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配置とプログラミング

 マコトが問題にしている技術は、生体材料を最適な配置にするための技術で、半導体素子の要素それぞれをどのように効率的に配置するかの問題である。


 従来の半導体のように、どの要素も電気的につなげることも可能ではあるが、従来の半導体に比べ、生体半導体では、この配置を正しく行えるかどうかが重要な処理能力を決める要素となる。


 それにはいくつか理由があった。


 一つ目は、良く使用する経路が徐々に強化されていくのが生体半導体の技術の特徴であり、経路の活性化の基礎を作ることこそが生体半導体の馴化とよばれる作業に重要であること。二つ目は、生体半導体はメモリを兼ねており、メモリとしての機能はその経路の多様さが担っていることである。


 マコトの問題としていた、物流システムの最適化問題と呼ばれるタイプの問題に、経路でメモリを兼ねることを考慮した経路の確保の問題を組み合わせた問題は、アルゴリズムで算出するのは当時の技術では難しく、解けたとしても時間がかかることで間違いなかった。ただ、算出した結果がどの程度最適化されているかを考察することは比較的容易ではあって、マコトであればそれは容易いのであろう。


 確かに、プログラミングで解決しようとすれば、タイジュには到底解決不能だった問題に違いない。タイジュはそれらが粘菌アルゴリズムと呼ばれることも利用し、粘菌の仲間が餌までの経路を最適化した状態にすることを利用して、粘菌の仲間に生体半導体の経路を解かせていた。マコトの誤算は、タイジュがその手法を取ったことを知らなかったことである。


 タイジュは工学畑の人間である。数学的に難しい積分の問題などは、勝手に定数と置き換えて後悔しないタイプの人間だ。問題の厳密な部分は、その分野の偉い人に聞いてください、自分は動く物だけ作ります、そのために必要な知識を浅く広く学びます、というのが基本スタンスだった。


 プログラミングにおいても、まったく新しいアルゴリズムの開発より、既に存在するライブラリをどのように生かすかの方に興味のある人間だった。マコトの期待するアルゴリズムの構造など思いつけるはずが無かった。


 タイジュはマコトから受け取った書類の内容を改めて確認した。目下の問題はスカウトの内容である。馬鹿丁寧な、おそらくは決まり文句であろう挨拶の下の欄のいくつかを眺める。


 <スカウトにおいて評価された技能>物流システムの最適化問題である未解決問題を解決した能力。


 <従事していただきたい業務>公共事業へのソリューション事業におけるプログラミング業務およびソリューション提供業務。


 <特記すべき事項>現在従事している業務または契約済みの業務の解約において発生した違約金その他の金銭は、その金銭を弊社で負担し、被スカウト者の負担はないものとする。


 履歴書等の書類を持参または送付して面談を行うことになっている日程は、翌週である。断るので有れば早めに連絡を入れねばならない。


 タイジュは考える。


 まず、この仕事を受けるべきなのだろうか?


 条件はいい。縦森エレクトロニクスの内情を探ることもできる。マコトの握っている情報も気になる。

 そして、スカウトとはいえ、タイジュはそもそもこの仕事に受かるのだろうか?


 マコトの勘違いによる能力不足と看破されれば、そのまま、お断りの文書を受けとる可能性がある。


 さらに重要なのが、マコトが信頼に足るかである。


 マコトはタイジュを陥れることを目的にしているようには見えなかった。むしろ自らを危うくするような発言を自分から進んでしたぐらいである。命を狙っているのなら、もう既に機会があったのにそれをしない理由もないだろう。しかし、これが、彼女の叔父との協力の元、タイジュを今度こそ研究に戻れないようにする計画だとしたらどうなのだ。


 そこまで考えたところで、それらの可能性が、特に自分には支障にならないことにタイジュは気が付いてしまった。


 相手が自分を陥れようとしているからなんなのだ? せいぜい地球に居づらくなることぐらいだ。そして事実、現在のタイジュはそのような状況であり、特に何か事情が変わるわけでもない。


 父と母のことも心配ではあるが、前回の状況でも父と母にはそれほどの影響はなかったように見える。家の壁に生卵をぶつけられたことがあると言っていたが、それも確か犯人は捕まっていたはずだ。父と母はあれで打たれ強い。


 タイジュ自身の身の振り方であれば、居づらくなったところで、また交易船に乗れば良い。なんの問題も無い。


 そして、とタイジュは考えた。そして、もし、自分の研究のせいで亡くなった恩師の娘が復讐にくるなら、今後の自分の社会的な名誉などくれてやって構わないのではないか。タイジュの研究を認めてくれたのは恩師に他ならない。


 自分の能力が不足していて真実にたどり着く前に辞めることになったとしても、同様である。今の自分にはなんの支障も無い。能力不足で職場の迷惑になったとしても、宇宙ガジュマルの亡者になんの遠慮が要るというのだ。クビにするなら試用期間にでもクビを切れば良い。


 タイジュは一連のトラブルの後、少し図々しくなったような気がする自分自身をむしろ評価したい気分になった。


 そうなると、問題は、スカウトにどう応答するかである。スカウトで重視された能力の確認を行うための質問として、ある倉庫の物流の改善をする問題が出ていた。


 これを、粘菌に解かせていいものだろうか?


 スカウトに応じる場合でも、秘密保持契約の締結前ではあり、そのノウハウが教えられないとして、解答手法を秘匿して回答することはできないこともないように思える。そもそもこのスカウト条件には「解決」の文字があるが、「プログラミングにて解決」の文字がない。大企業様ともあろう存在が片手落ちよな、このような能力不足の人間を見極める機会を失うとは、などと悪人のようなことを考えて、タイジュは粘菌の仲間に解答させた内容で応答することに決めた。


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