36.間違えに気づきました・・・
「おい!あいつだ、奴も捕まえろよ」
誘拐犯AとBの護送を担当している警邏隊の騎士さんがレッドの従者さんと話をしていると、小窓から外の様子を見ていた誘拐犯の一人が騒ぎ始めたのだ。
あ~あの馬車にも小窓が空いていたんだね。無理やり外の様子を見ていた誘拐犯Aがガイを睨み付けながら、大声をだす。
「あいつだ!御者の隣にいる男だよ」
騎士たちと我々の視線を、集めたのを見計らうと再度声を張り上げたのだ。
「お前一人、逃げられると思うなよ!おい、あいつも捕まえないのかよ!」
と、声を荒げて護衛に当たっている騎士達を焚きつける。
騎士達は顔を見合わせた後、ガイに視線を投げかけた。
『ひめさま~。大人しくしてろ!って、伝言だよ~』
『・・・状況によりけりです』
そんなの守るわけ無いじゃん!周りの状況によって動くよ!ガイが、捕まるなんて私が耐えられない。ランセイから受け取った伝言も、そう一言返事をする。
私の不注意でこんな事になっているんだから、自分の不名誉なんて実際のところどーでもいいのだ。お父様と家の名誉が・・・なんて事を一応気にしてコッソリ帰る事にしたんだけど---そんなの事よりガイなのだ!
私はジッと外の様子を、馬車の窓から覗く。
シシリア様はここぞとばかりに、「怖いですわ~」と、レッドに抱きつく。
ホント、公爵家令嬢なのに、何にも考えてないんだ・・・ほんと羨ましいというか、なんと言えばいいのやら。
馬車の中ではそんな茶番劇を繰り広げている二人は無視する事にする。
「ギシッ」
・・・と私の乗っている馬車が揺れると、ガイは御者台から飛び降り、騎士達の前に飛び降りた。
「何か問題がございましたか?」
何事も無かったかのように、レッドの従者さんと騎士さん達の前に立つと、皆は顔を見合わせると騎士の一人が口を開いた。
「あ~・・・、我々が捕らえたならず者がお前も仲間だと言い張っていていな---、こちらの馬車と行動を共にしている以上身元に問題はないと思うのだが・・・話を聞かせてくれないか?」
騎士さんは、気が進まないが・・・といった様子で話を切り出した。そりゃそうだろう、この国最高権力者の息子の乗った馬車に同乗を許された者を疑って何になるというのだ。相手の身分が高い可能性があるし、下手したら不敬罪に問われる恐れもあるのだ。・・・できればそんなリスクは背負いたくないよね。
「よろしいですよ---」
と、ガイは営業スマイルです。
「まずは、身分証明の提示---それから、旅の目的と、どこの町からどこに向かっているのか答えてくれないか?」
ガイは、ギルドカードを騎士に手渡した。
「この国の一番端の街・・・イルルの町から王都に向かって旅をしています。私の弟が・・・ギルド登録をしたので、手紙配達という依頼を達成する為なのです」
そう言って、馬車の小窓から顔を出している私に向かって、軽く手を振って見せた。
私もつられて、手を振り返す・・・なんとか誤魔化せそうで安心した---。
「騙されているんじぇねぇよ!!そんな年の離れた弟がいるなんざぁ聞いたことがない!!」
Aが吠えているが、知った事ではない・・・だが、次の一言で騎士達は動かざる終えなくなったのだ。
「---言っておくが!お前達の探しているお嬢様が見つからないのは、そこにいる男の所為だと俺は思うぜっ。このまま逃してお嬢様が悲惨な結果になっても、俺達の所為じゃない!!」
その言葉で、周囲を警戒していた騎士達の中で・・・多分我が家で雇われているであろう護衛騎士達の空気が---変わった。
静かにガイの周囲を固め、Aからの決定的な言葉を待つようだった・・・それが嘘や誤魔化しであっても、動く為の言葉が必要だった。
「---俺達はなぁ、お嬢様の洋服と髪を売って金にしたが、そいつは金も受け取らずにどこかに姿を隠したのさっ、俺が思うに・・・あんた達のお嬢様のとこさぁ~・・・その後あいつがどんな事をしたのかは、知らないがな!!もう冷たくなって土の中にでも埋まっているんじゃないかぁ」
Aはさも楽しそうに、暴言を吐いていた。
何たる侮辱だ!!お前がやりそうな事を下衆な考えをぶちまけただけじゃないか!!思い違いもいいところだ。・・・そんな事を思ったのは、私だけだったようだった。
騎士達は、ガイの周りを取り囲み始めた・・・。ちょっと、犯人だと決まった訳じゃないのに、暴力を振るわないよね?!
「この期に及んで嘘はいわねぇよ!!」
ガイのギルドカードを確認した騎士が口を開いた。
「---と言っているが、どうなんだ?」
「そう申されましても、私は幼い弟と共に旅をしているだけですので」
もう、埒が明かないので、どうすればいいのやら・・・騎士達がどちらの言い分を信じるのかって話なんだろうけど---犯罪者の言い分でも証言を一切信じないでいると、私が行方不明のまま・・・しかも4歳児なので、生存確率が下がるので殺気立っていても致し方ないのか・・・?
どう考えても、4日・・・は経過しているよね、閉じ込められていたり、森の中一人だったりしたら、衰弱・・・最悪凶暴な動物に襲われ・・・なんて事を考えているに違いない。
---でもさぁ、捜索中の私はここにいるのだから、そんな殺気立たなくても・・・なんて思ったが、私とガイ以外の人達はそんな事を知らない---一刻も早く助け出そうとしてくれているのに・・・私はこんな隠れていてもよい訳がない。
そんな事を考えている間に、犯人を護送していた騎士達の目が険しくなっていくのが感じられる。
「---わたくしは、川の中州に取り残されて・・・死ぬところでしたわ!!」
私とは反対側の扉から出たのか、いつの間にかシシリア様が馬車から出ており、涙ながらに騎士に訴えていた。
「どちらのお嬢様をお探しかは存じませんが、わたくしのように捨てられていたら・・・わたくしはもう少しで川の濁流にのみ込まれるところでした---」
胸に手を当てて、涙を堪えながら上目遣いに訴える子供に騎士達にあせりが生まれ、ガイの前と後ろに騎士達が静かに移動していた。
---・・・確かに雨が降ったり、川が増水したら、流されるね・・・大変だ。ほんと、不安をあおるのはやめて欲しいのだけどね。
もっと早く名乗り出ていれば良かったのかな・・・これは私の判断ミスだ。手にした水筒をギュッと握り、私は馬車を出る事を決めた。




