64.カボチャ料理を作る
さて、・・・カボチャ、今から作るのですか?---お兄様と?!
ちょっと、お兄様の顔が強張っている気がしますが・・・大丈夫でしょうか?
お兄様は、いつもアルフレッド様と行動を共にしているので、私と二人で何かをするって事がない。
・・・再会?が素っ気なかったしね。
---でも、私がキャロラインになったと自覚した後、少しずつ夢でお兄様が登場する・・・メイドさん達が言っていた話の・・・夢だ。
思い出すだけで恥ずかしいのだけど---お兄様とお父様は良く似ていた。
・・・今も変わってないと良いなぁなんて、人目があるからなのだろうか?夢の中の様な甘々な節はみられない。
いつ、甘々な事したかって?
私の意識が、まどろんで過ごした3年と少しの間の事だ!
お兄様のお膝の上に座って『はい、あーんして!』とお菓子を食べるとか、食事をするとか・・・ホッペにチューとかいろいろ。
その夢を見た夜は「ギャァアァ----ッ!」って叫び声を上げて飛び起きたよ。マジ心臓に悪いよね。
お兄様が反応の薄いボーッとしている私の側で、いつも絵本を読んでくれたおかげで、言葉を話す事が出来て、字も読めたのだ・・・思えば感謝しきれない優しいお兄様だ。
そんな思い出は、埋もれた記憶の中から時折夢の中で呼び起こされ、お兄様の笑顔が暖かな光となって私の心に降り注がれている。
空白の3年間・・・いやそれ以上かな?記憶が呼び起こされ、今でも私に心に明かりを灯してくれているのだから。
---お兄様が私に注いでくれた暖かな光が今も夢の中で繰り返されるのだ。
・・・大好きにならない訳がない。時間と共に陰りを見せる大人達の顔とは対象的に、私の少しの表情の変化でも喜び・話しかけ・楽しげなお兄様---それは暖かな陽だまりの様だった。
アルフレッド・・・レッドと会う前に思い出していたら、良かったのに---。
最悪な再会の後も、お兄様は可愛い髪飾りや装飾品を贈ってくれる。
やっと、二人で話ができる貴重なチャンス!これを生かさなければ駄目だよね!!
---よし!頑張っちゃうんだから!!
「お兄様、手伝って下さいますか?」
私は、断られない事を祈りながら、そっとお兄様の手を取り、キッチンの方角に体の向きを変えた。
・・・お兄様は驚いたよね。
繋いだ手が、ビクッと一瞬引っ張られた。
どんな表情になったのかは、怖くて見られなかった。
---もう、嫌われているかもしれないから。・・・いつもレッドと一緒だったから、素っ気ない態度しかとれなかったし---私、忘れていたなんて、最低だよね。
・・・でも、挽回するって決めていたんだから!
「・・・ああ、勿論だ。とても楽しみだな」
と、静かな声で応えてくれました。
夢の中のお兄様の声とは少し違う低い声に少し驚ろいたけど、夢の中と同じ優しい響きの声だった。
・・・私のお兄様。
---レッドなんて気にせずに、もっとお兄様に話し掛ければ良かった・・・と、目に水が集まってきてしまった。
いかん!感傷的になっては!お子様の身体はこう感情によって揺るぎやすいんだから!
お兄様にこれを見られないように---。
「お兄様に『美味しい』って言ってもらえるように、頑張りますね」
心の汗よ引っ込め!と目に気合を入れて、にっこりとお兄様に微笑みかけるのだ!!
私は頑張るよ!
さて、キッチンに着いたけど。カボチャを取りに行かないと---って思っていたら。
「ぺしぺし!」と音が・・・ココン様が、尻尾でカボチャを叩いていた。2つ程・・・これで十分だね。
『おー流石です。ありがとうございます。助かります』
『我も食べてやる。しっかり作るのだ』
ココン様の頭をナデナデ。・・・食いしん坊さんめ。心得ておりますよ!ちゃんと用意します。
---さて、何を作ろうか?カボチャプリン、カボチャスープ、カボチャのサラダ、カボチャのニョッキくらいですかね?
カボチャの煮物は作れない・・・醤油がないし、これがなかなか難しいのだ。和食の煮物って難しいんだよね・・・手順は簡単だし、材料も難しくないけど、自信作!って味にならなくて、ガックリするんだよね・・・おかしい!
