消えた禁書
朝。
学園は珍しく騒がしかった。
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「聞いたか?」
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「図書館だろ?」
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「本当に消えたらしいぞ」
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生徒たちがざわついている。
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内容は一つ。
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学園図書館の禁書が消えた。
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王国指定危険魔導書。
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生徒が触れることすら許されない本。
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それが一冊。
なくなっていた。
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生徒会室。
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セシリアは報告書を見ていた。
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顔色は良くない。
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禁書紛失。
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学園始まって以来の大問題。
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もし外部へ流出した場合、
教師だけでは済まない。
王国騎士団案件だった。
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コンコン。
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扉が開く。
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「失礼します」
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アルフォンスだった。
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「首席も呼ばれたのですね」
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「生徒会への協力要請だ」
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セシリアは頷く。
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優秀な生徒への調査協力。
珍しくない。
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だが。
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二人とも同じことを考えていた。
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犯人は誰なのか。
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昼。
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図書館。
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立入制限区域。
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教師たちが調査している。
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セシリアとアルフォンスも立ち会っていた。
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「窓の破損なし」
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「結界異常なし」
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「侵入痕なし」
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報告が飛ぶ。
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妙だった。
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盗まれた形跡がない。
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まるで。
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最初から存在しなかったかのように。
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「あり得ない」
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アルフォンスが呟く。
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禁書庫は三重結界。
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教師でも自由に入れない。
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生徒が侵入など不可能。
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その時。
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セシリアの視線が止まる。
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少し離れた机。
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レオンがいた。
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本を読んでいる。
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周囲の騒ぎなど存在しないかのように。
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「……」
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どうしてここにいるのだろう。
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調査中だ。
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普通なら近付かない。
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だがレオンは気にしていない。
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ページをめくる。
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静かに。
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ただ静かに。
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夕方。
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調査は進まなかった。
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手掛かりなし。
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犯人不明。
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誰もが疲れ始めていた。
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その頃。
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学園地下。
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一般生徒が知らない場所。
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石造りの通路。
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誰もいない。
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暗闇だけ。
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レオンはそこを歩いていた。
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手には古い鍵。
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無表情。
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迷いもない。
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そして。
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地下最奥。
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封印扉の前で立ち止まる。
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「……やっぱり」
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扉が少し開いていた。
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普通なら気付かない程度。
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しかしレオンは気付く。
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中から漏れる魔力。
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嫌な気配。
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禁書は盗まれたのではない。
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持ち出された。
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意図的に。
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誰かによって。
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レオンは目を閉じる。
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数秒。
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静かにため息を吐いた。
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「面倒だな」
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そして扉の奥へ消える。
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誰にも知られず。
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誰にも見られず。
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学園のどこかで。
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また一つ。
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問題が動き始めていた。
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一方その頃。
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図書館。
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調査を終えたセシリアは帰ろうとしていた。
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ふと。
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窓の外を見る。
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夕焼け。
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人影。
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一瞬だけ。
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黒髪の少年が見えた気がした。
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地下へ続く旧校舎の方向。
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だが次の瞬間には消えていた。
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「気のせい……?」
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そう呟く。
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だが胸の奥に、
説明できない違和感だけが残った。




