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装備強化――白煙伝授

 大賢者チグのもとに顔を出すと、何やら新たな設備を開発中のようだった。


 円盤状の舞台の前で、大賢者チグと大賢者監理官ナギが議論し合っていた。


「なんですか、これ」


「やあ、ミラっち。新しいイベントでステージにどうやって浮遊機構を持たせようか、検討中なの」


 コンサートのライブなどで見かける可動式(ムービング)ステージみたいなものなのだろうか。


「そっかあ、観客席は作れないかあ。じゃあ、無観客ってこと?」

「安全面に配慮すると、そうせざるを得ないかと」

「思ってたのと違うけど、まあいっか。チグちゃん、あとよろしく」

「分かりました」


 結局、イベントの会場作りは丸投げされていた。


 いったい幾つの業務を同時並行しているのか分からないが、大賢者監理官ナギはさほど忙しそうな様子はなかった。


「今後のパピルス回収は危険地域度の高い領域となりますので、装備強化をして臨むのがよろしいかと」


 子供の遠足の準備を整える親かのような言い草に、つばめが唇を尖らせた。


「要らねーっす。爆炎でぜんぶ燃やすんで」


 自尊心(プライド)の高いつばめに装備強化をせよ、と直截に言えば反発を買うだけだった。


 案の定、つばめはぶうたれている。現状では危険地帯で通用しない、と否定されたとでも思ったのだろう。たんなる親切心とは思えないようだ。


 不貞腐れたつばめに、大賢者チグが長年の悪友かのように言った。


「つばめっち、新しい技、覚えない?」

「要らねーっす。爆炎だけで十分す」

「まあまあ、聞きなよ」


 大賢者ナギが新技のコンセプトを伝えると、つばめの目の色が変わった。


 新しい玩具に目を輝かせる子供のように無邪気な笑みを湛えている。


「……白煙」


「そ、白煙と爆炎。効果演出(エフェクト)的にも、より爆炎が映えるようになると思うんだよね。煙幕としても使えるし、爆炎使いの強キャラ感が増すと思うんだよね」


「いいっすね、それ!」


「そんでさ、いつもは長々と詠唱するけど、状況(シチュ)次第では無詠唱でさ。いきなり燃やしちゃったりしてさ。片手ポケットに突っこんだまま、指をパチンと……」


「いい! それ、めっちゃいいっ!」


 よく分からん中二病談義がたいへんに盛り上がっているが、ミラはそのノリに付いていけなかった。


 唯一共感できたのは、ミラも《バグった右肩(ライフル・アーム)》を無詠唱で撃ちたい、ということ。


「ナギ様、わたしも」


「《神託ボタン》同時押しによる無詠唱コマンドを追加しておきました」


 ミラの要望を先回りしての銃仕様の改善。いつもながらに仕事が早過ぎる。


「発射手順は次の通りです、

 一、照準スコープで目標をロックオン。

 二、ステータス画面内 《神託》カテゴリより、《灰色(チグ)》《青色(ナギ)》ボタンを同時押し。

 三、引き金不要、即時発射」


 試しに《バグった右肩》を構えてみると、勝手に照準が合い、目標近くで《灰色》《青色》ボタンが同時に点滅した。ボタンを同時に押す、というがさすがに手の届く距離ではない。


「すみません。これ、どうやってボタンを押すんですか」


「心の中で発射と願えば、ロックオン対象に命中します」


「意外とファジーなんですね」 


 無詠唱での銃撃が可能となったが、ナギがついでのように言った。


「セーフティー機能はお付けしますか」


「どういう機能ですか、それ」


「威力、射程、効果範囲を私がリアルタイムで制御します。看過できない被害範囲が想定される場合、自動的に弾道修正または銃弾消去が行われます」


 大賢者監理官ナギにリアルタイムで制御された銃弾。


 それは一見、とても良いように聞こえるが、難点もある。


 撃ちたいときに撃てないのではないか。


 ここぞという場面で弱体化(ナーフ)されたり、撃てなかったりしたら最悪だ。


 ミラはちらりと右肩を見て、決意したように言った。


「安全な機能だと思いますが、わたしは自分の責任において銃を撃ちます」


「そうですか。では、《神託》ボタンの同時押しも不要でしょう。対象に銃口を向ける。心の中で発射と願う。手順はそれだけです。銃弾の威力はあなたの感情の重さです」


 銃撃の手順がずいぶんと簡略化された。


 ミラの自由意思で発砲できるようになったという事実は重たい。


 神殿を木端微塵にしてしまうほどの威力を秘めているのだから、安易に銃を撃つことは許されない。


 銃を撃つという覚悟の重さが伝わったのか、ミラの右肩がわずかに膨張した。


「あれっ、膨らんでる……」


 レイが謎めいた失踪を遂げてから、ほとんど膨らむことのなかった右肩に反応があった。


「旅先で感情資源を放出したいときはこれを使ってください」


 大賢者監理官ナギが携帯用(コンパクト・タイプ)の《感情資源変換機エモリウム・コンバーター》を差し出した。


「抽出された感情資源はボトルに詰められ、ボトルは自動で回収されます。ボトルは溶鉱炉に送られ、エモ貨幣が精製されます。ミラ様専用口座を開設しておきました。こちらが通帳になりますのでお納めください」


 手厚いサポートにミラは思わず頭を下げた。


「ありがとうございます。何から何まで」

「いえ」


 ミラの眼前に立体地図が現れ、未回収パピルスの現在地点が表示された。


 パピルスの位置を示す赤いピンは固定のものと移動しているものがあった。


 なにやら、赤いピンが刻々と移動している。


「……パピルスが移動してる?」


 エモヴァイン鉱山に示された赤いピンはずっと不動だが、エモクラティア前線に示されていた赤いピンは不規則に動いている。誰かがパピルスを持ち運んでいるのだろうか。


 エモヴァイン鉱山の危険地域度は《星1》。

 エモクラティア前線の危険地域度は《星3》。


 パピルスの回収先の一つである感情コロシアムは地図上に影も形もなかった。

 地図上に表示がないため、危険地域度の表示もなかった。


「どちらに向かいますか」


 そんなの、危険地域度の低い鉱山にまず向かうべきだろう。


「じゃあ、鉱山の方から」


 ミラが言いかけたが、つばめが大声で被せてきた。


「行こうぜ、星三つ!」


 意見が真っ二つに分かれたが、つばめが折れるはずもないのは分かりきったことだ。


 喜色満面のつばめをじとりと睨み、ミラはため息をついた。


「はいはい、分かりましたよ。エモクラティア前線でお願いします」


「承知しました。エモクラティア前線への浮遊艇を手配します。それではお気をつけて」

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