もう一度言っておくが、醤油がないかな作らないんだよ。私の腕前披露できなくて残念です!・・・って事にして置いて下さい。
なので、プリン、スープ、ニョッキ、余ったらサラダかな。
まず、丸ごとカボチャは蒸して柔らかくしなくちゃね・・・電子レンジないから時間がかかるね。
硬いままでカボチャを切ることは、私には難しいし、危ないのでやりません。このまま蒸そうと思ったけど・・・鍋に入りません。
う~ん、---ここは一つ、ココン様のお力をお借りする他ありませんね。・・・魔法使っても良いのかな?まぁ、お兄様しか居ないのだし良いか?!
・・・お父様も知っているからココン様の風魔法を使っても良いよね。
「・・・ココン様、このカボチャの皮を剥いて、6つに切って下さいな」
ぺしぺし、と叩いていた尻尾がピクッと動きを止めた・・・ギロリッて、睨まれた様な気がしたけど、そんな事は気にしないよ~。
だって・・・『怪我したらお料理できません。ご協力下さい』って事ですよ。
『フンッ』って、首を振って顔を背けたけど---尻尾はユラーリと動いている。
「キャロル・・・ココン様に何を・・・」
お兄様は、目つきの鋭くなったココン様を気にしているようだけど・・・。
「大丈夫です。ココン様はお優しいですから」
---でも、ココン様はお兄様の言葉を違う意味に捉えたようだ。
『こやつ---我を見くびっておるな!』
と言って、尻尾をブン!!っと振った。
カボチャの周りに風の渦が巻き起こり、硬い皮が剥がれ落ちる・・・今度は尻尾を振り下ろすと、スパッと音がした。そして、ココン様はピョンと後ろにジャンプ!クルリ一回転しながら尻尾を数回振ってから、私の腕の中に着地した。
「---・・・これは」
と、お兄様がカボチャを触ると、ゴロン・・・と二つのカボチャがそれぞれ6つに分かれた。
お兄様の顔がヒクッとした気がしたが、まぁ些細な事だ。
「流石です!!ありがとうございます、ココン様」
ぱちぱちと、拍手!しようとしたら、腕の中にココン様が居たので無理でした。
窓辺にココン様をそっと置いて---。
「では、お料理を始めましょう!---まずは、カボチャの種を取り除いて、カボチャを蒸します」
種も皮も無くなったから鍋に入るだろう。蒸し器がないから、即席蒸し器を用意します。鍋に張った水が入らないような深めのお皿を置いて、カボチャを入れればいいのだ。・・・カボチャを出す際に火傷しないように気をつければならないけど。
作業を進めていくと、フッと笑みを浮かべたお兄様が手伝ってくれて、ホンワカな雰囲気の中、料理は進んでいく。冷蔵庫から材料を出していく時も、スッと手を出して受け取ってくれて・・・なんだか嬉しくて、ウキウキが増えていった。
「では、本日の食材です!」
生クリーム、砂糖、卵、タマネギ、塩、胡椒、小麦粉、キノコ、緑の野菜・・・ほうれん草がいいかな。
あとは、コンソメスープ・・・作り置きして常備してあるよ。しかも、煮込んで旨みが凝縮されています。料理には欠かせないからね。
料理長に大量に作ってもらったスープを煮込んだだけだけどね。
さて、カボチャが柔らかくなったみたいです。冷めるまで他の作業を---。
スープ用の生クリームの入った鍋、プリン用の生クリームと卵と砂糖のボール、それと、ニョッキ用の小麦粉とひとつまみの塩の入ったボールを用意します。
鍋からカボチャを取り出して、何も入っていないボールに入れます。ココン様!再び登場!!風魔法でボールの中にミニ竜巻を発生させてペースト状にしてもらいます!チョー便利風魔法!!
『我は調理器具ではないぞ!!』
って、不満を言われてもね・・・。
お兄様も微妙な笑顔を浮かべておりますが、仕方がないのです!時短です!ご協力いただかないと、体力が持たないのですよ。・・・時間もかかるし、ココン様のお腹が空いてしまいます。
「お兄様---ココン様はとても凄いのです!魔法が得意で、とても可愛らしい、そしてカッコイイ私の騎士様なのですよ」
ここは、しっかり持ち上げておこう!
