生徒会長の評価
レオン・クロイツが嫌いだ。
セシリア・アルバートは心の底からそう思っていた。
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朝。
生徒会室。
窓から差し込む光が机を照らしている。
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セシリアは一枚の書類を見ていた。
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問題行動報告書。
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名前はもちろん。
レオン・クロイツ。
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「また授業離脱……」
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ため息が漏れる。
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遅刻。
居眠り。
無断離席。
授業欠席。
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並べれば酷いものだった。
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どうして退学にならないのか。
本気で不思議に思う。
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王国最高峰の魔法学園。
努力する生徒はいくらでもいる。
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なのに。
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あの少年だけは違う。
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やる気がない。
向上心も見えない。
誰とも関わろうとしない。
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それでいて、
どこか他人を見下しているようにも見える。
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「本当に嫌な人……」
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自然と呟いていた。
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コンコン。
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扉が鳴る。
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「失礼します」
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入ってきたのはバルト教官だった。
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「おはようございます」
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「おう」
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バルトは苦笑する。
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「またレオンの資料か?」
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セシリアは少し恥ずかしくなった。
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「気になりまして」
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「生徒会長も大変だな」
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バルトは椅子へ腰掛ける。
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そして窓の外を見る。
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訓練場。
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遠くにレオンの姿が見えた。
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一人で歩いている。
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周囲には誰もいない。
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「友達いないんですかね」
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セシリアの言葉。
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バルトは答えない。
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ただ少しだけ考え込む。
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最近。
妙なことが増えていた。
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結界異常。
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原因不明。
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しかし必ず直っている。
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誰がやったのか分からない。
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証拠もない。
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「……」
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ふと。
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頭に浮かぶ。
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レオン。
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すぐに打ち消した。
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あり得ない。
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あいつにそんなことができるはずがない。
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「教官?」
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「ああ、いや」
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バルトは立ち上がる。
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「今日は巡回当番だったな」
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「はい」
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「気を付けろ」
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そう言って部屋を出ていった。
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昼休み。
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セシリアは学園内を巡回していた。
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生徒会長の仕事の一つ。
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特に異常はない。
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今日も平和だ。
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そう思った時だった。
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校舎裏。
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人の気配。
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セシリアは足を止める。
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「誰?」
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静かな場所。
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人気もない。
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普通なら誰も来ない。
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視線の先。
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そこにはレオンがいた。
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壁にもたれて座っている。
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「……」
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目を閉じている。
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寝ているらしい。
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セシリアの眉が動く。
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授業時間だった。
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「またですか」
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近付く。
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本当に呆れる。
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学園中が努力しているのに。
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この少年だけは違う。
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「レオン」
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呼びかける。
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返事はない。
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「レオン」
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もう一度。
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反応しない。
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セシリアは肩を掴もうとして、
止まった。
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傷。
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腕。
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制服の隙間。
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包帯。
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血が滲んでいた。
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「え……?」
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思わず声が漏れる。
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戦闘訓練ではない。
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あんな傷になるはずがない。
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セシリアが目を凝らした瞬間。
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レオンが目を開いた。
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「……何か用ですか」
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相変わらず無表情。
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だがその目だけは少し疲れていた。
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「その傷……」
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レオンは腕を見る。
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数秒。
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そして。
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「転びました」
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「そんな傷になるわけ」
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「なります」
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即答だった。
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明らかな嘘。
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だが本人はそれ以上話す気がない。
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沈黙。
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風が吹く。
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セシリアは苛立った。
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この男はいつもそうだ。
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何も話さない。
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何も見せない。
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だから余計に分からない。
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「ちゃんと保健室へ行ってください」
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それだけ言う。
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レオンは少しだけ首を傾げた。
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そして。
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「分かりました」
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小さく答えた。
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セシリアはその場を離れる。
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だが。
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数歩進んだところで振り返る。
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レオンはもういなかった。
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「え……?」
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さっきまでそこにいた。
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数秒も経っていない。
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なのに。
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誰もいない。
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静かな校舎裏。
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風だけが吹いていた。
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セシリアは知らない。
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その瞬間。
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学園外周の結界に、
再び異常が発生していたことを。
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そして。
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そこへ向かっている少年が、
誰だったのかを。




