誰も知らない夜
学園の鐘が鳴る。
授業終了。
生徒たちは友人たちと談笑しながら校舎を後にする。
訓練場ではまだアルフォンスの話題で盛り上がっていた。
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「やっぱ首席はすごいな」
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「レオンなんて相手になってなかったしな」
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笑い声が響く。
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その輪の中にレオンはいない。
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学園の裏手。
結界塔。
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赤い瞳の魔族は壁に叩きつけられていた。
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「ぐ……」
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骨が砕ける音。
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だがレオンは表情を変えない。
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黒い亀裂から侵入した魔族。
本来なら王国騎士団が出動する案件だ。
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しかし。
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「なんでここにいる」
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レオンの問い。
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魔族は笑った。
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『知らぬのか』
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「何を」
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『始まるぞ』
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沈黙。
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『また始まる』
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次の瞬間。
魔族の身体が崩壊した。
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自壊。
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レオンは眉をひそめる。
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魔族は死んだ。
だが最後まで何も語らなかった。
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残されたのは違和感だけ。
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「……またか」
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レオンは空を見上げた。
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夕焼け。
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だが何かがおかしい。
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最近増えている。
こういうことが。
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結界異常。
侵入者。
禁術反応。
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一つ一つは小さい。
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しかし確実に増えている。
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まるで。
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何かが準備をしているように。
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レオンは結界塔へ手を置く。
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青白い光。
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壊れていた結界が修復されていく。
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本来なら複数の教師が必要な作業。
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数秒で終わる。
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レオンは何事もなかったように手を離した。
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「帰るか」
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誰にも知られず。
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誰にも感謝されず。
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いつも通りだった。
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その頃。
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職員棟。
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バルト教官は一枚の紙を見ていた。
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出席記録。
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レオン・クロイツ。
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遅刻。
欠席。
授業離脱。
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問題だらけ。
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「本当に困ったやつだ」
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そう呟く。
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だが。
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教官の視線は別の紙へ移った。
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結界管理記録。
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そこには奇妙な内容が書かれている。
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三日前。
異常発生。
数分後。
自然復旧。
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五日前。
異常発生。
数分後。
自然復旧。
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七日前。
異常発生。
数分後。
自然復旧。
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全部同じ。
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「自然復旧……?」
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そんなことはあり得ない。
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学園結界はそんな簡単な代物ではない。
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だが記録上はそうなっている。
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誰かが直している。
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しかし誰も報告していない。
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バルト教官は椅子にもたれた。
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ふと。
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今日のことを思い出す。
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レオンが消えた時間。
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結界異常が起きた時間。
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偶然。
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ただの偶然だ。
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そう思った。
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だが胸の奥に小さな棘が残る。
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「まさかな……」
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窓の外。
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夜が訪れる。
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学園の生徒たちは知らない。
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今夜もまた。
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誰かが学園を守っていたことを。
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そして。
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学園の外。
遥か遠く。
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森の奥。
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誰も近付かない廃神殿。
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暗闇の中で。
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一人の男が目を開いた。
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黄金色の瞳。
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静かな声。
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「失敗したか」
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まるで。
何千年も生きてきたような声だった。
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男は立ち上がる。
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そして誰もいない空間へ語りかけた。
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「面白い」
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「まだいるのか」
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その口元に笑みが浮かぶ。
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だがその笑みには温度がなかった。
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まるで世界そのものに飽きているような。
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「なら、もう少しだけ見てみよう」
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夜風が吹く。
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誰も知らない。
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世界を救った英雄が、
今もどこかで生きていることを。




