59.悪役令嬢になりきろう!
『我に美味いものを捧げよ』
テシテシ・・・と、カボチャで汚れた前足で、私の足を叩きながら毛玉様は訴えてきた。
・・・何故に、どーしてこんな事に。
気にしてはいけない、反論したら負けだよね。・・・とりあえず、美味しいご飯食べたいって事だよね。
あまり深く考えると頭痛を起こしそうなので・・・毛玉様を連れて、お父様の所に戻ろうと思います。
・・・ですが、毛玉様を抱き上げようと持ち上げたのですが、---カボチャと泥だらけです。前足の下に手を入れ、毛玉様はプラ~ンと掲げられたままで移動する事にしました。
『おい!もっと丁寧に扱え!』
『・・・抱き上げていくと服が汚れてしまい、毛玉様にお食事をお出しする時間が遅くなりますよ?』
勿論---嘘である。服が汚れても関係ない。服を汚して、洗う人に迷惑がかかるな・・・と思い、毛玉様の扱いがこのようになっただけである。
『毛玉様とは誰の事だ!我の名はそんな変な名ではないぞ!』・・・なんて、声が聞こえるが、空耳だろう。私の中では、毛玉様に決定したのだ。
「では、戻りましょうか!」
---カボチャは、毛玉様を紹介する時に村の人達に謝って、そして「一つ下さい!」とお願いをするとしよう。
うん。それが良い。
クルリと、畑を出ると背後から声が刺々しい声が掛けられた。
「ちょっと、待ってください!」
口調は、普通なんだけど・・・なんだろう。イラッとします。
言葉は普通なんだけど、敵意をビシビシと感じる。
・・・うん、キャロラインになってから、こんなにあからさまな敵意を向けた事は無いから驚きです。
---言っておくけど、昔だってそんな経験ないよ。・・・喧嘩した経験ないし。荒れていた時期もないからね。まぁ、あっても小学生くらいじゃないかな?ちょっと、ムッとして言い争いした時くらいだよ。
『我と契約を契約し、害意に敏感になったのよ』
クククッ、と毛玉様が腹を震わせ笑っている。
ほほおう、このお嬢さんは可愛らしい声とは裏腹に、腹の底で毒づいていると・・・腹黒だという事ですね。
さて、私が呼び止められたみたいだけど、どうしょうかな?
振り返って「ご用件は?」と、お聞きしても良いのだが、ここまで刺々しい感情を言葉にのせた相手の話を聞く必要はあるだろうか・・・?いや無い!
なので、聞こえなかった振りをして、再び歩き出す事にした。
「お願いです、待って下さい」
真後ろから声が聞こえた?と、思ったら目の前に女の子が、私の前に立ち塞がった。
ふわりと軽く舞い上がるピンクゴールドの長い髪が印象的な、緑の瞳の少女が立っていた。
・・・私より年上だな。お兄様くらいの年齢だと思う。
うん。見た目は合格。印象は最悪。・・・私を呼んだのこの子だよね?
---見た目から、この少女があんな刺々しい感じの声で私を呼び止めたとは、考えにくいが・・・?
はてな?と、首を傾げた私に向けて口を開いた。
「その子を返してくださいな。私のです!」
毛玉様を指差し言い切った後、私の手の中から毛玉様を奪い取ろうと両手を伸ばして来た。
勿論、そんな簡単に渡すつもりはない。
ピョンと、後ろにジャンプ。
『毛玉様、このお嬢様とお知り合いですか?』
『・・・我を力尽くで従わせようとした不届き者だ!さっさと廃除するがよい!我が許す』
許す!言われてもね。・・・さて、困った。私は基本、平和主義者なのだよ。
毛玉様は、ご立腹の様だ。---そっぽを向いてしまった。
さて、どうしようかな・・・。
なんて思いながら、じーっと顔を見上げて、睨み合っていると・・・バタバタと人が走ってきた。
・・・見た目詐欺のお嬢様の援軍だ。
「リリアお嬢様!お一人で出歩かないで下さい!」
「リリアーナ様!ご無事でしたか!」
と、二人の男が颯爽と現れた。
お嬢様・・・と呼んでいるんだから何処かの家の護衛かな?
