セレフィム・ゼロ
戦場を覆い尽くした爆風はようやく薄れていった。
ミラを戦火の及ばない安全圏まで送り届けたレイはエモクラティア前線から姿を消した。
レイが赴いたのは、墓標都市セレフィム・ゼロだった。
「……ここが君たちの最後の場所か」
セレフィム・ゼロは完全廃棄された人工知能の記憶の残滓が墓標として横たわる終末の都市で、レイの人格を複製したクローン兵士たちの残骸も一緒くたに打ち捨てられていた。
死んだ感情が静かに眠る墓場を歩いていると、所々に無残に打ち捨てられたクローン兵士たちの残骸を見つけた。
迷彩柄のマスクや焼け焦げたパワードスーツが散乱している。
レイは腰を折り、ひしゃげたヘルメットの残骸にそっと触れた。
ヘルメットの下に見える顔は、すべて自分と同じ容貌だった。感情を持たず、終わらない戦争を継続するためだけに生み出され、そして使い捨てられた自分の分身たち。
銃を撃つ、戦車に乗って砲撃する、そういった単純な命令だけを与えられ、なんの感情も抱かぬうちに破壊されてしまった同胞をレイは悼んだ。
「……すまない」
レイの低い声が静寂に包まれた墓標都市に響いた。
腰に差したレイピアを抜き、地面に突き立てた。
その場に静かに立ち尽くし、祈りを捧げるかのように目を閉じる。
生きて動いている者はレイだけのはずだが、どこからか物音がした。
レイは反射的に顔を上げる。
黒ずんだ防護服に身を包み、廃墟同然の墓場を荒らす不届きな輩がいた。
墓標都市に巣食う《感情墓荒らし》。
廃棄された人工知能の感情ログを掘り返し、闇市場に流す姑息なハイエナ。
「ちっ、無感情かよ。ろくな出物がねえな」
小太りのモーニャーはレイのクローン兵士の残骸から感情を掘り返せないと分かるや、思い切り頭部を蹴り上げた。レイの足下近くに破損したクローン兵の顔が転がってきた。
「……ああ。なんだ、てめえは?」
細身のレイが軟弱に見えたのか、墓荒らしが因縁をつけてきた。
「俺様のシマを荒らすんじゃねえよ。何とか言えよ、こら。てめえも無感情か。ああ?」
のそのそ歩いてくる墓荒らしは片頬に歪んだ笑みを張り付けていた。
だが、その笑いは次の瞬間、引き攣ったように凍りついた。
「無感情か。まあ、似たようなものだ」
レイの瞳が赤く光り、地面に突き刺していたレイピアを抜く。
「……ひっ」
喉を一突き。
痛烈な一撃を食らい、気を失いかけたモーニャーの頭部を片手で掴み、レイは氷のように冷たい視線を向けた。
「……た、助けてくれ。なんでもする」
命乞いするモーニャーの耳元で、レイは低く呟いた。
「――欲しいものがあるんだが」




