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狂った世界で  作者: 桃姫
蒼空編
44/82

44話:空の記憶

Scene透夜

 大いなる青空。僕は、それが嫌いだった。

 高く、遠く、どこまでも手の届きそうにない、あの青空が。

 静かな夜空。僕は、それが大好きだった。

 太陽は眩しく、手を伸ばすことすらできないが、月は、手を伸ばせば届きそうだから。僕は、面倒なことが嫌いだから。決して届かないものは諦める。届くものだけを求めて生きる。

 妥協する人生。そんな或る日、出会った。見つけた。見つけてしまった。空の塊を。

「凄い」

 僕は、息を呑んだ。まるで宝石みたいに蒼い塊。キラキラと太陽の光を反射させ、とっても綺麗だった。

 これは、手に入れようとしても、手に入らなかった青空。

「僕は、」

 僕は、手にとってしまった。透通った青空の感覚が、僕を包んだ。

「透に見せてあげよう」

 透。僕の可愛い妹。まだ、二つ下の妹。

 近くの母に抱えられていた透を下ろして、塊を見せる。明は、触るか触るまいかと手を出したり引っ込めたりしてる。でも、触った。

「戻してくるよ」

 僕は、世間話をしている母を尻目にこっそり、近くの家に、塊を帰しに行った。



 それから何年経ったか。僕は、高校生になっていた。

「だから、あたしらは、生まれつき影が薄いんだから!」

 と、透が口癖のように言う。僕は、心の中で、生まれつきじゃないんだけどなあ~、と呟く。

「兄さん。三日月先輩とデート行かないの?」

「ちょっ、姉さん、無視?」

 二人とも、構ってちゃんなんだから。

「弓月とデートか……。まだだよ。僕は、この体質、異常をどうにかしてからいきたいんや」

「何で関西弁……?」

 クセみたいなもの。楽しませて、目立つためのクセみたいなものなんだけど。

「それにしても、異常、か」


 外を歩く。すると、人にぶつかってしまう。いつものことだ。相手が気づかないことが大半。

「おっと、君。君は、なんだい?」

 男の人が僕に声を掛けてきた。

「何?何って人間ですけど?」

 僕の答えに、男は笑う。

「君を、軍に招待したい」

 軍?何か気味の悪そうなとこだ。

「ここに、名前と住所、能力を書いてくれないか?」

 怪しい。怪しいが、ここなら。

「あの、一つ聞きますけど。僕みたいな、不思議な力を持った人が集まるんですか?」

「ああ、いっぱいいるよ」

 そう、なら。僕の、僕らの能力の謎が解けるかもしれない。

 僕は、決して、手が届かないものには手を出さなかった。でも、このときだけは、

「じゃあ、書きます」

 そうして、記す。

「【弓月】、三日月弓月です。住所は、」

 そうして、僕は、【弓月】になった。


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