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47.突然の呼び出しに商人は戸惑う

ジルの結婚式から半年程前に遡ります。

 「お待ちしておりました、ルーファス様」


 「よかった、アンリが出迎えてくれて」


 私は、ランドルフ侯爵家の裏門をくぐり抜け、裏口の扉を叩くと、見知った顔が出迎えてくれた。


 緊張で強張った顔が、ホッとゆるむ。


「私が案内を仰せつかりました。どうぞこちらへ」


 いつも柔らかで、丁寧な口調のアンリだけど、今日はいつにもまして侯爵家のメイドなのだと感じされる静かな佇まいだった。


 ---職場のアンリが見られるなんて、来て良かった。


 侯爵様に何を言われるのかはわからないが、ここを訪れた甲斐があった。




 この裏口を通れるのは、侯爵家と取引のある、いわゆる御用達と言われる商家だけだ。


 ・・・残念ながら、私にはその力がない。主力となる逸品がない、様々な物を販売しているので、一般的な商家よりは大きいのだか平凡な商家なのだ。


 その為、婚約をしたアンリの実家である男爵家から良い返事を得る事が出来ないでいた。


 そりゃそうだろう、商売で男爵の爵位を賜る事が出来る実力あるヴォルヘール家だ。私の様に平凡な一商人に可愛い一人娘を簡単にやれる訳がないのだ。


 ・・・よく考えれば分かることだったのだが、だからと言ってもう後戻りできない。アンリを諦めてしまう事など考えられない私にはその選択肢はないのだ。


 私がこの侯爵家に招かれたのかは何も聞かされていないのだが、この機会を逃してはならない。


 出迎えてくれたアンリの姿に、ホッと一息つくも、私はグッと腹に力をいれ、ここはひとつ踏ん張りどころなのだと、気を引き締める。






「ランドルフ侯爵様、お初にお目にかかります。カメリア商会のルーファスと申します。本日のわたくしをお召し頂きましてありがとうございます」


 ゆっくりと丁寧な所作で---アンリに言われたていた事を心掛け挨拶を・・・した。


 頭を上げたその先に、小さな銀髪の女の子が挨拶をした侯爵様の膝の上にいつの間にか、ちょこんと座っていた。


 ---あの女の子は・・・この前の。


 目を見張る私に机を挟んだ向かい側から可愛らしく手を振っていた。


 つられて上げかけた手をギュッと握り締め、ニッコリと微笑んで応える事にする。


 あの、笑顔につられ手を振ってはいけない・・・侯爵様の膝に乗っているという事は、侯爵家の人なのだ。


「先日は、きちんと挨拶もせず失礼いたしました。ルーファスと申します」


「ご丁寧にありがとうございます。キャロラインです」


 ぴょこんと、膝の上から飛び降りスカートの裾を軽くつまむとペコリと頭を下げた。


 私のような者に淑女の礼はおやめ頂きたい・・・何とか浮かべている笑みが引き攣りそうだった。


「今日、この場に呼んだのはキャロラインなのだ。私は補佐に回るので二人で先ずは話すといい」


 と、ランドルフ侯爵様は今の場所に深く座り動くつもりがないようだ。

 侍従が静かに動き、慣れた所作でキャロライン様をソファーに着かせる。


 私も勧められるがままに向かい側に座る。



「今日ルーファスさんをお呼びしたのはアンリとの結婚についてです。アンリのお家から許しが出てない事について実は聞いてしまったのです。だから、お父様にお願いして、今話題の『マヨネーズ』販売してみませんか?」


 お嬢様は、身を乗り出し、キラキラした瞳で私を見つめる。


 ---今話題のマヨネーズ・・・確かに喉から手が出る程、販売権利が欲しい。


 このマヨネーズを食す為には、ランドルフ侯爵家に招待されるか、マヨネスの配達弁当を依頼するしかない。


 様々なところで、まがい物を販売しているが、マヨネスのマヨネーズを食べると・・・なんとか真似ているというのが分かるのだ。


 販売権を得る事ができたならば・・・莫大な利益を得る事できる。


 ---・・・たが、アンリの結婚の後押しの為に権利を貰い受ける・・・それは、アンリの幸せを願うヴォルヘール男爵家の意に反しているのではないのか・・・と。


 押し黙る私が口を開くのを、静かに待つキャロライン様・・・私は、意を決して口を開く。

「大変有り難いお言葉、ありがとうございます。感謝いたします」


 と、私は頭を下げる。


「---じゃあ、販売を(お願いしますね)」


 と続くであろう、お嬢様のお言葉をさえぎるようにして、私は言葉を発した。


「いえ、お断りさせて頂きたいと思います」

 と---。


 お嬢様は、何故?という首をかしげていた・・・。


「アンリさんとの結婚の許可が下りないのは、将来を不安におもう親心だと私は思うのです。今日この場で、お嬢様や侯爵様のお言葉に甘えてしまって良いものではありません。・・・ですから、私自身の力で結婚の許しを得られるようにしなければならないのです」


