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45.一介の騎士は戸惑う

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 お仕事お疲れさまです。

 今日は夕方には、お仕事が終わる予定ですよね?

 お仕事後、私の勤めているお屋敷の隣の公園でお待ちしております。

 私、待っていますから・・・必ず来てくださいね。

 他の人とお約束しないで下さいね?!

 ジルより

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 突然やって来た配達弁当屋の子供から渡された手紙・・・恋人のジルからだ。

 これといった内容ではないのだが、・・・なんだかいつものよりも丁寧な文面だなと、苦笑いをしてしまった。


 手紙は数回しかもらった事はないが、いつもより畏まった印象をうける。


 筆跡は確かに彼女のものの様だったのだが、先日も休日を共に過ごした時は、何も言っていなかったはずだ。


 ---いつもは無い急な呼び出し。

 ・・・仕事の日は、ジルは会う事は出来ないと話していたと思うのだが?

 呼び出し場所が、職場の近く・・・という事は、短時間で話しを済ませてしまいたい、そんな内容なのだろうか・・・?


 ----俺、何かしたか?・・・嫌われるような事はしてないと思うのだが---もしかしてジルに他の男が言い寄っているのか?!---でもこの弁当はジルからの差し入れだし・・・あー分からん!!


 今日は、通常訓練と街中の見回りと武器庫の整備など各所に提出する書類と格闘し、急ぎ仕事を終え待ち合わせに向かう。


 街中を早足に通りすぎようと路地を横切ると、花売りの子供が目に付いた。きびすを返して花売りの子供に駆け寄る。


「---、花を一つもらおう」


 ・・・何の話だか分からないが、昼飯の礼は必要だな。


 ---折角、恋人に会える機会なのだから、花束の一つくらいどーって事はない。






「---あれ?メイドの服?!話があるって・・・まだ仕事中?」


 手に持った花束が行き場をなくし、腕が下に下がる。


 初めて見るメイドの仕事着に惑い、支離滅裂な言葉を発した俺に・・・ジルは、仕事のできるメイドさんらしく、ニッコリと微笑んで普段とは違う口調で俺に告げた。


「お待ちしておりました、レイン様。突然のお呼び立て申し訳ございません。わたくしの主がレイン様にお会いしたいと申しておりまして、ご迷惑かとは存じますが、当家までご足労くださいますようお願い申し上げます」


 と静かに、頭を下げた。


「---えっ?!どういうこと?」

「・・・どうぞ、こちらへ」


 混乱中の俺を軽く受け流し、ジルは普段会う雰囲気とは全く違う所作で、俺を馬車に乗る様に促した。


 とても楽しそうに案内をしてくれる姿に俺は、ジルに遊ばれいるのだと思い、諦める事にしたのだが・・・。




 ---、なんで正門!


 馬車通り抜けたのは、ランドルフ侯爵家の正式な表門だ。

 確かにジルは、こちらのお屋敷でメイドをしていると聞いてはいたが、俺がこの門から入っても良いのか!?と、身を縮こませたのをジルに見られた。


「主からの、正式なご招待でございますので」

 とニッコリと微笑む。


 ---ここで、不様な格好は見せられない。


 ひっく、と頬が引きつったが、一応笑い返す。


 ・・・普段とは全く違う雰囲気を醸し出し、まるで、別人の様だ。


 ---やはり、俺には高嶺の花なのかもなぁ・・・と少し気持ちが沈む。


 そんな感情と共に、どうにでもなれと、腹をくくる事ができた。


 静かに、屋敷の正面に馬車が止まり、扉の大きさにたじろいだ。


 ・・・ヤッパリ腹はくくれていなかった。


 静かに扉が開き、エントランスには執事さんが挨拶をしてくれたが、何をどう答えたのか、よくわからず、ジルの後をついて歩いた。


 下町騎士がこんな待遇を受けても良いのだろうか!


