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34.従者は思案する

 私の名は、サリジャス。この国の第一王子に仕える従者で、カスタール伯爵家の三男。・・・長男・次男とは違い家を盛り立てて行く事ではなく、自分自身の身の立て方を考えなくてはならない身の上なのだ。


 幸運にも、私は第一王子に仕えるという役目を仰せつかり、心労も多い中、充実した日々を送っている・・・と思っている。


 私の主人はまだ8歳の子供。だが王族としての自覚と狡猾さをそろそろ身に付けて行かねばならない時期に来ているのですが、なかなか身につくものではありません。


 それに比べ、ご学友として共に勉強し、行動しているランドルフ侯爵家のご嫡男カインセミュー様はとてもしっかりしていて冷静に周りの物事を観察し、落ち着かれており、今後の公爵家は安泰だと、部外者ながらに安心しております。


 これから殿下をお支えしていかれる者として、申し分ないご学友ではないでしょうか。


 仕える主として、殿下が愛想を尽かされない様にしっかりして行って頂かないと・・・今後の国の在り方がとても心配になります。


 王族としてではなく、普通の男の子としてみる分には申し分ない、真っ直ぐで、人を疑う事を嫌い、素直な性格をしているので皆に好かれる性格をしていらっしゃるのですが・・・それだけでは困るのです。


 腹黒狸や女狐などと渡り合える様に、なっていただかないと・・・それまで、私がしっかりと周囲に目を光らせていないとなりません。






「カインの屋敷の茶会が話題になっている。私も参加したい」

 と、アルフレッド様が突然いいだし、勿論私は従者としてランドルフ侯爵家を訪れる事になりました。・・・周囲の者達が即座に動こうとするアルフレッド様の気を逸らせている間に、私は訪問の調整を行わなければならず、ランドルフ侯爵には色々ご無理申し上げ、ご協力いただきました。


 婚約者を探す目的の茶会は参加する事は避けて頂き、キャロライン様の同年代のお子様が主に参加される茶会にこっそりと参加させていただく事になった。


 その時、お会いしたキャロライン様はとても周りを観察し、身分の隔たりなく礼を言え、幼いながらも将来がとても楽しみな逸材で、カインセミュー様の妹君は、やはり聡明でいらっしゃったのだ。


 ---・・・それに比べ、我が主は・・・なんとも意地悪な物言いをなさるのか。


 その上、予定外に宿泊を希望され、お忍びで王都に買い物に行かれるなど、我がままを通されました。


 殿下が起こした事故ではないとはいえ、キャロライン様が事故に合われるなどの問題にもみまわれました。幸いにもお怪我は無かったようですが、幼い心がとても恐怖を感じられたのか・・・暫くの間お部屋から出る事が出来ない状況になり、とても申し訳なく思う次第でございます。


 カインセミュー様は、とても妹君を可愛がっておられるようで、ご自宅で過ごされる間は穏やかな雰囲気でおられたのだが、城に戻るやいやな、とても冷ややかな視線をアルフレッド様に向けられていた。


「私の妹に二度接近するのは止めて頂きたい。アルフレッド様の巻き添えで、私のキャロルに嫌われるなど、堪え難い」

 と・・・そう言い残し、自室に戻られてしまわれたのだ。


 意外な一面を垣間見た殿下は、喜びを、隠せない様だが、カインセミュー様のご忠告は届いたであろうか。


「また同じ事を、キャロライン様になさったら、カインセミュー様はご学友を辞められてしまいますから、おやめください」


 と私は、苦言を申し上げました。


 ・・・このような事ばかりが続きますと、カインセミュー様だけではなくランドルフ侯爵家の者すべてに愛想を着かされてしまいそうです。





 そんな矢先---「二度と・・・」と仰られたが、その機会もなくカインセミュー様は急遽ご自宅に戻られる事になったのだ。


『キャロライン様がご病気』だと、連絡が入ったのだ。


 重い病気なのか?!急ぎの連絡でこの王城に使いが来るなど、そうそうあるものではない。


「共に見舞いに行く!」

 と言われた殿下のお言葉も断固として拒否して、カインセミュー様は帰られた。


 翌日に予定されていた殿下と行く予定の視察は、寂しものになった。私は殿下と二人の馬車の旅を思い気が重く向かった。




 だが、その帰り思わぬ方々を馬車に乗せる事となったのだ。


 護衛は、馬車の前後を挟み移動するのだが、お忍びでの移動という事で、今回は距離を取り移動をしていた。・・・順調に行けば一切の接触もなく、旅は終わるのだが、何か問題が起きたのか前方を任せていた護衛の一人が馬車の窓を軽く叩き、声を掛けてきた。


「どうしました」


「ドレスを着た少女を背負った男と子供が前方を歩いているのです。---ご確認頂きたいのですが、少女はロックラルド公爵家のシシリア様のようなのです」

 いつも護衛を任せている男が言葉を濁し、そう報告してきた。


 こんな場所に、しかも男の背に背負われているだと?!報告された内容に戸惑いながらも、馬車はその者達の元へと近づいて行く。


 ーーーあれは!確かに間違いない、が・・・。


 我が目を疑いたくなったが、この馬車を確認し歓喜の声を上げる様子、赤い髪の色・・シシリア様で間違いないと、確信した。


 なぜ・・・このような場所に??


