影を追う者
交流戦代表選抜。
⸻
会場の熱気はまだ冷めていなかった。
⸻
レオンの棄権。
⸻
あまりにも意味不明。
⸻
あまりにも唐突。
⸻
⸻
訓練場では今も話題になっていた。
⸻
「あいつ何なんだ」
⸻
「エルナ先輩怒ってたぞ」
⸻
「もったいねぇ」
⸻
⸻
誰もが好き勝手言う。
⸻
⸻
ただ一人。
⸻
エルナだけは黙っていた。
⸻
⸻
控室。
⸻
椅子へ座る。
⸻
⸻
拳を握る。
⸻
⸻
理由は分からない。
⸻
⸻
だが。
⸻
妙に腹が立つ。
⸻
⸻
負けるから逃げた。
⸻
そんな風には見えなかった。
⸻
⸻
本当に。
⸻
興味がなかった。
⸻
⸻
それが気に入らない。
⸻
⸻
「……何なのよ」
⸻
⸻
誰にも聞こえない呟き。
⸻
⸻
その頃。
⸻
学園の外。
⸻
⸻
森。
⸻
⸻
レオンは歩いていた。
⸻
⸻
人の気配はない。
⸻
⸻
夕暮れ。
⸻
木々の影が伸びる。
⸻
⸻
そして。
⸻
立ち止まる。
⸻
⸻
地面。
⸻
⸻
焼け焦げた跡。
⸻
⸻
黒い魔力。
⸻
⸻
アーヴェルの痕跡。
⸻
⸻
まだ新しい。
⸻
⸻
レオンが目を細める。
⸻
⸻
「近いな」
⸻
⸻
小さな呟き。
⸻
⸻
その時。
⸻
森の奥。
⸻
⸻
何かが動いた。
⸻
⸻
ガサッ。
⸻
⸻
レオンは振り返らない。
⸻
⸻
数秒。
⸻
⸻
そして。
⸻
「出てこい」
⸻
⸻
沈黙。
⸻
⸻
やがて。
⸻
人影が現れる。
⸻
⸻
長身。
⸻
⸻
銀髪。
⸻
⸻
優しそうな顔。
⸻
⸻
リヒト・アルゼイン。
⸻
⸻
レオンは少しだけ驚いた。
⸻
⸻
「何してる」
⸻
⸻
「それはこちらの台詞です」
⸻
⸻
リヒトは苦笑する。
⸻
⸻
「カイルが気になると言いまして」
⸻
⸻
レオンは黙る。
⸻
⸻
そして。
⸻
理解した。
⸻
⸻
あいつか。
⸻
⸻
面倒だ。
⸻
⸻
リヒトが周囲を見る。
⸻
⸻
焼け跡。
⸻
⸻
魔力残滓。
⸻
⸻
普通ではない。
⸻
⸻
だが。
⸻
深く聞かない。
⸻
⸻
それがリヒトだった。
⸻
⸻
「危険ですか?」
⸻
⸻
「帰れ」
⸻
⸻
即答。
⸻
⸻
リヒトは笑う。
⸻
⸻
「危険なんですね」
⸻
⸻
レオンは答えない。
⸻
⸻
数秒。
⸻
⸻
風が吹く。
⸻
⸻
その瞬間。
⸻
レオンの顔が変わった。
⸻
⸻
僅かに。
⸻
ほんの僅かに。
⸻
⸻
殺気。
⸻
⸻
リヒトの表情も変わる。
⸻
⸻
前方。
⸻
⸻
森の奥。
⸻
⸻
誰かがいる。
⸻
⸻
見えない。
⸻
⸻
だが。
⸻
いる。
⸻
⸻
そして。
⸻
低い笑い声が聞こえた。
⸻
⸻
「面白い」
⸻
⸻
リヒトが剣へ手を伸ばす。
⸻
⸻
レオンは動かない。
⸻
⸻
その声。
⸻
知っている。
⸻
⸻
アーヴェルではない。
⸻
⸻
もっと古い。
⸻
⸻
もっと嫌な存在。
⸻
⸻
声は続く。
⸻
⸻
「継承者」
⸻
⸻
リヒトが反応する。
⸻
⸻
継承者。
⸻
⸻
聞いたことのない言葉。
⸻
⸻
しかし。
⸻
レオンの瞳が鋭くなる。
⸻
⸻
次の瞬間。
⸻
森の奥の気配が消えた。
⸻
⸻
完全に。
⸻
⸻
リヒトが周囲を見る。
⸻
⸻
誰もいない。
⸻
⸻
何もない。
⸻
⸻
だが。
⸻
レオンだけは知っていた。
⸻
⸻
今のは偶然ではない。
⸻
⸻
そして。
⸻
アーヴェルだけが敵ではない。
⸻
⸻
その事実を。
⸻
⸻
遠く。
⸻
学園の屋上。
⸻
⸻
寝転がっていたカイルが、
突然空を見上げた。
⸻
⸻
「……あーあ」
⸻
⸻
珍しく。
⸻
笑っていなかった。