 とグルグルと目の回る状況が続き、一つの扉の前でジルが止まった。


「こちらで、主がお待ちかねです。お入り下さい」


 と軽くノックをした後、扉を開けた。





「お疲れ様、ジル。ここに座って?」


 長椅子の中央に座る子供が居た。両端にメイドを座らせ、右側に寄り掛かり座る良いとこのお坊ちゃんらしい男の子供が---いた。


「パタン」

 と静かに扉を閉め、ボーゼンと突っ立っている俺の横を通り、子供の隣に座った。


 ---なっ、何しているんだ!


 事もあろうか、俺のジルの膝の上に横乗りに座り直し、後頭部を胸の谷間に預けたのだ。



「---なっ・・・、---」

「静かに---」

 ジルは声を上げ、抗議をしようと口を開いた様だが、何かを告げ言葉を遮っていた。


 早く降りろよ、このクソガキが!


 俺はここが侯爵家だという事を忘れ、ギロリと睨みつけていた。クソガキはニッコリと笑顔を浮かべた。


「ねぇ。ジルと騎士さんの関係はどうなっているの?」


 クルリと、顔の向きを変えジルの顔を見上げる。


 おい、何やってくれているのだよ!俺だってまだそんな事---いくらガキだからとはいえ黙って見ていられるか!


 俺は思わず、ジルの手を引き抱き寄せていた。


「---俺のジルに触るな!クソガキ」


 と、思わず言ってしまった。


「---うわぁ!危ないなぁ、落ちる所だったよ」

 クソガキは、抗議の声をあげたが、転げ落ちるどころか、隣に座るメイドに抱きついていた。


 ---エロガキか!?



「---お兄さんの口から、二人の関係を聞かせてもらいたいと思ったんだけど、今の所は、保留でもいいや。関係を変更するなら報告してね?」


 そう言うと、ガキは、ストッと立ち上がり、俺に向かい芝居がかった動作で一礼した。


「レイン様、急にお呼びだてして申し訳ございませんでした。---こちらにお茶をご用意してありますので、今暫くお待ち下さい」


 と、部屋を出て行ってしまったのだ。


 ・・・おい、今のはなんだ?


 訳もわからず、ポカーンとしてしまった俺の瞳にジルが映った。


「---大丈夫か?」

「・・・うん、ありがとう。---それと、ごめん。たぶん、後で怒るかもしれないけど、嬉しかったよ」

 と、少し困った様な、はにかんだ笑顔を俺に向けた。


 ・・・.ごめんって、何が?!


 困惑中の俺をよそに、ジルはお茶を入れ始め、俺に側の椅子に座るように勧めた。


 ジルの入れてくれたお茶を一杯飲み干す頃、再び扉が開いた。





「お待たせ致しました、レインさん。本日はご足労頂きましてありがとうございます」


 と、俺の目の前に来て静かに頭を下げる小さな銀色の髪のお嬢様。・・・横にはさっきと同じメイドが立っていた。


 あのガキは、どこに行ったのだ?


 俺のそんな疑問をよそに、目の前のお嬢様は椅子に座る。


「先程は、失礼致しました。キャロライン・ランドルフ申します、以後お見知り置きください」


「本日は、お招き頂きましてありがとうございます。警邏隊所属のレインと申します」


 おいおい、侯爵令嬢に馬鹿丁寧な挨拶されちまったよ---とたじろいだが、平常心を装い、どーにか俺も名を名乗った。


 可愛らしい女の子思わず頬が緩むのだが、この子の言った言葉に思わず疑問を口にしていた。


「.・・・先程と言うのは?」


 女の子は、こて?と首を傾け暫く考えた後、ゆっくりと口を開く。


「『俺のジルに触るな!クソガキ』のクソガキです。あんなセリフ言われて守られてみたいね~?---ジル。あっ、でも他所では、気をつけてね。・・・そんな事にはならないといいけど」


 さも楽しそうに俺の口真似をしながら、そう答えた。


 ---同一人物か?!


