消えた足跡
朝。
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学園内はいつも通りだった。
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「今日の実技だるいな」
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「お前毎日言ってるだろ」
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「だってだるいし」
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笑い声。
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平和な日常。
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禁書騒動も少しずつ話題から消え始めていた。
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教師たちが調査している。
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生徒たちはそう思っている。
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だから安心している。
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だが。
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セシリアだけは違った。
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生徒会室。
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机の上には資料が積まれている。
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禁書紛失事件。
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結界異常。
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二十年前の記録。
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勇者アーク。
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繋がらない。
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だが。
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何かが繋がっている気がする。
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「……」
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セシリアは窓の外を見る。
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中庭。
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そこには生徒たちの姿。
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そして。
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レオン。
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木陰のベンチ。
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本を読んでいる。
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いつも通り。
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本当にいつも通りだった。
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だが。
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最近分からなくなってきた。
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あれは本当に問題児なのだろうか。
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昼休み。
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セシリアは旧校舎付近を歩いていた。
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何度も来ている。
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理由はない。
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ただ気になる。
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それだけ。
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石畳。
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古い壁。
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誰もいない通路。
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そして。
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足を止める。
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「……?」
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地面。
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何かがある。
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足跡だった。
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新しい。
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昨夜の雨の跡が残っている。
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つまり最近付いたもの。
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セシリアはしゃがみ込む。
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一人分。
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旧校舎へ向かっている。
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誰かが来ていた。
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教師か。
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生徒か。
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分からない。
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だが。
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ここは立入禁止区域だ。
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不自然だった。
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セシリアは足跡を追う。
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旧校舎裏。
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さらに奥。
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そして。
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足跡が途切れた。
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「え……?」
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思わず声が漏れる。
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本当に消えている。
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壁の前。
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そこから先がない。
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引き返した形跡もない。
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飛んだ?
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あり得ない。
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セシリアは周囲を見回す。
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何もない。
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ただ古い石壁だけ。
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その時。
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背後から声。
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「何してるんですか」
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セシリアが振り返る。
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レオンだった。
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相変わらず無表情。
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本を抱えている。
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「っ!」
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驚く。
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気付かなかった。
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全く。
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「驚かせないでください」
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「すみません」
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感情のない声。
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セシリアは壁を指差す。
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「ここに足跡があったんです」
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レオンは地面を見る。
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数秒。
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「そうですか」
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終わり。
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セシリアは額を押さえたくなった。
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この男は本当に会話が続かない。
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「気にならないんですか?」
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レオンは少し考える。
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そして。
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「気になります」
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「ならもう少し反応してください」
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「難しいです」
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真顔だった。
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セシリアは思わずため息を吐く。
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だが。
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その時だった。
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風が吹く。
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レオンの制服が揺れる。
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一瞬だけ見えた。
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包帯。
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腕。
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また増えている。
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セシリアは気付く。
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しかし。
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何も言わなかった。
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レオンも何も言わない。
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二人の間に沈黙が落ちる。
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そして。
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「失礼します」
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レオンは歩き出した。
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旧校舎とは反対方向へ。
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いつも通り。
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何事もないように。
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セシリアはその背中を見つめる。
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そして再び壁へ視線を向けた。
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そこには。
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ほんの一瞬だけ。
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何かがあったような気がした。
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まるで見えない扉の輪郭。
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しかし次に見た時には消えていた。
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「気のせい……?」
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誰も答えない。
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学園の秘密は、
まだ誰にも見つかっていなかった。




