名前のない墓
翌日。
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雨が降っていた。
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細かい雨。
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空は灰色。
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学園全体が静かだった。
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バルトは一人で資料室にいた。
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昨夜から気になっている。
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アーヴェル・グランツ。
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封印された教師。
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そして。
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封印管理者。
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矛盾している。
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あまりにも。
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「何を隠している……」
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誰へ向けた言葉か分からない。
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その時。
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一冊の古い地図が目に入った。
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学園創立時の敷地図。
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現在とは少し違う。
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建物の配置。
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訓練場。
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寮。
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微妙に異なる。
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そして。
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バルトの指が止まった。
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地図の端。
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森の奥。
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【旧慰霊区画】
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「慰霊……?」
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聞いたことがない。
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現在の地図には存在しない場所だった。
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その日の放課後。
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バルトはセシリアとアルフォンスを呼び出した。
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森の奥。
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学園外周付近。
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人が来る場所ではない。
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草木が生い茂っている。
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やがて。
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三人は見つける。
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石碑。
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崩れている。
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そして。
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その周囲に並ぶ墓。
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大量だった。
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セシリアが言葉を失う。
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二十。
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三十。
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いや。
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もっとある。
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「なんだこれ……」
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アルフォンスも固まる。
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墓標には名前がない。
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一つも。
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誰の墓なのか。
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何人埋まっているのか。
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何も書かれていない。
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ただ。
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中央の石碑だけは読めた。
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【学園の未来のために】
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それだけ。
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「未来のため……?」
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セシリアが呟く。
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意味が分からない。
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その時。
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バルトがある墓標を見つめた。
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土が新しい。
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明らかに。
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最近掘り返された跡。
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「まさか……」
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近付く。
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そして。
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墓標の裏。
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そこに小さな文字が刻まれていた。
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【七十二】
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三人の背筋が凍る。
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七十二。
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地下の日誌。
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議事録。
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被害生徒七十二名。
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偶然ではない。
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ここに眠っている。
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その時だった。
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ザァァァァ……
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強い風。
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木々が揺れる。
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セシリアが振り返る。
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森の奥。
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誰かいる。
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黒いローブ。
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昨夜の人物。
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距離は遠い。
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だが。
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今度は逃げない。
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静かにこちらを見ている。
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「待て!!」
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アルフォンスが駆け出す。
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しかし。
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次の瞬間。
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ローブの人物は森の奥へ消えた。
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追う。
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全力で。
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だが。
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見失う。
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そこに残されていたのは。
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一本の古びた鍵。
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そして。
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小さな紙。
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アルフォンスが拾い上げる。
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そこに書かれていた文字は。
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【第二封印区画】
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三人は顔を見合わせる。
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第七封印だけではない。
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学園の地下に眠る秘密は、
彼らが想像しているより遥かに大きかった。