 先程の男児と、目の前の女児を比べる。確かに同じ様な体格、髪長さと色が違うくらいか。

 服と色の違いでこうも分からないものなのか?!


 ふふふふふっ、お嬢様とジル以外の二人のメイドが、含み笑いを浮かべ、とても楽しそうに居た堪れない俺達を見ている。


 ---遊ばれている?ここで?!


 ガックシと力が抜けた。


「本日お越しいただいたのは、先日、当家にご助力頂きました事の御礼を申し上げたいとキャロライン様が・・・。ご迷惑だと申し上げたのですが・・・」


 と、本当に困ったお嬢様です・・・と、ジルが声を掛けてきた。



「え~・・・、感謝の言葉は自分で言わないとダメでしょ?それに、ジルの彼氏さんに会いたかったし」


「昼間、会っていますよね?!呼び出す必要ありました?」


 ジルが、お嬢様に息つく暇も無く、畳み掛けるように言葉を発していた。


 えっ?昼間・・・お嬢様には会ってない---けど?


 クエスチョンマークが、俺の頭の中に浮かび上がったのに気付いたのか、お嬢様が俺に追い打ちを掛けた。


「あれ?ヤッパリ気付いてない?!『初めまして、配達弁当屋のマヨネスのアキラと申します。本日は、ジルさんからのご依頼でレインさんに昼食をお届けに参りました』って覚えています?」

「あー、お前!」


 思わず指差した俺の指をつかさず掴み、ジルは下におろさせる。


「お嬢様を指でささないで下さい」


 ・・・はい、すいません。


「あはは~。ジルとレインさん面白い!ヤッパリ今日呼んで正解だったなあ~うんうん」


 と一人納得し、満足気だ。


「では、改めまして---レインさん、その節は当家に有益な情報をお持ち頂きましてありがとうございます。こうして、無事に戻る事が出来ました。感謝いたします」


 と、お嬢様は静かに頭を下げた。


 ---確かに、ジルの話だと4歳だって言っていたと思うのだけど、本当に4歳か?!体の大きさは確かに、そうかもしれないが・・・。


 思わずマジマジと上から下まで視線動かした・・・と言っても、テーブルから見えている部分だけなのだが---。


「お嬢様を不躾に見ないで下さい」

 と、正面に立つメイドさんに注意された。


 ・・・ほんと、すいません。と身を縮こまる思いだ。


「でも、あ~ほんと面白い。また呼ぶから来て欲しいなぁ。次は休みの日にゆっくりと、ダメ?」


 ギョッとした俺の反応をみて、クスクスと笑いだす。


 も~好きにしてくれよ・・・。


「別にレインさんで遊ぶつもりは無かったんだよ。御礼を直接言いたかったのと、いい機会だからジルのお付き合いしているレインさんがどんな人なのか見てみたかっただけ。気にしないで?---あと、お弁当の率直な感想が聞きたいな?」


 と・・・。


「えーっと、後は弁当の感想ですか?」


「・・・お口に合いませんでしたか?」


 ---そんな事はない!!今まで食べた事のない弁当で!!周りからジロジロと見られ、横取りされそうになるのを必死こいて守り、食べたのだ。・・・試食がなければ、俺の腹には半分も入らなかったであろう。

 あの騒ぎを思い浮かべ・・・思わず苦笑いをしてしまった。


「---いえ、大変おいしく頂きました。ですが、周りから奪われそうになりまして、---出来ればじっくりと味わいたいと思っておりました」


「---周りの反応は好評だった?明日も持っていってみようかな?・・・みんな買ってくれるかな?」


 口元に幼い指を当て考え込むキャロライン様---俺っ、こんなに小さい時何も考えずに生きていたと思うのだけどな・・・・やっぱり侯爵家となると出来が違うのか!?と貴族とは大変な生き物なのだと・・・思った。


