44話:空の記憶
Scene透夜
大いなる青空。僕は、それが嫌いだった。
高く、遠く、どこまでも手の届きそうにない、あの青空が。
静かな夜空。僕は、それが大好きだった。
太陽は眩しく、手を伸ばすことすらできないが、月は、手を伸ばせば届きそうだから。僕は、面倒なことが嫌いだから。決して届かないものは諦める。届くものだけを求めて生きる。
妥協する人生。そんな或る日、出会った。見つけた。見つけてしまった。空の塊を。
「凄い」
僕は、息を呑んだ。まるで宝石みたいに蒼い塊。キラキラと太陽の光を反射させ、とっても綺麗だった。
これは、手に入れようとしても、手に入らなかった青空。
「僕は、」
僕は、手にとってしまった。透通った青空の感覚が、僕を包んだ。
「透に見せてあげよう」
透。僕の可愛い妹。まだ、二つ下の妹。
近くの母に抱えられていた透を下ろして、塊を見せる。明は、触るか触るまいかと手を出したり引っ込めたりしてる。でも、触った。
「戻してくるよ」
僕は、世間話をしている母を尻目にこっそり、近くの家に、塊を帰しに行った。
それから何年経ったか。僕は、高校生になっていた。
「だから、あたしらは、生まれつき影が薄いんだから!」
と、透が口癖のように言う。僕は、心の中で、生まれつきじゃないんだけどなあ~、と呟く。
「兄さん。三日月先輩とデート行かないの?」
「ちょっ、姉さん、無視?」
二人とも、構ってちゃんなんだから。
「弓月とデートか……。まだだよ。僕は、この体質、異常をどうにかしてからいきたいんや」
「何で関西弁……?」
クセみたいなもの。楽しませて、目立つためのクセみたいなものなんだけど。
「それにしても、異常、か」
外を歩く。すると、人にぶつかってしまう。いつものことだ。相手が気づかないことが大半。
「おっと、君。君は、なんだい?」
男の人が僕に声を掛けてきた。
「何?何って人間ですけど?」
僕の答えに、男は笑う。
「君を、軍に招待したい」
軍?何か気味の悪そうなとこだ。
「ここに、名前と住所、能力を書いてくれないか?」
怪しい。怪しいが、ここなら。
「あの、一つ聞きますけど。僕みたいな、不思議な力を持った人が集まるんですか?」
「ああ、いっぱいいるよ」
そう、なら。僕の、僕らの能力の謎が解けるかもしれない。
僕は、決して、手が届かないものには手を出さなかった。でも、このときだけは、
「じゃあ、書きます」
そうして、記す。
「【弓月】、三日月弓月です。住所は、」
そうして、僕は、【弓月】になった。