・・・そして、私の腕の中にいる毛玉様に視線が向けられた。
私の腕の中の毛玉様・・・。---服が、カボチャだらけだよ。後ろにジャンプした時に、思わず抱き寄せてしまったから。
「ああ、見つかりましたか」
「その白狼を、渡してもらいたい」
勿論、答えは決まっている。
「私のだよ。この子、私の傍から離れないの。・・・だから、ダメなの---無理やり連れて行っちゃ駄目だからね!」
・・・とりあえず、小さい子供らしく言ってみた。
もう、洋服汚れちゃったから、躊躇なく腕の中に毛玉様を抱き込んだ。
「私のよ!返して下さい!」
リリアーナと呼ばれた少女は、声を張り上げる。
それに、答える様に、二人の護衛は私から毛玉様を取り上げ様とにじり寄ってくる。
「いや!ダメなんだから!」
毛玉様に手を伸ばす腕と、私の腕を掴む腕。
・・・イヤだ!怖い!
「---いや!離して!」
私の腕を掴み見下ろす男。そして目の前に立ち塞がる男に、私は身の危険を感じた。
---いや、誰か!助けて!
男達の腕から逃れようと、体を出来るだけ小さくして、しゃがみ込んだ・・・体が浮かび上がっている。
「---お嬢様、ご無事でしたか?」
声に反応して顔を上げた先には、サイラスさん!私の脇の下に手を差し入れて、ヒョイッと助け出してくれたようだ。
助かった。・・・ありがとうございます。
『我にも感謝しろ。彼奴らが来てから声を風に乗せて運ばせたのは、我だ』
毛玉様も自分の出来る事をした・・・自己申告があった。
・・・原因は、毛玉様なんだけどね。一応、お礼は言っておく、ナイスアシスト!
「お嬢様、何があったのですか?」
私を、三人から少し離れた場所に連れて行き、立ち上がらせる。
「よく分からないわ?多分この子を探していた様なのだけど、この子・・・帰りたくないみたいなの。私の側から離れないのよ?」
毛玉様を下に降ろす。
『私から離れたくないって、行動をして下さいね』
『わかっておる。・・・主の側から離れる等考えておらん』
毛玉様は、私の足にスリスリと体が寄せてきた。・・・まあ、合格点をあげてもいいかな。
「仮に、あの子の家で飼われていたとしても、帰りたくない子を返したくないわ」
そんなこんなをしていると、例の三人がやって来た。
リリアーナと呼ばれる少女を真ん中にして。
「フゥヴ--ツ!」
と、毛玉様が毛を逆立て、三人を威嚇する。
少女は、にっこりと微笑みながら、先程とは全く違う高めの声のトーンで話しかけてきた。
・・・私は耳から聞こえる声のトーンと、直感的に感じる悪意で鳥肌です。
「その子は、わたしが可愛がっているペットです。お返し下さいませ」
・・・威嚇する毛玉様をスルーしたよ。威嚇されているのに、可愛がっていたって本当なの?って、普通なら思うんだけど、「可愛がっている」って言っちゃたよ。
瞳を大きく見開き、いまにも零れ落ちそうな涙をたたえ、両腕を胸の前に組んで訴える。
「その子が居ないと、夜も寝られないのです」
と---。
『此奴は、窓魔道具で我を縛ろうとしたのだ!騙されるでない!』
『・・・騙されませんよ』
はあ~、めんどくさい、猫被りのお嬢様か?!
まあ、私も猫被っているけどね。猫というより、化け猫?!しかも、着ぐるみレベルで!
猫被ってないと、口からは短い単語しか出てこないかもよ?・・・なんて、そこまでは酷くないけど、元子持ちのおばさんが子供の振りしている時点で、化け猫のレベルは超えているよね!
