無口な少女③
訓練場。
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静寂。
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誰も声を出さない。
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影の騎士。
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十数体。
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黒い剣を構えている。
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その全てが。
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ジルへ向いていた。
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「くそっ……!」
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ジルが歯を食いしばる。
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理解した。
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このままでは負ける。
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だから。
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全魔力を注ぎ込む。
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竜巻がさらに巨大化した。
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轟音。
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訓練場全体を揺らす。
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観客席の結界が軋む。
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「おいおい……」
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「本気だぞ……」
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マルクが息を呑む。
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アルフォンスも真剣だった。
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強い。
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ジルは本当に強い。
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普通なら。
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ここまで追い詰められる前に勝っている。
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だが。
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相手が悪い。
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エルナは静かだった。
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無表情。
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何も変わらない。
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その姿が逆に恐ろしい。
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ジルが叫ぶ。
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「吹き飛べぇぇぇ!!」
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竜巻解放。
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巨大な風の暴威。
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影の騎士達を飲み込む。
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一体。
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二体。
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三体。
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消えていく。
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観客席が沸く。
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「押した!」
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「いける!」
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だが。
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その瞬間。
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エルナが右手を上げた。
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初めて。
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試合中。
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はっきりと魔法を行使する。
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影が震える。
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地面。
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壁。
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観客席の下。
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あらゆる影が動く。
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そして。
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訓練場中央。
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巨大な黒い影が立ち上がった。
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観客席騒然。
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「なっ……!?」
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「なんだあれ……」
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人型。
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だが。
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先程までの騎士とは違う。
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巨大。
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圧倒的な存在感。
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まるで。
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影そのものが意思を持ったようだった。
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アイリスが立ち上がる。
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「やばい」
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思わず漏れた。
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レオニスも笑っていない。
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強い。
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本当に強い。
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エルナが小さく呟く。
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「終わり」
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黒い巨人が剣を振る。
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一閃。
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轟音。
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竜巻が真っ二つに裂けた。
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風が消える。
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完全に。
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ジルの目が見開かれる。
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信じられない。
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全力だった。
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持てる全てだった。
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それが。
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一撃。
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ただ一撃。
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黒い剣が止まる。
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ジルの首元。
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あと数センチ。
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動けば終わる。
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勝負あり。
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静寂。
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そして。
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ジルが力なく笑った。
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「参った」
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黒い影が消える。
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エルナは何も言わない。
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ただ立っている。
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バルトが手を上げる。
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「勝者!」
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「エルナ・ノクス!!」
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大歓声。
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観客席が揺れる。
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「強ぇぇぇ!!」
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「やばすぎるだろ!」
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「二年最強だ!」
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歓声が止まらない。
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しかし。
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エルナ本人は。
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何も変わらなかった。
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勝って当然。
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そんな顔。
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そのまま歩き出す。
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観客席へ戻る。
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セシリアが笑う。
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「お疲れ」
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エルナは小さく頷く。
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ダリウスも認めるように言う。
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「強かったな」
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エルナは答えない。
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だが。
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少しだけ。
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本当に少しだけ。
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嬉しそうだった。
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そして。
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バルトが次の対戦表を見る。
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ざわめき。
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観客席も気付く。
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次のカード。
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かなり面白い。
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バルトが告げる。
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「次の試合」
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「アルフォンス・レイヴン」
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会場大歓声。
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そして。
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対戦相手。
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「ガイウス・フェルド」
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三年生。
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交流戦代表候補。
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剣術科首席。
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観客席が一気に沸いた。
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ついに。
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首席アルフォンス。
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本命の戦いが始まる。




