夜の目撃者
その日の夜。
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セシリアは眠れなかった。
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禁書の件が頭から離れない。
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教師たちの様子も妙だった。
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旧校舎への立入禁止。
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地下の存在を隠しているような態度。
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そして。
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あの魔法陣。
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何かがおかしい。
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「考えすぎかしら……」
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そう呟く。
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だが違和感は消えない。
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結局。
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セシリアは寮を抜け出した。
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夜の学園。
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街灯だけが石畳を照らしている。
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静かだった。
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昼間の賑やかさが嘘のように。
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セシリアは旧校舎へ向かう。
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誰にも見つからないように。
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生徒会長としては褒められた行動ではない。
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だが確かめたかった。
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旧校舎。
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風が吹く。
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古い窓が軋む音。
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不気味だった。
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その時。
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人影。
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セシリアは咄嗟に身を隠す。
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黒髪。
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見間違えるはずがない。
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レオンだった。
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「また……」
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思わず呟く。
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こんな時間。
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立入禁止区域。
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完全に規則違反。
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だが。
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レオンは周囲を確認すると、
旧校舎の裏手へ消えた。
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まるで何かを探しているように。
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セシリアは後を追う。
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足音を殺しながら。
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慎重に。
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だが。
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突然。
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寒気が走った。
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「っ……!」
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本能だった。
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何かいる。
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近い。
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セシリアは振り返る。
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誰もいない。
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だが。
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暗闇の奥。
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赤い光が見えた気がした。
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目。
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そう思った瞬間。
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消えた。
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「なに……今の……」
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心臓が速くなる。
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恐怖。
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理由は分からない。
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ただ危険だと感じた。
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その時だった。
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ゴォッ!!
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突風。
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セシリアは反射的に目を閉じる。
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数秒。
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風が止む。
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恐る恐る目を開く。
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すると。
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そこには誰もいなかった。
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赤い光も。
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レオンも。
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何も。
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「消えた……?」
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理解できない。
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夢でも見ていたのだろうか。
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だが。
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地面だけが荒れていた。
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何かが争ったように。
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翌朝。
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セシリアは旧校舎の近くを再び訪れた。
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昨夜の確認のため。
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しかし。
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跡は何一つ残っていない。
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地面も。
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木々も。
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全部元通り。
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まるで最初から何も起きていなかった。
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「……」
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セシリアは立ち尽くす。
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そして気付く。
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少し離れた場所。
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ベンチ。
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レオンが座っていた。
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本を読んでいる。
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いつも通り。
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何事もなかったように。
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昨夜のことなど知らない顔で。
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セシリアはしばらく見つめた。
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だが。
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結局何も言えなかった。
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ただ一つだけ。
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確実に思う。
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レオン・クロイツは何かを知っている。
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そして。
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それを誰にも話すつもりはない。




