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裏社会におけるアイドル

男が立てこもっているネットカフェへと到着した。その建物の周りを取り囲むように、警官達がたくさんいて、ギョッとした。彼はそんな俺の気持ちを察したのかバレたくなかったのか「車で待ってて」と車から降りて、事件現場へと行ってしまった。これじゃあ、一緒に来た意味ないじゃん。なんて拗ねながらリクライニングを倒して横になっていた。


いつの間にか寝ていたみたいだ。目が覚めると、辺りが明るくなっていた。それでもまだ、彼は俺の隣には帰ってこない。様子を見に行きたくて、車から降りて事件現場へ呑気に歩いた。俺が現場に着く頃、警察はちょうどネットカフェに突入をし始めた頃で辺りに緊張感が走っていた。


「君!そんなところで突っ立ってないで、突入準備をしろ!!」


とある警官から命令をされた。レイラ以外が俺に命令すんじゃねぇよ。なんて内心思ったが、目立つのは彼に悪いと思ったので、


「え?あ、はい!」


と素直に返事をした。防弾チョッキやらマスクやらの装備を付けて、突入の合図で列を成して突入していくが、俺は列の後方なので気を付けているフリだけしていれば良かった。


「手を上げろ!!」


前の方から聞こえてくる。犯人が追い詰められている証拠だ。その時、タッタッタッと前から軽快な足音が聞こえてきた。警官達の手をくぐり抜け、こっちに近づいてくる。俺はタイミングを合わせ、そいつの下腹部を蹴り飛ばした。その男は一瞬、足を止めて、痛む下腹部を手で抑えていたが、また走り出そうと前を向いた。だが、その一瞬が命取り。その男は複数の警官に取り押さえられていた。


「よくやったな、お前」


と警官に肩を軽く叩かれると、やけにビクッとしてしまって、あからさまに嫌悪感を示してしまった。居心地が悪くなって、逃げるようにその建物内から出ようとすると、


「離せ!!俺はイル・ディラストだ!!!」


と取り押さえられて暴れている犯人の叫び声が聞こえた。何で、俺の名前をお前が叫んでるの?俺は踵を返して、犯人の元へ歩み寄ると、顔面を覆うマスクを少しだけ上げて


「猿真似はやめろ。愛がないくせに」


と言いたいことを一方的に言って、マスクをまた被った。その男はしばらく口をあけてぽかんとしていた。だが、その後も背後から俺はイル・ディラストだという声が聞こえてきた。


警察から逃げるように車に戻って、思いのままに煙草を吹かす。


「ただいま、良い子にしてた?」


全てを終わらせた彼が仕事からの解放感からか、疲れた笑顔を貼り付けて運転席に座ってきた。


「何でみんな、俺に憧れるんだろうな。俺の人生、真っ黒なのに」


心の中でずっと燻っていた。答えが出ずにヤニ切れのようだ。開口一番でこれを聞いた。彼なら俺が満足する答えを持っている気がするから。


「イルにはきっとカリスマ性があるんだよ。その美貌も裏社会におけるアイドルのようだ」


と俺の顎下をくすぐるように撫でる。


「ご主人様も俺に憧れるの?」


「憧れというよりかは、愛ある死を与えてくれるというアイコンには魅了されそうだったよ」


と情けなさそうに微笑んだ。


「じゃあ、俺を飼ったのは……」


「ううん、違うよ。裏社会のアイドル的な存在のイルが変われば、裏社会全体が少しは変わると思うからね。期待してるよ」


そう言って、彼は俺に背を向けて仮眠を取り始めた。何処まで行っても、彼は俺のことを利用価値としか思っていない。その現実が苦しくって、彼の脚に付いているホルスターからグロック19を盗んで、銃口を口の中へと入れた。悔しくって、虚しくって、涙が出てきた。それでもトリガーは引けなくて、拳銃を捨てて、臆病者の自分の首を絞めた。嗚咽さえ聞こえないように、声を殺して自分を殺していた。それなのに彼は寝返りを打って、俺の頬に残る涙の跡を消すように一撫でした。


「何が、そんなに悲しい?」


俺の恋情に気づいているくせに、そんな試すようなことを言って、悪魔みたいに微笑むんだ。


「もう、イル・ディラストから逃げたい……」


過去の全てを殺して捨て去って、新たに普通の人間として生まれ変わって、貴方と出会って、また恋をしたい。そう願ってしまうほど、俺は貴方に恋をしているんだよ。何で気づいてくれないの?

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