『そうであろう!!』
ココン様は、単純だな。よしよし。
「---お兄様は、取ってください・・・次はーーー」
てな感じで作業を進めていきます。
ペーストしたカボチャは、四つに分けて、スープ鍋、プリンのボール、ニョッキのボールに入れます。残りの一つは、味をみてからの調節用です。
「お兄様、これをしっかり混ぜて合わせて下さい」
お手本兼ねて、少しかき混ぜた後、一番体力を使うプリンのボールと泡立て器をお兄様に手渡した。
よし、その間にスープを鍋に弱火でかけて、コンソメスープ入れて塩と胡椒。沸騰する前にちょっと味見してっと・・・こんなもんかな。
次にニョッキだ。しっかりと小麦粉とカボチャを混ぜ合わせて、ひと塊になるように練る。
「・・・お兄様、これを捏ねて下さい」
なかなか力がいるので交代してもらう。
で、お兄様がニョッキを捏ねている間にプリンだ。味見して・・・。
『主、狡いぞ・・・』
『・・・美味しい物を作るのに味見は必要です』
『---味見か、ならば我がしてやろう』
『食べた時の楽しみが減りますけど、いかがなさいますか?』
『・・・早く作れ!』
窓辺で待機していたココン様は、尻尾を一振りして顔の向きを変えて丸まった。
---勝った!
「ふふふっ」
思わず、声を出して笑ってしまった。
だって、ココン様ちょっと可愛かった。
「楽しそうだね」
「お兄様とココン様とお料理できて楽しいです!お兄様も楽しいですか?」
「ああ、私もキャロルと一緒で楽しいよ」
うお!レアだ!!・・・夢の中のお兄様の笑顔だ。ポケッとしていたキャロラインに向けていた笑顔だよ。
今までのは、なんて言えばいいのかな・・・外向け笑顔って感じだったけど---今の笑顔は私だけのものだ。
---お兄様は「キャロル」って、いつも話しかけてくれていたよね。
よし!!残りの作業頑張るぞ!
プリンは、大きいお皿に入れて釜戸で焼く。・・・カラメルソースは作らないで、プリンが焼きあがったら上から砂糖をまぶして再度焼けば良いかな。
プリンを焼いている間に、ニョッキを作る。
小麦粉とカボチャを練った塊を飴玉くらいに切って、フォークで潰して線を付けてから茹でる。・・・浮かび上がったら茹で上がりだ。
ほうれん草、キノコを炒めて塩胡椒・・・生クリームを入れて味見して、カボチャのニョッキを入れて完成だ。
うん。上出来ではないだろうか!・・・生クリームが大量に使われているのが気になる---カロリーがね!乙女の大敵ですよ。言っとくけど、女性は何歳になってもいつも心は乙女なのだよ!だから精神年齢高いだろ!って突っ込みは要らないから!見た目は少女だから違和感ないでしょ!フン!
後は、外で待機しているメイドの三人に配膳を任せて、アルフレッド様とシシリア様を呼びに行く事にした。---お兄様と二人で。
さて、何を話せば良いのだろうか・・・。チラリと横目でお兄様の様子を窺うと、バッチリ目が合った。
思わず互いに、にっこりと笑顔の交換をしてしまう。
・・・情けないけど、私はこんな場合のコミュニケーション能力は持ち合わせてないんだよ。
う~ん、ここは当たって砕けろ!的な?場面では無いだろうか。
・・・ちょっと、お願いがあるんだよね。私は夢の中だけの出来事としてのイメージしか無いけど、本当にお兄様がしてくれていたんだから、ちゃんと体験した記憶にしておきたいのだ。
「あのね・・・お兄様にお願いがあるの?」
私は、恥ずかしくてちょっとモジモジしてしまう。・・・ちょっと私らしくないかも・・・でも、この言葉は少し言いにくいなぁ。
よし!私は意を決し、お兄様を見上げて一気に言い切るのだ!
「お兄様!---お膝に乗せて、また・・・ご本を読んで欲しいの?・・・ダメかな?」
・・・勢いよく良く言えたのは、「お兄様!」って言葉だけだったけど、私は言いきったよ!
---おい!乙女も裸足で逃げ出すよ?って、突っ込みを入れたくなる素敵な微笑みで答えてくれました。
「---もちろん。今度は一緒に読もう。キャロルはいろいろな本を読めるんだろ?好きな本を教えて・・・」
勿論ですとも!うん!今日は良い日だ!




