56.当家のお嬢様
ギルベルトさんです。
私の名前ギルベルト、侯爵家の筆頭侍従である。
このお屋敷の主人は、私の幼馴染にして友人で、生涯共にする事を決めた私の無二の親友だ。
このお屋敷に勤め、跡継ぎのカインセミュー様が誕生し、私の息子もギルフォードが誕生し、・・・そしてキャロラインお嬢様が誕生された。
跡継ぎにも恵まれ、可愛らしいお嬢様が誕生し、侯爵家の未来は明るいものと思っておりました。
カインセミュー様は、利発で、物静かで思慮深く、侯爵家の後継として、今後が楽しみなお子でしたが・・・。
キャロラインお嬢様は、---好奇心旺盛と言えば良いのか、キョロキョロと頭を動かし、いろいろな物に興味を示したかと思えば、ボーッとする時間が非常に多く、喜怒哀楽に関して反応があまりない。・・・口元には時折笑みを浮かべる事もある様なのだが、乳飲み子が喜ぶような、音に反応する、ぬいぐるみや積み木などの玩具には興味を持たず、食べ物にも反応が薄いのだ。
・・・それも、1歳になるまでならば、周囲もそれほどに心配する事はなかったのだが・・・それが、3歳の誕生日を過ぎてまで続いた。
何かに反応しては、周囲をキョロキョロと観察し、時折、言葉を発するが・・・赤子にある意味のない発声練習のようなものばかり。時折・・・何かに耳を澄ましているように感じられることもあったのだが、特に行動する事もなく、一日をボーっと過ごしている状態だった。
外に連れ出しても・・・元気に遊ぶような事もなく、---どうしたものか・・・と屋敷中の者達が思案し始めた矢先の出来事だった。
「・・・お嬢様が!お話になりました!!」
と・・・。
しかしながら最初の一言は「「「---よくわかりませんでした」」」と担当のメイドが口を濁し、確認できておりません。
・・・貴重な、第一声を聞き逃すとは何事ですか!
と、私は今も腹立たしく思っております。
それからというもの、今までの生活が嘘のように、めまぐるしくお嬢様を中心に回っていきました。
---丁度、カインセミュー様が、アルフレッド様のご学友として王城での生活を送り始めた時期でもあり、屋敷の中の光が一つ消えてしまったかのように静まり返っていたのです。
皆、声をあげて喜びました。
お嬢様は、今までが嘘の様に、活動的で、利発で、賢いお子様で、皆一様に目を丸くして驚きました。今までは・・・全て、見聞きしたものを蓄えていたのだと、私は感じました。
その上、外にでて遊ぶ事を好まないキャロライン様の肌は、白く滑らかで、光り輝く銀髪・・・透明で澄んだ湖の様な深い青色です。
---とてもお美しいお嬢様・・・将来がとても楽しみです。
そんなお嬢様は、旦那様の書斎の奥の部屋、書庫がお気に入りで、そこで勉強や読書を楽しみながら一日を過ごし、力不足だと思いますが、私の息子ギルフォードと一緒に勉強させていただく事になりました。
そんな心地よい日々を送っていたある日は・・・そう長くは続きませんでした。
・・・外出先で不慮の事故に巻き込まれ、数日寝込むことになりました。
---そして、元気になられた後も、問題は続きましたが、全てお嬢様の手によって速やかに解決されて行きました。
誘拐という、人生最大のトラブルにもご自信で立ち向かわれ、お屋敷に戻ってこられました。
なんて、素晴らしき行動力と観察力でしょう!普通のお子様では考えられません。
そして、クリップ、マヨネスといろいろな事業を成功させてきました。
とても素晴らしい手際です。是非、その手腕で領地を良い方向に向かわせて欲しい物です。
---と思っていた、矢先の出来事です。
「---お父様、冒険者ギルドに行って人生勉強してきます。お仕事をするのです!」
ある日、お嬢様が、突然旦那様にそう宣言をしに、執務室にやってまいりました。
勿論、全力で御止め致しました。
旦那様のお側で読書を楽しまれる様、本を沢山ご用意させて頂きました・・・のですが、あまり読書をされる気分ではなかった様です。
窓辺に置かれた鉢植えではなく、庭師に手入れを頼む予定の萎れかかった鉢植えに興味を持たれたようです。
「---この鉢、私に下さい」
と、私に頼みにいらっしゃいました。・・・旦那様に許可を貰えば良いと思うのですが、お嬢様は部屋の管理をしている、私にお聞きくださいました。
---稀有な方です。
私は、お嬢様の何気ない行動一つ一つが意味のある物だと思うのです。
思わず真意を確かめる為に、『勿論でございます。お持ちください』と言う言葉ではなく、違う提案を致しました。
「この鉢でよろしいのですか?---私がキャロライン様にお似合いの素敵な花をお贈りいたしますよ?」
お嬢様は、表面上は喜んで下さいましたが、すぐ様、お断りになりました。
「---ありがとうございます。お気持ちだけ頂いておきます。・・・それで、こちらの鉢は頂いてもよろしくて?」
何故これ程までに、この鉢を所望するのか、私には理解できません。恥ずかしながらお嬢様の真意を測りかね、私はお尋ねさせて頂きました。
「かまいませんが・・・何をなさるのですか?」
「土を入れ替えようと思いまして---」
ならば、庭師に依頼すればよいのですが、お嬢様の事です・・・他に理由があるはずです。
「土を、でございますか?・・・庭の土をいれるのでしたら、私が庭師に依頼しておきましょう」
私は、お嬢様の真意をお聞きしたくなりました。
「---いえ、庭の土をそのままいれるつもりはないので・・・」
---庭の土ではなく?
