53.・・・僕の思い
ギルフォード視線です。
「---はぁはぁ・・・はっ」
もう、どこをどう走ったのか・・・。僕は、このまま---・・・。
そんな最悪な事が脳裏を過ぎった。自分の最後を考えるなんて・・・すべては自分の勝手な行動なのだ。ここで---なんて事は出来ない。
この草原を抜けたら---王都の門だ・・・余計な事を考えるな、---つもりで走るのだ!
込み上げる不安と・・・死の恐怖から、ただ足を必死になって動かした。・・・胃から込み上げてこようとする吐き気を押さえ込みながら。ただひたすらに足を動かした。
静かに迫り来る魔物の気配を背後に感じながら、草原を抜け・・・草原を区切るように茂った木々を走りぬけ、ギルドに登録した者だけが使用する事が出来る門を視界が捕らえた・・・。
---僕は・・・助かったのか。
木々の間から剣を片手に飛び足してきた僕の姿を捉えた門番を担当する騎士が帯剣をスルリと抜き、飛び出してきた。
「---おい!どうしたのだ・・・」
「・・・草原に、蛇の魔物が---・・・」
崩れ落ちそうになった体を騎士が手を伸ばしてくれた・・・と同時に僕の体の力が抜け、視界が暗くなっていった。
バタバタと増える足音と人の怒鳴り声が増えて行くのを感じながらも、次第に遠のいていくのを感じた。
あぁ・・・ただ守れるように、強くなりたかっただけなのに---。
「---おい、しっかりしろ!」
ふと、気付くと何処かの一室に寝かされていた。
・・・この人は、確か---キャロライン様付きの?
「君は、ギルフォード君だったよな?!」
ボーッとした頭で思い浮かぶ言葉を繋ぎ合わせ、知り合いの人と繋がりがある人だと、考えついた。
「そうです---えっーと・・・」
僕が言い淀みむと、直様察した騎士は言葉を重ねた。
「私はレインと言う。妻のジルが世話になっている。以後、見知り置いてくれ」
と少し気恥ずかしそうに視線をずらしながらも、言葉を続けた。
「君の見たという魔物の討伐隊が編成され、ギルドにもランクの低い者の森への侵入が規制された」
と、騎士は---レインと名乗った男は言った。
レインさんの話では、僕の足についた傷跡や地面についた太い筋の後から大型の蛇の魔物だと判断したようだ。
「よく無事に戻り報告をしてくれた、ありがとう。犠牲者が出ないで事が済みそうだ」
と、レインさんは言っていた。
本来、人の住む場所には姿を現わす事のない魔物で、それなりに腕の立つ者でないと討伐は難しいのだと。
「侯爵家に送って行こう。支度をしてくるので待っていてくれ」
そう言うと、レインさんは部屋を後にした。
僕は・・・父上になんて言えばいいのだろうか。誰にも告げずにいた、この行動を咎められるのは明らかなのだから。
・・・---キャロライン様には、なんて言われるのだろうか。
「まあ、しっかり休め。・・・何をそんなに悔いているのか分からないが、ギルフォードが帰って来たおかげで犠牲者がでないで済んだのだから、そう落ち込むな。冒険者は、皆一度は通る道だ。今回は、自分の命だけでなく、他の者の命も救ったのだから」
一言も声を発しない僕を気遣って、レインさんは言葉を重ねてくれるのだが、僕は何も返す事ができず、馬上でなんとも言えずただ、ぎゅっと、口を噤むしかなかった。
「・・・それでは、私はここで」
レインさんは、対応してくれた執事とメイドにそう告げ、館を後にした。「ゆっくりと休め」と僕の頭を撫で、帰って行った。
扉の向こう・・・外にはジルさんの姿が見えた。仕事着で慌てて声をかけている。
・・・もうお嬢様の耳に届いたのか---。なんと思われるのか・・・。
その後、僕は父上に連れられ自室で休む事になった。
母には泣かれ、父には何とも言えない顔をして、無言で頭を撫でられた。
---あぁ、僕は何をしているのか。
バタバタと数人の足音とともに、ハァハァ、と苦しそうな息遣いが聞こえた。
ふと、視線をあげたその先にスカートの裾をたくし上げ、息を切らしたお嬢様がいた。
今にも零れ落ちそうな涙を大きな瞳にためていた。
僕は---お嬢様にそんな顔をして欲しかった訳ではないのに。
息を切らし心配して来てくれたのだと---僕は、心の奥でコッソリと喜んでしまった。
そんな僕は、お嬢様にどう映ったのであろうか?
