲むことが出来ず、申し訳ございませんでした」
俺は、やらかした・・・ようだ。
「・・・話はわかってもらえればいい。他に、君にはお願いがある---我が領地へ行って、カボチャ料理の指導をしてきてもらいたい」
侍従と俺の話をジッと聞いていた侯爵様が口を開いた。
「---俺がですか?」
「ああ、君と君のところの料理人を連れて行ってくれ。---もちろん仕事に支障がない最低限の人数でいい。・・・宿泊する場所もこちらで用意しよう」
ニッコリと微笑む姿は「行かない!」という答えは聞く気は無いようだ。
「・・・わかりました」
俺は、引き攣りそうな笑みを口元に浮かべ、了承の返事をどうにか搾り出した。
「快諾してもらえて良かったよ。---では、5日後に。こちらからはエリーを同行させる」
俺の口が・・・ヒクッと動いた。それを確認したのか侯爵様は言葉を続ける。
「---懇意にしているようだが、あれは私達が後見人をしている。---なんと言えば良いのか・・・君と似ている境遇にある、良く話を聞いてやって欲しい」
そう侯爵様が告げた後、俺は部屋を出された。
・・・どういう事だ?
俺は、その言葉が気になっていたが、直ぐに約束の5日後はやって来た。
・・・俺が留守にする間の仕事の手はずや、家族の事に追われ気付けば日にちが、経っていた。
仕事は---いつもどおりにしてくれれば問題はない。問題があるとするならば、むしろ俺の方だ。
---エリーに家族を紹介しようと家に連れてきた時から会っていない。
あの日、俺は膨れ上がった家族と呼べる仲間達を紹介しようとエリーを家に招待した。・・・だが、エリーは家に入る事無く帰っていったのだ。
「・・・すみません、今日は帰ります」
そう突然告げると、突然踵を返し帰って行った。エリーの両手は・・・手は白くなり震えていた。
それが、10日程前だ・・・それから顔を合わせてもいないし、連絡も取れていない。
「はぁ・・・何が問題だったんだ?!」
俺は、ガリガリと頭を掻き毟った。
---いくら考えても分からん!!
「---本日は宜しくお願いいたします。エリーと申します」
侯爵家の馬車に乗って俺達を迎えに来たエリーは丁寧に、俺と料理人に頭を下げ、挨拶をする。侯爵家メイドとして接するようだ。
気まずい気分で待っていた俺は、拍子抜けだ。
馬車の中は比較的和やかな雰囲気のまま侯爵家の領地に到着し、翌日カボチャ料理の実演を行う事になっているので、エリーはその準備に忙しいらしく、二人で話す機会もなく解散となった。
「マヨネスの皆様はこちらのお部屋をお使い下さい」
と、部屋に案内をし、奥へと下がっていった。
・・・おい!っと、拳を握り締めガッと壁に八つ当たりをしたくなった!のだが・・・したのはポスッとしたクッションの音。
---壁を壊して侯爵の印象を悪くするわけには行かないからな。
翌日、俺は何もなかったような振りをして、料理を作る。・・・その様子を村の人達や侯爵家に使える料理人たちが見て覚えるのだ。元々料理が出来る者達にしてみれば、簡単な手順だ。直ぐに覚える。
料理が終わり、温かな料理を笑顔で食べている人達を見て、俺はホッと一息ついた。そして、モヤモヤしていた気分が少し晴れていた。
ワイワイ、賑わいを見せる輪から少し離れてその光景を眺めているエリーに俺はそおっと近付き、声を掛けた。
「---なぁ、何があったのか言わないと分からないんだよ・・・俺は。どうすればいいんだ?」
俺の頭の中をグルグルと巡っていた言葉を口にする。
「---・・・何も悪くないですよ。駄目なのは私なのです」
エリーは視線を変えず目の前の楽しそうな人達を見つめながら、静かにそう答えた。
「・・・じゃあ、何が駄目なんだ?」
俺は、そう口にしていた。---エリーが自分で話し始めるのを待つことは出来なかったのだ。
「怖いのです・・・家族を作って・・・居なくなるのが---私の家族はもう居ないのです」
そう、エリーは告げると・・・淡々と人の話をするように言葉を綴った。
「もう何年も前・・・流行病が国中に蔓延した事がありました。ガイさんもご存知ですよね。私が暮らしていたのはこの侯爵家の隣でした。農地で生活する人達は管理する貴族・・・領主様に左右される生活をします。この侯爵家の領地では、流行病が蔓延した時に侯爵様が医者を派遣し、お金を工面して下さいました。・・・領民を治すようにと。
