再び社長室
一週間後、タイジュは社長室に来ていた。あの後、マコトとはもう一度話をして、一応話の方向性はまとめたつもりだ。今回も、前回同様に携帯デバイスもPCもなく、手ぶらである。
「水辺くん、話を聞いてどうだったかね。」
セイギは一見鷹揚に言った。
タイジュも余裕のあるように見えるよう、落ち着いた動きで頷いた。
「ええ、お話に従って、電子樹の馴化の研究に今後も従事していきたいと考えております。かつての電子樹へのメディア操作についても、公共事業へのソリューション事業に関しても告発はしません」
「そうか、それでいい」
セイギは満足げに頷いた。
「しかし、条件をつけさせていただいてよろしいでしょうか」
「聞こう」
「その件に関して、契約書を結ばせていただきたいのです」
「どのような?」
「私に、公共機関へのソリューション事業への関与、特にセンシティブな個人情報の管理に関する業務への辞令を、今後出さないことです」
セイギは、ほう、といった声を出して、携帯デバイスで秘書を呼んだ。契約書を用意するようにすぐさま指示を出し、タイジュに電子署名の用意はあるか確認し、タイジュはある旨を回答した。
「法的にグレーゾーンのことをするのは嫌いかね」
「そうですね、好きではありません。縦森マコトさんも、心を痛めているようでした。マコトさんには一つお願いをしておりまして、私と私の家族についてのスワンプマンズAIのアルゴリズムを止めるようにお願いしました。社長や他の方も除外されていると聞いています。アルゴリズムの一部停止について、モジュールとパラメータの操作をするための社長決裁を今後申請する予定とのことでしたので、契約書に加えて、決裁もいただけますでしょうか」
「まあいいだろう」
そこへ秘書がPCを持って現れた。
マコトと立てた予定はこうだった。
まず、契約書PCを破壊する。そして、一部パラメータの変更とアルゴリズム変更のためのモジュール操作を行う。
契約書PCの破壊には、マコトの「便利アイテム」を使って腕時計のようなものを作る。腕時計型の便利アイテムの中に、タイジュが交易船で持ち帰ってきて私物として購入しておいた、導電体に沿って移動する特殊なアメーバを忍ばせ、契約書PCのポートからそのアメーバを忍びこませ、PCを破壊する。怪しまれないようにすることがなにより重要だ。
検疫などでこのアメーバが没収されないのは、地球上で繁殖できず、また、真空でなければ一日程度ですぐに死ぬからだ。同様の理由で、PCが壊れた場合にアメーバが疑われることもほぼない。よっぽど詳しい人間が原因を特定しない限り、ばれる可能性は低いだろう。
PCを壊すまでには、アメーバのPC内の移動時間が要るためおそらく一日程度かかる。いつ破壊に気が付くかも場合によるだろう。
モジュールの差し替えについては、言わずもがな、害のないものに差し替えようという物である。
どちらも、意図的な故障とモジュールの相違であることがばれたら、二人ともクビである。
マコトは心配そうにしていた。
「水辺さん、このようなリスクのあることをして、問題ないものでしょうか。私は水辺さんに法律を犯すリスクを負ってもらってまで、社会のために動くべきとも思いたくないのです」
「変に告発して相手方を逆上させるよりずっとマシな解決策ではあると思います。確かにリスクはありますが」
「でも、上手くいかなかった場合……」
「その場合に一つ相談があります。お願いできますか?」