 ---・・・言い切った。お嬢様の言葉をさえぎるなど許される行為ではないのだが、ここではっきりと言ってしまわないと、話が進んでは困るのだ。


 私は、そう言い切ると、静かに頭を下げた。


「ルーファスさんはそう考えるんだね~・・・でも、それだとアンリの結婚いつになるかわからないよ?それでもいいの?---男爵家が、他の結婚相手見つけてくるかもしれないし?」


 キャロライン様は、私が不安に思い、あせると内容を畳み掛けるように綴る。


 ・・・それは、重々承知しているのだ。だからといって、胸にのしかかる重い息苦しいドロドロとした感情に流される訳には行かないのだ。


 ふぅ~・・・と静かに息を吐き、うやむやにしたままではなく、アンリのお使えするキャロライン様にもご理解いただけるように勤めなければならない。


 ---アンリの為にも・・・今後の私達の未来の為にもだ。


「---確かに、キャロライン様の仰せのとおり、先の見えない不安ばかりです。・・・ヴォルヘール男爵様のご意向もはっきりとお聞きしたわけではございません。---ですが、見えない不安をどうこう考えるよりも、アンリと自分自身の為に---今、できうる限りの事をしたいと考えております」


「---・・・そう、それでも私の提案は受けないの?」


 キャロライン様は、しっかりと私の言葉を受け止め、考えた後・・・そう言葉を発した。


「---申し訳ございません。自身で作りあげたもので無い物で、結果を出してもヴォルヘール男爵様を欺いた事になると思うのです」


「---そう、分かった。・・・・お父様!私の言ったとおりでしょ?しっかり聞いていて下さいましたか?」


 ふふふっ~・・・と楽しそうに、お嬢様はふにょふにょと口元を緩ませている。


 ---・・・どういう事なのだろうか。


 侯爵様の後ろに控えていた侍従が、静かに動き出す。奥にある扉を静かに開いた。---そこには。


「---・・・ヴォルヘール男爵様。聞いていらしたのですか・・・」


 私は無作法にも、目の前にテーブルに足をかけ、ガタリと音を立て、腰をかけていたソファーから立ち上がってしまった。


「・・・ああぁ、すまなかったね。---しっかりと君の・・・心の内を聞かせてもらった。---・・・ランドルフ侯爵様、キャロライン様、本日はありがとうございました。とても有意義な時間となりました。・・・ご助力感謝いたします。・・・それでは、わたくしは失礼させていただきます」


 と、侯爵様とキャロライン様に挨拶を済ませ執務室を出て行ってしまった。


 ---・・・これはこのまま、私が居るべきなのか?!追い掛けるべきでは・・・。


 困惑気味の頭を目一杯活動させるが、なんともいい案はでない。・・・私は、平静を装って笑みを浮かべるに勤めた。


「---じゃぁ、ヴォルヘール男爵に任されたという事で・・・何がいいかなぁ~」


 と、キャロライン様は、さも楽しそうに口元を上に上げ、ニッコリと微笑まれた。


 チラリと、侯爵様に視線を向けるが・・・さも愉快そうに、こちらに視線を向けられているだけだった。


「---大丈夫、悪いようにはしないよ?」


 と、いたずらが成功した後の様な得意げな顔をし、怯える子犬を宥める様な笑顔だ。


 ・・・残念な事に、子犬とは私の事だが。


「---っ、ぶはっ!・・・程ほどにするように」


 ・・・侯爵様のしっかりと結ばれていた口元から、噴出す笑い・・・と、告げられた言葉。

 やはり---わたしは遊ばれているのか?


「すまないが、一度席を外させてもらうよ」


 私の困惑を他所に侯爵様は執務室から出て行かれた。


「---じゃあ、始めようか?」


 そういって、お嬢様は身を乗り出してきたのだ。


 アンリから、聡明な思慮深いお嬢様だとは聞いてはいたが---これは予想を上回り過ぎている。




 ・・・あの日、出会った小さな女の子は、自身の行動だったのだと---末恐ろしいものを感じた。


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