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48.突然の呼び出しに商人は答えを出す

 「それじゃあ、こんなのはどうかな?」


 ランドルフ侯爵様が退出なされてから、お嬢様と私とで何か新しい物を---と頭を寄せ考える。


 ・・・こうして、共に考えるのは、甘やかされているのではないか?!・・・いい年をした大人がと思う所もあるのだが、相談相手が幼い子供とは---なんとももう救いようがない。



「---・・・?これ、どう思う?」


 たまたま、字を書いていた紙の下に硬い小さな物があり、ふとした拍子に擦れ、紙の一部が盛り上がり、凹凸が出来たのだ。



 お嬢様は、う~ん、どうかな?どうなのだろう?と、ブツブツと首をかしげ考え混んだ後、紙の下にクリップ(・・・こちらも只今静かな流行りです)を置いて、ハンカチを手に巻き擦り始める。


 丁寧に擦り合わせた後、紙をひらりと持ち上げる。


「・・・クリップの楕円の形がはっきりと浮き出ていますね」


「なかなかキレイに出来ているよね」


 ・・・これは、何かに使えるか?と、考え・・・首を動かした時、視界に入ったのは、封蝋の押された手紙。


「---紙に紋章を浮き立たせるのはどうでしょうか?紙に家の紋章が、浮き出ていたら、すごいと思います」


 う~ん、とお嬢様があたりを見渡し手に取ったのは、小鳥型クリップのようだ。


 真新しい紙の上部真ん中にクリップを合わせ、再び擦り始める。


「うん、そうだね、これいいね!!」


 ・・・即席試作品だ。鳥の形がシッカリと浮かび上がっているのが、わかった。


「思った以上に・・・良いのでは、ないでしょうか。今までこの様な形が浮かび上がっている紙は見た事はありません」


「・・・良いと思う。でも何を売る?型押しした紙?型?」


「・・・私としては、便箋のように一般的に販売のできる物は型押し物を。・・・紋章は、型押しの型を販売のしたいと考えております。この紋章の型は注文販売にするのはどうでしょうか?」



 お嬢様はこの提案では、納得行かないようで、むむ~と額に指を当て、なにやら考え込んでいる。


「どう言ったところが気になるのでしょうか?」


「・・・う~ん、この作り方だと、紋章の型を渡して実演したら、誰でも簡単に真似出来てしまうよね。

 同じような物を作られて販売されたら売り上げが落ちるでしょ。・・・だったら、簡単にできる事でも製法は秘密。

 少し大変でも貴族から注文が入ったら紋章を型押しして作るほうがいいよ。・・・各貴族の紋章が増えると管理が大変だろうし、型押しする手間がかかるけどね。

 ---紋章以外は、見本を作って好評なら沢山作ればいいし、そこは商人のルーファスさんの腕の見せ所でしょ?」


 と、---口早に説明をされた。


「・・・そうですね、確かに。作り方を知ってしまったら簡単に真似出来てしまいますね。・・・---お嬢様は、とても考えが深くていらっしゃいますね」


 ---この少しの遣り取りでここまで考えを巡らすなんて、とても素晴らしい商才です。






 一週間後・・・再び私はこのランドルフ侯爵家の門を叩く---もちろん、正式に取引が有る訳ではない私は、今回の訪問に掛かっているといっても過言ではない。


 アンリがこの侯爵家に勤めていたと言うだけの縁なのだ・・・次はない。


 試作品の便箋を携えて・・・、裏門を叩く。---できうる限りの準備はした。


 キャロライン様に何を質問されようとも、様々な方面から考えても巡らせてきたのだ。


 ・・・今日、アンリとの未来も、私の未来も掛かっている。



「---本日は、こちらをお持ちいたしました」



 ---私は、黄緑色の便箋に鳥と木を型押しした物と、薄いピンク色の便箋に花と花びらを型押しした物を、ランドルフ侯爵様に見ていただく事になった。


「あとは、こちらを---、この部分にはご注文いただければ侯爵家の紋章を型押しさせて頂きます」


 真っ白い紙の上下中央に紋章を型押しした便箋を容易した。・・・もちろんこの紋章は、どこのでもないどこかの紋章に見えるように作られたものだ。


「---いかがでしょうか」


 キャロライン様と一緒に考案した際よりも、格段に型押しが旨く浮き上がり、全体的に浮き上がっているように出来ていると思うのだが・・・どうだろうか。


 ---キャロライン様のお力添えを無にしないよう、考えてを巡らせてきた。


 侯爵様は、様々な角度から紋章が浮かんでいる様を確認し、ニヤリ口元を上げた。


「・・・うむ、ではこちらの商品を一セットずつ頂こう。---侯爵家紋章の作成も依頼したいが、まずは出来栄えを確認してからだ」


「---ありがとうございます。至急ご用意いたします」


「---あぁ、一ついいかな。この紋章入りの紙は、他家に直ぐには持っていくな。そうだな、しばらくの間は、不明にしておこう。当家に問合せあってから、順次紹介しよう。それくらいの融通は利かせてくれるだろう?」