「どちらの土をお使いですか?手伝いを手配いたします」
「---手伝いは必要ないですよ?・・・ちょっと池の中の土を掬うだけですから」
池の中の土をでございますか?・・・その様な事、聞いた事御座いません。それに、お嬢様お一人で行うなど危のうございます!
「それでしたら、是非お手伝いいたしましょう!」
私は、許しを請う騎士の様に片膝をつき、お嬢様の手を取りお願い申し上げました。
お嬢様の一日を共に過ごせるのだと・・・喜びを感じました。
---明日は、すばらしい一日になると私は年甲斐も無く胸を躍らせたのです。
翌日、私はキャロライン様が的確な指示を庭師に出すのを傍らで感心しておりました。・・・この様に分かり易い指示をだす子を他に見たことがありません。
私は、池の土を必要としているのか昨晩から気になっております。庭師の作業に目を配らせながら、キャロライン様とのお話させていただきたいと、お願い申し上げました。
「なぜお嬢様は、池の中の土を、使おうと思われたのですか?」
「・・・だって、水の中には、落ち葉が土になったのが、沈んでいるでしょう。それを使いたいの」
---落ち葉が土になる?・・・確かに言われていわれてみれば。ですが、他の土と何が違うのでしょうか。
「他の土と違いが有るのですか?」
「う~ん、いろいろな栄養が沢山含まれているのよ。木の葉を拾って腐葉土にするには、時間がかかるけど、池の中の土はもう落ち葉が土になっている腐葉土でしょう?・・・それにお魚さんや、空を飛んでいる鳥さんの糞尿が含まれているから栄養価が高いと思うのだよね?」
・・・お嬢様は、首をかしげながら、一生懸命に説明をしてくださいますが・・・『腐葉土』とは何でしょうか?とお聞きしたいところなのですが、それよりも気になる事がございます。しかしながら、お嬢様のお言葉から『糞尿』などと・・・衝撃を受けましたが、それは心の奥底に秘めておくと致しましょう。
「---その様な事をどこで学ばれたのですか?」
「・・・えっ?---学んだというか、なんだろう・・・。うーん、部屋から外を見ていて思ったの。お庭の木々は、枝を降ろし手入れをすれば元気に育つのに、花壇の花は土を入れ替えてあげたりするでしょう?・・・鉢植えの花は同じ土ではズーッと育たないからかな?---思いつきだから、説明は難しい・・・」
と、最後は言葉を濁してしまわれました。
そうおっしゃられ、お嬢様は池の中の土と花壇で使われている土を混ぜ合わせ、自ら鉢植えの土と取替えおりました。
お召し物や、手が汚れる事を厭わず、進んで手を動かしていきます。
「---元気になるといいね!」
と言って、太陽の日が沢山当たる窓辺に鉢植えを置き、ニッコリと微笑みを浮かべました。
月の光と星の輝きを集めたような髪をお持ちのお嬢様は、太陽のような輝かしい微笑みを浮かべております。
・・・なんとも素晴らしく聡明で、思慮深いお嬢様なのでございましょう。何よりも、発想が大変素晴らしく、たぐい稀なる才能をお持ちです。
---やはり、その才能を侯爵家の領地でも発揮していただきたい。・・・明日にでも、旦那様にご提案させていただきましょう。
私の気にかかる出来事といえば、ギルフォードとの関係が少しばかり変わってきた事でしょうか。
ギルフォードはお嬢様にお仕えする立場、・・・王立学園への入学を機会に自分自身を見つめ直していかなくてはいけません。---そして、自信で気づかなければならないのです。
お嬢様にお仕えする者として、あまりにも身近で接しすぎたのかもしれませんが---良い機会なのです。
私は、ギルフォードの成長と---聡明すぎるお嬢様の関係がより良いものとなるよう、心を配りたいと思っております。
つたない文章をお読みいただいてありがとうございます。
ブックマーク・・・感謝ですvv
そして話が進まず、すいません。
文中の、ギルベルトさんの息子さんの名前が、ギルベルトになっておりました。ギルフォードに変更しましたm(_ _)m