---ですが、そんな領主様はこの侯爵家の方だけです。他の領地では、そうは行かないのです。・・・お金があれば医者にかかる事ができる者や、医者を連れて王都に逃げ込む領主。---様々です。
---医者にかかろうにも、医者は逃げ・・・助けを求める事が出来ず、両親が病に罹り倒れました。そして・・・私と幼い妹が残りました。でも、その妹が・・・病に罹り、私は妹を背負い侯爵家の領地に入り医者を探そうとしましたが---既に遅かったのです。・・・私は、その場で立ち尽くしました」
俺は、賑わう人々に視線を向けながら、エリーの話を聞くことしか出来なかった。だが---。
「---俺は傍にいる!・・・そうそう離れてやる事は出来ないから安心しろ!」
エリー後ろから腕を回し、背中を胸に抱え込んだ・・・。前に回された腕に、エリーの両手がかけられる。
「絶対ですよ!---私より先に居なくなっては駄目ですからね」
ボタッボタッと、俺の腕に大粒の雫が落ちてくる。
「ああ・・・安心しろ。俺は図太いからな!---それに俺の家族は何人居ると思っているんだ?!びっくりする程、騒がしいぞ!」
「・・・っあはっ。それは名前を覚えるのが大変ですね」
エリーが腕に顔を埋めながらそう答えた。
「ああ・・・大丈夫だ。ずっとだ---傍にいる。だから嫁に来い」
「---宜しくお願いします」
エリーの告白を聞き、俺は忘れたふりをして来た過去が、胸を突く。
・・・忘れていた訳でも、忘れようとしていた訳でもない、ただ思い出すには只ひたすらに苦しく---哀しい。
・・・あぁ、母さん。
晴れ渡る空を見上げ、もう鮮明に想い描くことの出来ない母を思い出した・・・。
「---で?エリーと何があったの?結婚決まったの?」
ああ・・・、しゃしゃり出てくるこいつが居たな。
土産・・・と言うほどでもないが、ちょっと珍しい農村で作られている菓子や、こちらで食べられていない食材を持って、侯爵家を訪問する。
・・・気は進まないが、結婚の報告は必要だろう。
俺は、事の顛末が漏れないように、リリーに口止めをした・・・ランセイから洩れる事が一番恐ろしい。事細かに伝わるのだ。勿論、エリーにも口止めをした。
その後、俺は・・・自分も同じだと、親も無く、今一緒に生活をしている人達が家族なのだとエリーと話をした。
とても驚いた顔をした後・・・花が咲いた様な・・・暖かな笑顔を浮かべ、「素敵な家族ですね」と言った。
「---エリーも家族の一人になる」
なんて、言った事や、あれやこれやあいつに聞かせられるか!
ムッと、口を噤んでいる俺にニッコリと微笑みかけたエリーが変わりに口を開いた。
「お嬢様、ご心配おかけいたしました。私・・・ガイさんと結婚します!---してもいいですか?」
確かに報告にきたが、こいつの許可は必要ないだろう!!
「---勿論だよ!!おめでとう!!」
その後は、お決まりの大騒ぎだ!
・・・これ以上は俺の精神が耐えられん!好きにしてくれ!!
ムスッとして、二人のやり取りを見ていた俺に、ニヤリとした作り笑いを向け「いい事教えてあげるね!」と前置きしてから、さも楽しそうに言いやがった!
「結婚の申し込みには家族の許可が居るよね?---エリーの後見人はギルベルトさんだから、頑張ってね!・・・私たちも家族のつもりだから、私とお父様の許可は取ってね!」
・・・マジか!
ヒクッと、頬を引きつらせた俺を見てあいつは晴れ晴れとした笑顔をした。
「おめでとう!ガイ。二人の幸せを祈っているよ」
「・・・あれ?お土産がない!?何処に行ったの!?私のお土産!」
---あぁん?知るか!
私は皆が部屋から居なくなった隙にココン様を問いただす事にした。
「ココン様!お土産返して下さい。---それに最近キッチンのお菓子や食材が少減っている気がしていたんですけど!勝手に食べていますね!」
『---我はその様な小物の真似事はせん!』
『ココン様が持っていらっしゃいますよ』
ランセイがクッキーをポリポリ食べなが一言。
「ランセイは見ていましたよ。どうなんです?!」
『何を言うか!我は空間魔法の練習をしておったのじゃ!』
捕まえようと近寄った私の腕をすり抜けて、窓から外に逃げ出した!
ちょっと、お土産返して---!太ったらダイエットしてもらいますからね!!
何とかメイド3人片付きました(苦笑)
次は話が動くといいなぁ・・・と思っています。
お読みいただいてありがとうございます。