 私の疑問は直ぐに解決した。シシリア様は、外出時に見知らぬ男3人組みに攫われたと---。全く、ロックラルド公爵家の護衛は何をしていたのでしょう---。


 私は、額に手を当てて深い溜息をつきたくなったが・・・そんな素振りは、微塵も見せてはいけないのです。それが出来る従者というもの。いつも冷静に周りを観察し、主の考えの先を読み行動する!私が心がけている事なのです。


 シシリア様をお助けしたというこの者達・・・兄弟というのに、年が離れすぎている気がしますが、長男と末っ子という事なのでしょうか。

 ---警戒する対象としてはいささかアンバランスで、チグハグな感じが否めませんが、幼い子供を連れた男が罪を犯すには、リスクがありすぎる気がします。


 真直ぐに相手の目を見つめ、話をする子供には、嘘や隠し事をする事は難しいはず---この子供の深い青色のまなざしには好感が持てます。


 シシリア様の証言からも、誘拐した犯人では内容なので、馬車への同乗を許可しました。

 彼らは、ロックラルド公爵家からそれなりの褒美をもらう事が出来るのですから、無下に扱うなどしてはならないのです。


 ---馬車に同乗するにしても、定員人数が決まっており、馬車の内部に乗れたのはアキラと名乗る子供一人。心細いのか、口数が少なく、皆から距離を取るように端に座っております。


 私は、主とシシリア様がごゆっくりとお寛ぎできるように、お茶とお菓子をお勧めしました。もちろん、今王都で話題のお菓子です!


 シシリア様は、一口食べられると、頬をピンク色に染めニッコリと微笑まれておりました。


 ・・・こうしておられれば、とても好感の持てる素敵は少女なのです。

 ---いやいや決して、口を開かなければ良いと・・・言っている訳ではございませんよ。お口が疲れないかと・・・心配になるくらいです。


 その後、アキラさんにもお茶とお菓子をお勧めしましたが、首を振り断られてしまいました。


 少し怯えたような表情をされておりました・・・私はそんなに厳つい顔をしているわけではないのですが、やはり貴族と一緒の馬車は緊張されているのでしょうか。視線はいつも下を向いているので、お兄さんと一緒でないのは、心細いのかもしれません。


 ---そう私は思っていたのですが・・・。




「このご旅行は、カインセミュー様はご一緒ではないのですね?」

 と、シシリア様の一言・・・なぜか、アキラさんの視線が動きました。


「---あぁ・・・珍しいか?妹君が体調を崩していると連絡が入り、急遽見舞いに戻っている」

 次いで、主の一声で瞳が細められる。


 ---そして光を映し出した瞳が、次第に思考の海に飲み込まれていくかのようなに次第に濁り始めた。


 ---カインセミュー様のお名前に反応したのか?・・・この子供にかかわりがあるとは思えないのだが。


 この違和感をそのままにする訳には行かないが、今この場で問い詰める事は得策ではない、と私は判断をした・・・このまま隣の町で別れる事も出来なくなった。


 私は、この者達を乗せたまま、王都を目指す事にした。幸い目的地は同じ王都なのだ。このまま同乗を願うとしよう。


 ---幸いな事に口実はあるのだから。




「---どうかなされましたか?お疲れならばお休みいただいても大丈夫ですよ?」

 お声を掛けると、上目遣いに視線を動かして私を見るが・・・興味の無いような瞳を向けられた。


「お兄様と離れてしまい、心細いかもしれませんが、辛抱下さい」

 と、言葉を重ねると---すこし瞳の奥が揺らぎ始めたようだ。


 ---私の勘違いか?・・・この幼子に何があるというのだ。


 身の置き場に困ったのか、隅に体を寄せ、帽子を目深に被り、目を閉じたようだった。


 この子供は、とても大人しいな・・・それに比べてこちらは・・・なんと言えばいいのやら。

 そんな事を考えていた私の耳にシシリア様の高揚した言葉が飛び込んできた。


「---殿下の馬車はとても素敵ですわね!!」


 ---そうだ!!なぜ気づかなかったのか!!平民の子供がこのような馬車に乗った事があるわけないのだ。・・・それなのに、この子供はどうだろうか?

 興奮する様子もなく、キョロキョロ、馬車の内部を観察するでもない。・・・この様に座り心地に良い椅子に座った事もないであろうに---。


 お菓子一つでもそうではないか!このような甘い菓子をそうそう口にする事が出来るわけが無い。手に取るでもなく、一瞥しただけで断るなど、普通の子供が出来るのだろうか!!


 ・・・自分の子供の頃と比べてみても、そんな事が出来るわけがないのだ。成人した後ならまだしも、幼子がだ!!


 この馬車は、王族である我が主が乗るのに相応しい内装、そして、お茶と菓子を用意している。それ同等の馬車に乗ったことがある者など、限られている。


 ---この子供は何者なのだろうか?


 同じ色の髪をした顔の作りの似てない兄弟と、親近感を抱かせる瞳の輝き---が、とても心の内を波立たせていた。




 自分の殻に閉じこもってしまった不思議な子供はさて置き、この令嬢のおしゃべりも無駄話ではなかった・・・と考えを改めた。


「シシリア様、よろしければお茶を入れなおし致しましょうか?」


 無駄な時間だと、気にも留めなかったのだが、このような無駄なおしゃべりの些細な言葉が、周囲に居る者の表情を引き出す事もあるのだと、新たな発見に私は頬を緩めた。


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