主席の違和感
アルフォンス・レイヴンは努力家だった。
天才と呼ばれる。
首席と呼ばれる。
未来の英雄候補と期待されている。
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だが。
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その評価は努力の結果だ。
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誰よりも早く起きる。
誰よりも訓練する。
誰よりも勉強する。
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だから首席になれた。
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才能だけではない。
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その自負があった。
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訓練場。
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今日も自主練習。
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炎魔法。
風魔法。
剣術。
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一通り終えたところで、
バルト教官が現れた。
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「朝から精が出るな」
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「当然です」
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アルフォンスは汗を拭く。
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「強くなりたいので」
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バルトは頷く。
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模範的な回答だった。
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だからこそ。
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どうしても理解できない人間がいる。
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レオン・クロイツ。
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やる気がない。
努力しない。
態度も悪い。
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なのに。
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なぜか教師たちは退学にしない。
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不思議だった。
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「教官」
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「ん?」
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「レオンを残している理由は何ですか」
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バルトは少しだけ固まった。
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「急だな」
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「気になっただけです」
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沈黙。
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「理由なんてない」
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バルトは答えた。
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「学園の規定を満たしているからだ」
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「そうですか」
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納得はできない。
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だが聞いても意味はなさそうだった。
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昼。
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アルフォンスは図書館へ向かっていた。
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途中。
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中庭を通る。
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そこで視線が止まる。
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木陰。
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レオンが座っていた。
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本を読んでいる。
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珍しい。
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意外だった。
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どうせ寝ていると思っていた。
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アルフォンスは少しだけ近付く。
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そして。
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目に入った本の題名。
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『古代結界理論』
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「……」
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思わず眉が動く。
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難解な専門書。
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教師でも読む者は少ない。
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アルフォンスですら途中で投げた本だった。
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レオンは静かにページをめくる。
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理解しているように見える。
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あり得ない。
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「お前」
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レオンが顔を上げる。
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「何ですか」
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相変わらず感情が薄い。
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「その本、読めるのか」
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数秒。
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レオンは本を見る。
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「まぁ」
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それだけ。
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「まぁって……」
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アルフォンスは少し苛立つ。
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「難しい本だぞ」
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「そうですね」
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「そうですねって」
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会話が続かない。
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レオンはまた本へ視線を戻す。
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完全に興味を失っていた。
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アルフォンスは舌打ちしそうになる。
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だが。
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ふと違和感を覚えた。
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レオンの手。
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紙で切ったような傷。
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腕の包帯。
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首筋にも薄い傷跡。
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昨日はなかった。
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「お前、その怪我」
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レオンは本を閉じた。
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「転びました」
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即答。
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アルフォンスは呆れた。
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「お前は毎日転ぶのか」
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「最近よく転びます」
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真顔だった。
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余計に腹が立つ。
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その日の夕方。
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学園外周。
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警報が鳴った。
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結界異常。
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教師たちが慌てて集まる。
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アルフォンスも駆け付けた。
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だが。
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到着した時には終わっていた。
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結界は正常。
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異常なし。
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原因不明。
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教師たちも首を傾げている。
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「なんだったんだ」
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「分からん」
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「誤作動か?」
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誰も答えを持っていない。
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アルフォンスは周囲を見る。
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そして気付く。
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レオンがいない。
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授業終了後から見ていない。
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数十分後。
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学園へ戻る途中。
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中庭。
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ベンチ。
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そこにレオンが座っていた。
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いつも通り。
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何事もなかったように。
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本を読んでいる。
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『古代結界理論』
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夕日に照らされた横顔。
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アルフォンスは立ち止まる。
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何かがおかしい。
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だが。
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何がおかしいのか分からない。
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レオンは気付かない。
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いや。
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気付いているのかもしれない。
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それでも何も言わない。
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風が吹く。
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本のページが揺れる。
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アルフォンスはしばらくその背中を見つめていた。
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初めてだった。
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レオン・クロイツという存在に、
違和感を覚えたのは。




