面接
スカウトの面談で出てきたのは、ショートカットで背の高い、立場のある人特有の貫禄のある女性で、桟橋さんといった。
場所は縦森エレクトロニクスのつくば研究開発センターで、マコトが本部と紹介した方の建物だった。受付で待っていたタイジュは、桟橋さんが迎えに来て自己紹介をされた後に、会議室に招かれた。招き入れられたのは小さい会議室で、革張りのソファ、落ち着いたえんじ色のカーペットのフロアだった。大学とは違い、金のかかりそうな設備である。
座るよう促され、いつの時代も面接にありがちな、本日はお時間頂きありがとうございます、失礼します、の挨拶をした後、机ごしにまるで面接ではなく来客のような扱いでタイジュは座らされている。タイジュは、書類を事前に送付はしたものの、念のため携帯デバイスに格納してきた書類もホログラム投影できるようにしてきた。しかし、その心配は不要だったようだ。書類の投影は桟橋さんがしてくれた。
「弊社は、リファラル採用に力を入れていて、それがスカウトのような形で行われることも度々あるので、本日はそれほど緊張せずにいつも通りの水辺さんを出していただければ幸いです。先ほど申し上げたとおり、私、縦森マコトの上司の桟橋です。よろしくお願いします」
桟橋さんはそう言った後、書類を眺めながら言った。
「いただいた倉庫の物流問題について、さすがと言いますか、良くできていますね。一つ伺いたいのですが、これは、深層学習や経験統合型のような一部ブラックボックス化した手法を利用していますか? それとも自前またはAIで可視化できるアルゴリズムを用意して解答いただいたものでしょうか?」
「それについては、深層学習ではありませんが、ブラックボックス化した手法を利用しているとだけ回答させてください。解答の微調整はその手法を行った後にも行っています。これ以上のことになると、お互いに守秘義務のある状態で回答させていただければ幸いです」
粘菌に解かせる方法も人間に読めるアルゴリズムではないので、大枠で言えば、ブラックボックス化した手法で間違いないだろう、とタイジュは思った。
桟橋さんは、ふうむ、といったような声を出した後、少し悩んでいるようだった。
「深層学習ではないブラックボックス化した手法……その分野の論文もない……」
悩むのも仕方ないのかもしれないな、とタイジュも思った。先に挙がった経験統合型などの用意をするには資金の確保が必要で、論文の提出はそのためには必須であろう。
その後桟橋さんは話題を変えた。
「ところで、今回、スカウトの提案元の縦森さんなのですが、どのようなご関係か今一度確認させていただいてもよろしいですか?」
「縦森さんが、私の恩のある教授のご息女です」
「水辺さんは、交易船に乗っている間、縦森さんとの交流があったのですか?」
「いえ、ありません」
「縦森さんがあなたを推薦させるに至った決定的な理由はなんだと思いますか? そして、その推薦に足る能力が不足していた場合に、縦森さんの評価に影響があるとして、それでも自信をもって自分を推薦できますか?」
相手にリスクを考えさせる手法は、さすが企業人、とタイジュは場違いな感想を持った。象牙の塔に普段お住まいの教授陣はあまりやらない手法だ。
タイジュは、自分はお人好しの部類にはいるかも知れないな、と思った。マコトの立場がわざわざ危うくなるようなことをしてまで、自分の研究や恩師の敵を討ちたいわけでもない、と感じてしまった。なによりマコトは恩師の娘だ。彼女の立場を危うくするのは違うだろう。
「理由について、その決定的なものは私にはわかりません。もし縦森さんの評価に影響するような事態が想定されるのであれば、私はこの選考を辞退するべきかも知れません。元々私は生体半導体が専門であり、プログラミングは専門外です」
桟橋さんは片眉を上げて興味深そうな目でタイジュを見て、言った。
「わかりました。では質問を変えさせてください。あなたは、社会の安定と、一般的な個人の自由と、自らの利益のどれを優先しますか?」
タイジュは訝しんだ。これはなんの質問だ?
「時と場合によると思います。例えば好きな物を好きなときに食べる個人の自由は、飢餓状態にある社会ではさほど優先されないと思いますし、そのような社会で自らの利益のみを優先させることも難しいと思います」
「それは私個人の考え方にも、弊社の社是にも沿う考え方ですね」
タイジュはそれに返答こそしなかったものの、疑問は覚えた。社是?なんの話だろう。
「プログラミングの技能と姿勢については理解できました。あなたの専門について伺っても良いですか?」
「はい、問題ありません」
「あなたは生体半導体の技術に詳しいですね。例えば、かつての生体半導体の技術の特徴のうち、利用された頻度の多い回路について強化される、馴化と呼ばれる特徴を、軽減する機能の追加が可能だと思いますか?」
タイジュは本格的に訝しんだ。桟橋さんは、何を目的にこのような質問をしているのだろう?
「可能とは思います。頻度により強化されること自体はメリットですし、強化を抑制すること自体を試したことはありませんが、技術的に可能だと思います。」
「そうですか。それは良い情報ですね。公共事業へのソリューション提供としてのプログラミングとは別の話として、生体半導体の開発者として働く気はありませんか? どうしてもプログラミングがやりたいと言うのであれば、入社してから部署の異動を希望するのでいかがでしょう」
タイジュは驚いた。
「遺伝子情報の流用については問題視されないのですか」
桟橋さんはにやりと笑った。
「あなたが主張していた違法な遺伝子を使用していないということ自体を、私は当時から信用していましたよ」