じゃあ、化け猫対決と行きますか?
ならば、此処は悪役令嬢になりきってお相手致しましょう!一度やってみたかったんだけど、お茶会に来る子供達は良い子ばかりで、酷い言葉を言えるわけもなく・・・、そんな機会に恵まれなかった。
チャンスがやって来るなんて!くふふ。
「あら?・・・この子はわたくしの方が良いみたいですわよ?---貴方が引き下がりなさい!」
私は、身分を盾にする令嬢ですよ~。
「---私が初めに保護し、お世話をしていたのです!騎士様、お願いです。お返し下さい!」
「何を仰ってますの?大人しくわたくしの側に居るではありませんか。わたくし、とても気に入りましたの。だから、わたしの物です・・・サイラス、この者達を早く下がらせて下さいませ。この様な下の者に気安く話しかけられたくありません」
プイっと、私は毛玉様を抱き上げ外方を向いた。
「私は伯爵家の者です!お返し下さい」
涙ながらに訴えても駄目だから。残念、伯爵家だからどーした。貴族って明かしたからって渡さないよ?権力で解決するつもりなら負けないし。
「---あら、爵位もちなの?なら、サッサとお下がりなさい。わたくし、貴方の様な方とは親しくするつもりはございませんから。---王都にはいらした事がございまして?・・・わたくしの事を知らない伯爵家の方など、いらしたのですね?・・・驚きですわ」
ニッコリと少女に微笑んだ後、クルリと向きを変え、私は背を向けサイラスさんと向き合った。
・・・少しは、悪役令嬢にみえたかな?
サイラスは、キッと顔を引き締めて、男二人を警戒しているみたいだけど・・・チラチラと、私を見ている。・・・普段の私と違うから対応に困っているみたいだな。
慣れない事をした所為で、緊張して水が溜まった目から水を落とし、怖くはないけど、緊張して震える指先を胸の前で組み、怯える演技をしてみました。
するとサイラスさんの顔が一気に引き締まり、私を背中に隠した。
「お嬢様、ご安心下さい。私がお守り致します!」
わお、効果覿面!サイラスさん素敵です!
私の後ろで仁王立ちしてくれています。流石護衛騎士様、素敵です。
あっ、援軍きた。おーい、ギルベルトさん!た~す~け~て~!
心の中で、ギルベルトさんに手を振りながら、走り寄り、簡単に事情を説明する。
腹ぺこ毛玉様を見付けた事。
懐かれたから連れて帰りたいという事。
元の飼い主さんぽい人が来たのに、私の側から離れない毛玉様を無理矢理連れて行こうとしている事
「ちゃんとした飼い主さんなら帰りたいと思って側に行くでしょう?この子は、怯えているの!だから渡さないで欲しいの・・・お願いギルベルトさん」
ギルベルトさんは、にっこりと微笑んで、「大丈夫ですよ。お任せ下さい」と、サイラスさんの元に向かいました。
ギルベルトさんが、二言、三言、言葉を交わし、二人は戻ってきた。
早いな、何言ったの?
キーッと、ハンカチの端でも咥えて悔しんでいるのか?と、思ってしまうくらいの物凄くキツイ視線が私を睨んでいる。
チロリ、と、ギルベルトさんを見上げると、クスリと頬を緩め教えてくれました。
「侯爵家の領地で騒ぎを起こすとは、何処の家の者ですか?この者達に用件があるのならば、然るべき者から当家に連絡をして下さい。と、お願い申し上げただけでございますよ」
と、にっこり。
えっ、それって・・・。侯爵家の領地で騒ぎを起こすなんてウチより身分が上なのだろうな~文句言えるものなら言ってみろ!
って、感じじゃない?!
・・・流石、素晴らしい手腕です。ぜひ、見習いたいと思います!!
悪役令嬢・・・それっぽくなってるといいなぁ。




