風紀の噂
最近。
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学園には妙な噂が流れていた。
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夜になると誰かがいる。
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そんな噂だった。
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「聞いたか?」
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昼休み。
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食堂。
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男子生徒たちが盛り上がっている。
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「またその話か」
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「本当だって」
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「夜の旧校舎だろ?」
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「見た奴がいるらしい」
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女子生徒が苦笑する。
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「どうせ見間違いよ」
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「いや、三人も見てる」
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「だから幽霊なんだって」
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笑い声。
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学園七不思議。
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その程度の話。
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誰も本気にしていない。
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ただ一人を除いて。
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アルフォンスは黙って聞いていた。
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最近。
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こういう話が増えている。
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夜の人影。
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結界異常。
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立入禁止区域。
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全部。
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禁書事件以降だ。
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偶然とは思えない。
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放課後。
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図書館。
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アルフォンスは資料を探していた。
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禁書についてではない。
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旧校舎について。
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学園の歴史。
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建築記録。
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そういった資料だ。
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数冊を読み漁る。
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しかし。
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不自然だった。
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「ない……」
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旧校舎の建築図面がない。
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存在しない。
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正確には。
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途中から消えている。
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現在の校舎。
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訓練場。
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寮。
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全て残っている。
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だが旧校舎だけ。
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詳細図面がない。
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まるで誰かが持ち去ったように。
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その時。
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近くを司書が通る。
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アルフォンスは声をかけた。
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「質問があります」
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「なんでしょう」
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「旧校舎の資料はありませんか」
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司書は少し困った顔をした。
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「昔はあったはずなんですが……」
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「今は?」
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「見当たりません」
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妙だった。
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本当に妙だった。
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夕方。
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アルフォンスは図書館を出る。
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空は赤い。
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帰路につく生徒たち。
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平和な学園。
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だが。
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何かが隠されている。
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そんな気がしてならない。
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その時。
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視界の端。
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中庭。
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ベンチ。
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レオンが座っていた。
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本を読んでいる。
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いつも通り。
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最近気付いたことがある。
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レオンはよく本を読んでいる。
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だが。
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誰もその内容を知らない。
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魔法書。
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歴史書。
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結界理論。
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禁術研究。
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毎回違う。
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そしてどれも難解だ。
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問題児の読む本ではない。
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「……」
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アルフォンスは少しだけ考える。
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そして。
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初めてだった。
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レオンへ向かって歩き出したのは。
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だが。
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途中で止まる。
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レオンは既にいなかった。
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ベンチだけが残っている。
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「またか」
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最近これが多い。
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気付けばいる。
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気付けば消えている。
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そんな男。
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レオン・クロイツ。
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アルフォンスは空を見上げた。
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夕焼けの向こう。
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どこかで鐘が鳴っている。
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学園の日常は続く。
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だが。
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誰も知らない場所で、
何かが少しずつ動いていた。