 その笑みは、何か面白い事を誰にも話さず楽しむキャロライン様の微笑みとよく似ておりました。


 ---侯爵様には、何か面白い事が思い描かれているのだと、私は思いました。



 こうして、私はキャロライン様とランドルフ侯爵様のお力添えもあり、瞬く間に王都に『カメリア商会』の名を広げる事になったのです。






 ヴォルヘール男爵様から急な呼び出しを受け、結婚の許可を頂いた日の午後、私はキャロライン様直々にお茶に招かれていました。


 キャロラン様は、私の様子から何かアンリに報告があると感じられたのか・・・話をする許可を下さったのです。


「---アンリ!ヴォルヘール男爵様から結婚の許可を頂いたよ!」


 私は、アンリの手をとり胸元で握り締め、この喜びを伝えたかった。


「それは・・・良かった。ありがとうございます」


 はにかむ様な笑みを零し、頬を染めるアンリは・・・とても可愛らしい人。


 二人の時間を早々に終え、キャロライン様に報告する。


「---それじゃあ、結婚の準備は私達に任せて?ジルも今結婚の準備中だから、一緒にやるから大丈夫。・・・アンリのお家にも許可はもらっているから心配しないでね?!ルーファスは仕事しっかりやっていて~」


 と---・・・なぜか、キャロライン様にすべてをお任せする事となりました。


「もう、ヴォルヘール男爵様から許可もらっているから大丈夫心配いないでね?!」


 と---仰られました。・・・結婚の許可が降りるのを知っていたご様子で、もう全てがキャロライン様の中で決まっていたのだと、直感的に理解しました。





 結婚式当日---。


 私はまだ、花嫁の姿を見ていない。・・・それ以前に、花嫁衣裳がどういったものになっているのかさえ知らずにいる。


 ---当日、楽しみにしていてね?という、キャロライン様の一言で見ることは叶わなかった。


 今、私の着ている衣装もキャロライン様にご用意いただいた物なのだが---、とても洗練されたすらっと体に沿った曲線が素晴らしい衣装だった。今までに無い発想で素晴らし出来栄えだ。


 数日前に行われたアンリの同僚の結婚式も、衣装一つとっても王都で大変話題となっていのだ。


 今日の私達の挙式も、教会の隣の公園には多くの人々が話題の式を見ようと集まって来ているようで、大変な賑わいだ。


 扉の向こうには、アンリが既に控えている・・・。私の衣装、10日ほど前に行われた、アンリの同僚の結婚式のドレスもとても素敵なものだった。


 この逸る気持ちを持て余しながら・・・扉が開くのを待ち続けなければならないのだ。---できる事なら今すぐにでも扉を開けに駆け寄りたい。


「ギッ・・・ギギッ・・・・・・」


 高鳴る胸を押さえつけながら、扉に向こうに立つアンリの姿に・・・眼が釘付けとなった。


 アンリは、ふんわりとした真っ白いドレスで身を包み、胸元は柔らかな印象づける大きなリボンで覆い隠し可愛いドレスで現れたのだ。

 教会の天井から差し込む光が、ドレスの上に薔薇の模様を浮かび上がらせている。


  今迄、この様なドレスを見た事がない・・・なにより、アンリの清楚で可愛らしい印象を引き立てていた。


 ---ああ・・・神よ。アンリとの出会いに感謝申し上げます。










「あの衣装は、キャロライン様が?」


 新居に移動し一息ついた私は、珍しい白色合いのドレスについてアンリに尋ねた。


「はい、・・・ルーファスさんは、白色にどんな印象をお持ちですか?お嬢様は『純潔』『無垢』『純真』・・・『乙女』だと。その様な事を思い浮かべるようで、・・・他にも何か隠した意味あいがある様なのです・・・が・・・」


 と、視線をずらし言葉を濁した。



「お茶をお出ししますね・・・」

 と、逃げるように部屋を後にしたテーブルの上には、私宛の手紙が置かれていた。


 ・・・キャロライン様からだ。


 首を傾げ、中を確認する。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ねぇ、白ってどんな色にもなるよね?


 結婚式のドレスで白を着るって・・・・どんな意味かな?

 白のドレス着て結婚するんだよ?!

「あなたの色に染めて」って意味になるんじゃない?!

 男のロマン?どう感じる?!

 ・・・染めてみたいでしょ?!


 ・・・アンリこの手紙を見せるかは、自己判断で宜しくね。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 キャロライン様は本当に、4歳なのだろうか?

 いやそれ以前に・・・成人男性のような発想をしているのはどういう事か---?


 全く底の見えない・・・想像の斜め上に行き過ぎている、とはキャロライン様のような方を言うのではないだろうか。


 テーブルに手紙を置いたまま、深く息を吐き出す。


 お茶を用意しアンリがやってきて、広げられた手紙の中身を読んでしまったようだ。


「---・・・お嬢様、何て事を・・・」


 羞恥からか・・・顔を真っ赤にして、うつむき加減に私を見つめる姿かとても可愛らして・・・腕を引っ張り、胸に顔を押し付ける。


「私もアンリの色に染めてもらいたい・・・んだけどね」


 と、額に口付けをし、ほぉっ・・・という吐息をそっと塞ぐ事にした。


・・・主人公を成長させてみようかと。

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