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一回抱いてくれよ

彼のチョイスでいつも通りミッキー・ディーズに来た。俺はこの味が好きになりつつある。彼と食べられるのが楽しいから。ドライブスルーでハンバーガーやポテトやらを買うと、彼はそれらを一袋にまとめて、後部座席のその少年の元へ置いた。


「今だけは手錠を外してやる。逃げるなよ?」


そう言って、彼が少年の手錠を外すところを助手席から見つめていた。その少年は手錠が外れたことを手首を手で触って確かめてて、それから、後部ドアを開いたまま後部座席に上半身を突っ込むようにしている彼のことを、その少年は殴ったのだ。


「退け!!」


そう言って、思いっきり彼の腹も蹴った。彼は蹴られてもなお、車に掴まっていて何をされても後部座席から出さないつもりだ。


「嫌だね。大人しくそれを食べろ」


視線でミッキー・ディーズの紙袋を示す。そんな彼は不敵な笑みを浮かべていた。


「何故、こんなことをする!??どーせ、俺は刑務所行きだろ??」


その少年はパニックに陥っていて、苦しそうに怒鳴っていた。中途半端な救済なんかいらないと言いたげにその紙袋を投げた。


「どうして?イル」


投げつけられた紙袋を避けることなく、彼は身をもって受け止めていた。そんな彼は俺の回答を期待しているような眼差しで待っている。


「君が人間不信なのも、短絡的にしか物事を見られないのも、全部わかってる。俺がやっているのは、ただ自分が救われたいための偽善かもしれない。でも、お腹が空いたままなのはダメだ。だって、何でも良いから満たされたい気分だろ?」


まるで過去の自分に話しかけるように、そう諭すように言った。それを聞くと、少年は投げつけた紙袋を奪うように自分の元へと引き寄せると、中身を開けて、そのいい匂いに目を輝かせていた。そして、口端を震わせながら、ハンバーガーに大きな一口。かぶりつくとその美味しさに感動したのか、目を丸くして次々にかぶりついて、あっという間にハンバーガーを一個食べ終えていた。


「めっちゃ、美味しい……」


「だろ?俺らはここの常連なんだぜ」


と誇らしげに運転席に座ってきた彼と肩を組みながらそう嬉々として言うと、


「何でお前は捕まってないの?イル・ディラスト」


とポテトを摘んだ少年がその丸い二つ目で俺の顔を覗き込んできた。俺は一気に背筋が凍って、冷や汗が止まらない。


「俺は、イル・ディラストじゃ、ないよ……」


苦し紛れの笑顔で目を泳がせながら嘘を吐いて、自分の存在を否定した。


「いいや、イル・ディラストだよ。ポスターで見た通り、いや、それ以上だ。あぁ、とても美しい顔をしている……」


俺の顔面に見蕩れるかのようにうっとりとした表情をしている。イル・ディラストの名は愛ある死という魅力とともに、美しすぎる指名手配犯として話題になって広まっていった。


「ふふっ、俺のファンなのかな?」


口角が引き攣りそうだ。そんな俺に網越しにその少年は顔を近づけて、楽しそうにこう言うんだ。


「なあ、一回抱いてくれよ。最高な世界にトリップできるんだろ?」


そうだ、これが世間の俺に対しての反応だ。唇を噛み締めた。


「俺はもうセックスしないよ。好きな人としか」


そう、運転席に座る彼を一瞥しながら、そう言った。


「あれ?老若男女、誰でも抱くって噂だけど?」


そんな過去の自分の話に反吐が出る。


「ごめんな。もう他人の玩具はやめたんだわ」


「へぇ、で?今は、何なの?愛玩動物??」


そうその少年に煽られると、犬というポジションで満足すべきなのに、自ずと舌打ちをしてしまった。


「俺の話はもう良いだろ……」


「良くないよ。だって、俺の憧れだもん」


淡々とその少年はそう言った。俺はその言葉が信じられなくて、聞き返してしまった。


「俺が、憧れ……?」


「うん。だってイル・ディラストは、愛で死の恐怖を克服させてくれるんだよ。しかも、めっちゃ美しくて超エロい。こんな腐った世界では死が何よりも救済だからね」


その言葉達は俺の脳内にすんなりと入ってきた。今までの俺の罪を払拭してくれる甘言だったから。


「あはっ、気分が良いね!抱いてあげよっか?」


と調子よく車のドアハンドルに手をかけると、


「イル」


と服を軽く摘まれ、引き止められた。


「ご主人様、やっぱり俺のやってることは間違ってなかったよ。こんな世界じゃ俺みたいな存在も必要なんだって」


そう自分を肯定していると、彼は深いため息をついてから冷徹な声でこう言った。


「じゃあ、僕のことを殺してみれば?」


まるで俺が殺せないのをわかっているみたいだ。俺は何も言い返せないで黙り込んでしまった。

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