地下への鍵
雨だった。
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朝から空は重い。
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窓を打つ雨音が学園を包んでいた。
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そんな中でも授業は続く。
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生徒たちはいつも通り。
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少なくとも表面上は。
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放課後。
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図書館。
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セシリアは再び訪れていた。
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最近ここへ来る回数が増えている。
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調べても答えは見つからない。
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それでも。
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調べずにはいられなかった。
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本棚の間を歩く。
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静かな空間。
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その時。
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奥の棚。
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誰かがいた。
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黒髪。
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本を手に取っている。
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レオン。
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セシリアは足を止めた。
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珍しく。
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逃げるように消えない。
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そこにいた。
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レオンは一冊の本を棚へ戻す。
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そして別の本を手に取る。
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題名は見えない。
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だが。
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かなり古い本らしい。
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「何を読んでいるんですか」
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セシリアは聞いた。
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レオンは少しだけ本を見る。
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そして。
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「歴史です」
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それだけ。
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セシリアは本の背表紙を見る。
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そこに書かれていた文字。
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『建国以前の王国史』
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「そんな本読むんですね」
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「たまに」
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会話終了。
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いつも通りだった。
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その時。
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司書が近付いてくる。
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何冊かの本を抱えている。
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そして。
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驚いたような顔をした。
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「それ……」
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レオンの手元を見る。
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「何か?」
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レオンは首を傾げる。
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「いえ……」
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司書は少し迷う。
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そして言った。
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「その本、ずっと行方不明だったんです」
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沈黙。
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セシリアも固まる。
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行方不明。
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最近よく聞く言葉だった。
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「本当に?」
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司書は頷く。
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「十年以上前から所在不明でした」
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「ですが今朝、本棚に戻っていたんです」
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「誰が戻したかも分からなくて……」
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レオンは本を見る。
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数秒。
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そして。
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「そうなんですね」
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それだけだった。
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セシリアはレオンを見る。
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何か知っている顔ではない。
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だが。
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何も知らない顔にも見えない。
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最近ずっとそうだった。
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その夜。
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職員室。
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バルト教官は資料を読んでいた。
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古い学園資料。
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そして。
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一枚の紙。
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今まで見つからなかったもの。
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【旧校舎地下管理記録】
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バルトは目を見開く。
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なぜ今になって。
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こんなものが。
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ページをめくる。
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記録は古い。
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かなり古い。
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そして。
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最後のページ。
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そこに記されていた一文を見て、
バルトは言葉を失った。
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【地下封印区画管理責任者】
【勇者アーク】
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部屋の空気が凍る。
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あり得ない。
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そんなはずがない。
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勇者アークは千年以上前の人物だ。
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歴史上の英雄だ。
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なのに。
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なぜ学園の管理記録に名前がある。
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窓の外で雷が鳴る。
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雨はさらに強くなる。
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そして。
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学園の深い場所で、
長い眠りから目覚めようとしているものがあった。