「明日から有料だけど、レインさん注文する?それなら、今聞いておくけど・・・?必要ないなら、そういってくれていいよ」


 ---そんな気を回してくれなくても、『マヨネス』の注文方法を聞いて来いと同僚に言われているのだ!こちらから是非ともお願いしたい。


「いえ・・・実は同僚達から、どこに注文をすればいいのか聞いてくるように言われていまして、、、助かります。特にあの黄色い色のソースがとても気に入りました!!」


 ---と、思わずソースの感動を力説し、今日弁当を味見した連中の話をすると、何故かとても渋い顔をしたキャロライン様と・・・そうそうと頷く納得のメイドとに別れていた。


 ・・・俺、何かまずい事言ったかな。


「失礼しました、ついあのソースの感動が!注文・・・20個程大丈夫でしょうか?」


 はぁ~あ・・・と深い溜息をついた後、キャロライン様は、一通の手紙を俺に託す。


「・・・これ、警邏隊の詰め所にいる一番偉い人に渡してもらえますか?渡すのは---明日で大丈夫ですから」


 ランドルフ侯爵家の正式な書面・・・それを俺に託すのか!?


 ---今日これから飛び出して届けに行きます!と叫びたくなったが、明日でもいい・・・という言葉を無視して飛び出すわけにもいかず、俺はその言葉を飲み込んだ。


「もっとお話していたいけど、お互いに時間も時間だし?別室に夕食を用意してあるから、ジルと二人で食べて帰って。帰りは馬車でジルに遅らせるから---じゃあジル、また明日。後はよろしくね」


 と、この場はお開きとなった。





 その後、ジルに連れられ、屋敷の敷地内にある小さな赤い屋根の家に行き、パタリ・・・と扉を閉めると同時に、椅子にダラリ・・・と倒れるように座り、手に持っていた物を机の上に置いた。


「---疲れた。マジ・・・勘弁。---ありえない!!」


 そんな俺を尻目に、ジルは用意されていた夕食を準備して、何事も無かったかのように「食事をしましょう」と声を掛けてきた。


 ご好意に甘え、俺は旨い料理と終始にこやかなジルに疲れた心が癒されたのだが・・・重くのしかかるこの手紙!


 俺は、馬車で自宅に送ってくれるというジルの申し出を断り、帰宅前に警邏隊長の下に向かおうと心に決めていた。


「本日---お手紙も届けますか?馬車を走らせる許可はもらっていますので大丈夫です」

 と、ニッコリとジルは微笑んでいた。


 ---助かります。俺がこの手紙を届けるなんて、荷が重過ぎる。


 机の上に無造作に置かれた、掴んでいた茎と巻いてあった紙が皺くちゃになった小さな花束が目についた。


 ---俺、これを握りしめたままで居たのか、なんかもの凄くマヌケじゃないか。


 はあぁぁ~ため息と共に前髪をグシャリと掻き揚げ、肘を机についた。上げた腕の向こうには、ニッコリと微笑んでいる彼女・・・。


 俺には出来過ぎた人だ・・・何よりも護りたいと想う人---あんな子供に思い知らせられるなんて、癪だけどな!


「---あぁ、そうだった。---これ、ジルに。持ってきたのだけど」


 少し萎れかけた花束を大事そうに受け取り、笑みをこぼす。


 ・・・あの子供に踊らされるのもなんだが、乗ってみるのも悪くわないかもな。


「もっと違う場所で・・・いつかは、考えていたのだけど、こんな俺だけど---予約してもいいか?近いうちに必ず申し込むから・・・」


 多分、今の俺の顔は真っ赤であろうが、何だっていいのだ。


 ジルの喜ぶ顔が一番だからな。


 彼女は、今日一番の笑顔でコクリと頷いて小さな震える声で返事をしてくれた。


「---はい、お待ちしております」


 と---。






 やはりできるメイドのジルは、警邏隊長の自宅を調べており、何も言わない俺を馬車に乗せ連れて行ってくれました。


 ・・・しっかり者で頼りになる。


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