勧誘
タイジュは、たった今マコトから告げられた、マコトが恩師の娘であるという事実に目を白黒させた。
「取鐘先生の子供……? ええと、君、たしか、男の子だったはずでは……?」
タイジュはまず一番はじめに疑問に思ったことを口にした。タイジュはてっきり恩師の子供が男の子だと思っていたおかげで、マコトがそうであるという可能性を全く考えていなかった。タイジュは性転換の可能性も考えたが、マコトの困ったような顔を見て、言ったことを後悔した。
「お会いしたときにそんなに男の子っぽく見えましたかね……? 生まれたときから女です」
「そうでしたか……すみません気が付かなくて。確かに先生に似ているような気がします。当時の面影も有るような気がしますね」
タイジュはかつてかなりの年下の子供として知り合った相手に敬語を使えばいいのか砕
けた話し方をすればいいのか迷いながら続けた。
「あなた方のことを心配していました。先生が亡くなった後どのようにお過ごしなのか伺う機会も持たずにご無礼をいたしました。上級研究員とのことで、ご立派になりましたね。先生が亡くなる原因を作ってしまって申し訳ありません」
タイジュは交易船に乗る前に、手紙でマコトの母親とやりとりして謝罪をしたが、マコトに対して何かを言ったことはない。
「いえ、父が亡くなってからは父や私たちを悪く言う報道はほとんど無くなりましたし、転校して、幸い祖父母も良くしてくれましたので、あまり生活や進路などには困らずに成長できました。むしろ……」
マコトは、言い淀み、話題を変えた。
「いえ、本日お呼びしたのは他でもありません、まず、水辺さんには、フリーランスとしてでも構いませんが、できればスカウトを受けていただいて入社する形で、NDAか雇用契約を結んだ後に、縦森エレクトロニクスの仕事に協力いただきたいということです」
これは渡りに船なのではないか、とタイジュは思った。なお、NDAとは秘密保持契約のことである。
マコトが正直なところ味方なのかもわからないし、むしろ、父の死をタイジュが原因だと思っていて、恨みを晴らしたい目的が有る可能性もある。しかし、縦森エレクトロニクスの内情を知ることができる機会を得られるのは大きい。もしかするとマコトも自らの父の死因を疑っているかも知れない。だとするとそれが目的で声を掛けてきた可能性もある。
まずは情報の確認だ、とタイジュは考え質問した。
「では、縦森エレクトロニクスは、私の専門である、次世代の生体半導体の研究に舵を切ろうとしているということでしょうか?」
ここで、マコトは全く予想外の回答をしてきた。
「いいえ、関わっていただきたいのは、縦森エレクトロニクスの、公共事業へのソリューション提供の方です。水辺さんのかつての研究の中で真価が発揮された、生体素材の初期配置に関する位置取りの最適解を求めるプログラムを作成した技術で磨いたプログラミング技術の一端を、スカウトへの回答として用意していただきたいのです。」
マコトは台詞を噛みもせずに一気に言い、続けた。
「そして、弊社に入社するなどして信用を獲得した後、公共事業へのソリューション事業を推し進めている現社長が、『父と水辺さんの研究を妨げたことを公表し』、『社会悪であるソリューション事業の拡大阻止に協力』していただけませんか?」




