英雄の本
昼休み。
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図書館。
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アルフォンスは珍しく実技書ではなく歴史書の棚にいた。
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理由は自分でもよく分からない。
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あの日。
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セシリアが見ていた本。
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そして最近耳にする違和感。
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禁書。
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消えた記録。
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誰かが隠している何か。
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全てが繋がっている気がした。
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「考えすぎか……」
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そう呟きながら本棚へ手を伸ばす。
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一冊の本。
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『勇者アーク伝』
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王国で最も有名な英雄譚。
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子供の頃。
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誰もが読んだ。
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当然アルフォンスも読んでいる。
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だが。
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改めて読むのは初めてだった。
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席へ座る。
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ページを開く。
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勇者アーク。
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魔王を討伐した救世主。
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世界を救った英雄。
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何百年経っても語り継がれる伝説。
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内容は知っている。
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だが。
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読み進めるうちに違和感を覚えた。
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「……ん?」
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ページを戻る。
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もう一度読む。
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やはりおかしい。
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魔王討伐後。
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記録が曖昧なのだ。
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王国再建。
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各地の復興。
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そういった記述はある。
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だが。
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肝心の勇者アーク本人については、
突然記録が消える。
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まるで。
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そこだけ空白になっているようだった。
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「なんだこれは」
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アルフォンスは眉をひそめる。
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英雄なのだ。
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普通なら。
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晩年。
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弟子。
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死因。
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墓。
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必ず記録が残る。
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しかし。
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何もない。
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その時。
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近くの席から声が聞こえた。
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「勇者アーク?」
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男子生徒だった。
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「懐かしいな」
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「子供の頃読んだわ」
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女子生徒が笑う。
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「実在したかも怪しいよね」
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「いや実在はしただろ」
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「でも昔すぎるし」
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他愛もない会話。
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だが。
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アルフォンスは本から目を離せなかった。
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ページをめくる。
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最後の章。
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そこに短い一文があった。
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勇者アークは歴史の表舞台から姿を消した。
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それだけ。
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たったそれだけ。
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死んだとも。
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老いたとも。
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書かれていない。
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「まるで……」
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そこまで言って止まる。
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自分でも馬鹿らしいと思った。
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まるで生きているみたいだ。
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そんなことあるはずがない。
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何百年どころではない。
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千年以上前の人物だ。
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本を閉じる。
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窓の外を見る。
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中庭。
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生徒たちが笑っている。
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平和な光景。
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だが。
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最近の学園はどこかおかしい。
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禁書。
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結界。
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消えた記録。
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そして勇者アーク。
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何も関係ないはずなのに。
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妙な繋がりを感じる。
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その日の夕方。
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図書館の司書が本棚を整理していた。
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そして首を傾げる。
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「おかしいな……」
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本棚。
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勇者関連の書籍。
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一冊だけ。
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貸出記録のない本がある。
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何年も。
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誰も借りていないはずの本。
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なのに。
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最近読まれた跡があった。
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新しい指紋。
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新しい折り目。
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誰かが読んでいる。
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誰にも知られず。
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何度も。
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『勇者アーク伝』を。