とてもいびつで、汚れた穢らわしい僕。・・・清らかなお嬢様にはとても似つかわしくないと、・・・わかっているのだ、お嬢様の傍に居るべきでは無いと---それでも傍にと僕は望んでしまうのだ。
その為にも、強く・・・ならなければ。
口を押さえ、涙を堪えるお嬢様を真っ直ぐ視線を合わせる事が出来ず・・・僕は視線を逸らした。
---僕はなんて、見苦しく情けない・・・それでも共にありたいと願ってしまう。
翌日、僕は父上と母上に事情を聞かれた。もちろん、コッソリと冒険者ギルドに登録し、王都の門を出て、ギルドの依頼を少しずつこなしていた事も話す事になった。
「---なぜ、何も言わずに!!」
と、いつもは冷静沈着な父上が声を荒げ、問いただされたが・・・そんなの決まっている。話せば、許可を得られず、常に目を配られ思うように動けなくなるからだ。
そうなるのなら、自分一人で誰にも話さず行動した方がよいと考えた。
---・・・僕はお嬢様をお守りできなかったあの日から・・・剣を習っていた。冒険者ギルドに入り、剣の腕を磨き・・・体を鍛え、必ずお嬢様をお守りすると。
僕は---僕自身がお嬢様を傍でお守りする為に、どうしても---強くならなければならないのだ。
---他の誰かに守れるお嬢様を・・・僕は見たくなかったから。
父上は僕の行動と・・・考えを改めるようにと告げ、仕事に戻っていった。
「---っ、はぁ・・・」
僕は、日課の中庭に足を運ぶ。昨日の傷が痛むが・・・そんな事よりも、こみ上げてくる焦りが僕の心を支配していた。
まだ、足りないのだ・・・全てにおいてお嬢様のお傍に居る為には・・・。
・・・何かに没頭し、この訳のわからない不安を忘れてしまいたかったのだ。
「ハァハァ・・・、せい!」
ブン!と、剣が空を切る音と共に・・・僕はバランスを崩し地面へと倒れ込んだ。
ダメだ・・・もっと強く、強くなりたい。年齢なんて・・・大人にも負けない力を---。
ギシギシと胸の奥が軋む音が・・・僕を追い立てる音に感じた。これから解放されるには・・・只ひたすらに剣を振るい没頭するしかないと---剣を握り立ち上がろうと顔を上げる。
その先にお嬢様がいつの間にか立っていた。
「---・・・お、お嬢様」
「何やっているの?フォードお兄ちゃま?・・・今日はお休みした方がいいよ。---そうだ、一緒にお茶にしよう!」
お嬢様は、そう言うと僕の右手の剣を掴もうと手を伸ばしてきた。
「・・・いえ、僕はもう少し訓練をしたいのです」
僕は、剣を背中に隠すと、お嬢様はむっとした顔で声を荒げた。
「あのね・・・お兄ちゃま。剣の訓練をしたいのは分かるけど、左手の怪我が治ってからにして。骨が折れているのでしょう?・・・右手で剣を振るうからって左手が関係ないなんて事ないのだよ。しっかりと合わさっている骨がズレたらなかなか治らないのだよ。しっかりと休んで治すのも大切なの!・・・ちゃんと自己管理して早く怪我を治して、訓練を始めるのが一番の近道なのだと思うよ?!」
確かにそうなのかもしれないが・・・この胸の奥にあるジリジリとこみ上げる感情が押さえきれないのだ。
「---いえ、僕の事は気になさらずに」
僕は、心配してくれて嬉しかった---でも、お嬢様の手を簡単にとるなんて・・・今の僕にはできなかった。
「・・・それって、私に気にしてもらいたくないって事なの?!」
「いえ、そうではなくて・・・僕は、お嬢様に気にしてもらえるような価値のない必要のない存在ですから」
そう、僕はお嬢様に告げると・・・俯きお嬢様が立ち去ってくれるのを待つ。
僕は---そうなりたくないと思い、剣の訓練をしてきた・・・そう、お嬢様に認めてもらえる程強くなりたい・・・でも、まだまだ足りない。
「ねぇ、それって・・・私は、私と居るには価値のある人だけだって、考えていると人だと言いたいの?!」
そう言った、お嬢様の顔を僕は見ていなかった。
「---・・・僕にはお傍に居るだけの資格がございません」
「---何それ、資格って。・・・フォードお兄ちゃまが、私の事そんな風に見ていたなんて知らなかったよ」
下げていた視線の先に、お嬢様がドレスのスカートを強く握り締めているのが見えた・・・。
はっ、として、頭を上げた。・・・視線の先には、大きな瞳に涙を溜め、きつく口を噤んだ---お嬢様がいた。
「---っ、」
僕は言葉・・・それは僕の勝手な願望で、お嬢様はそんな方ではないのに。・・・何故そんな事を告げてしまったのだ。
ぎゅっとお嬢様は一度目をつぶった後、ニッコリと作り笑顔を浮かべ・・・向きを変え走り去っていった。
---ああぁ、僕はなんて事を・・・僕がお嬢様に涙を浮かべさせるなんて・・・お守りしたい方を傷つけてしまうなんて---もう、僕はお傍にいる事を望んではいけないのだろう。
暴走して・・・こじれました。
ブックマークありがとうございます。一歩二歩とブックマークが増えればいいなぁ・・・なんて思っていたら、三歩四歩とジャンプしたように、ブックマークが増え、評価も頂きました。ありがとうございますvv




