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34話 決勝


 本戦決勝。

 ドルトムント自身もリリックの手前虚勢を張ったが、立っているのがやっとの重傷だ。


「痛だだだだ! しみる!」


 そんな彼は今現在治療を受けており、体中の傷に消毒液をかけていた。


「ったく無茶しやがって。悪いなメイドゥーン、仕事中に」

「いえ、ジェイク様の命であれば」


 淡々とそう返すのは、ラストゥード家の私設兵であるメイドゥーンだった。腰にまで届く銀色の髪が特徴的な、美人の女性。たしか年は二〇後半あたりだったとドルトムントは記憶している。

その隣にいるのは当代勇者のリーダーであるジェイク=ラストゥード。


 決勝戦まではあと一時間程度はある。休息をとる事と体の治療をするための時間だが、リリーとリリックの対戦が棄権によって中止になり、そのおかげで余計に時間を貰う事ができた。


「あんな戦い方をしてると、いつか死ぬぞ」

「お優しいことだな、ジェイクさんよ」


「分家のガキを気にかけるのが、それほどおかしいことか?」


 投げやりにそう言ったジェイクは、溜息をついて近くにあった椅子に腰かける。

 ラズグッド家の主流はラストゥード家にあたり、ジェイクは昔からよく稽古をつけてくれていた。勇者になってからは数える程しか会えてないが、それでも大聖祭は見に来てくれたらしい。


「決勝戦の相手はあの半魔だぞ? 解ってるだろうな?」

「半魔には負けるなって言うのだろ?」


「ああ、その通りだ。ましてあのハーフエルフは、ルイス=アドレルトの弟子ときている」

「ルイス=アドレルト――って確か、前にジェイクが話してくれた人か?」


「ああ、半魔でありながら勇者になったあの男だ」

「代理戦争なんざまっぴら御免だぞ?」


「そんなつもりはないさ」


 そう言ってジェイクは、近くにあったコップに水を注いで唇を濡らす。


「なぁアンタさ、半魔に対してそこまで迫害心とかないんだろ? なら何故ルイス=アドレルト、だっけ? あれを目の敵にするんだ?」


「…………ふん」


 鼻を鳴らしたジェイクは、笑いながら立ち上がる。


「子供には知る必要のない事だ、お前が一人前になったら教えてやる」

「あっそ! じゃあ大聖祭で優勝したら教えてもらうからな」


「勝ってから言え」


 最後にそう言い残し、ジェイクは控室を出ていった。


「お気を悪くしないでください、ドルトムント様」


 不意にメイドゥーンが声を低くしてそう言った。


「ジェイク様も素直なお方ではないのです。試合を観戦していた時は、どの試合も楽しそうに見ておられました」

「どの試合も?」


「ええ、リリック=ワーグナーの事もです」

「……あの人って、半魔の事をどう思ってるんだ?」


「私にはわかりかねます。ただセバスから聞いた話によれば、昔半魔となにか争いがあったらしいのですが」

「あっそ、まぁいいか。メイドゥーンさん、治療を頼む」


「ええ、もちろんです」


 治癒魔法をかけてもらいながら、ドルトムントは目を閉じる。

 ラストゥード家とはもともと、半魔に対してそれほど悪感情を持っている人々ではなかった。現当主にして軍務大臣でもあるナルニアレイ=ラストゥードも、一時期半魔の部下を持っていた。


「訳ありだな」


 どういった事情があるのか知らないが、探りをいれるほどでもない。

 今はただ、体を休めるべきだろう。


 知り合ったのは一次試験の時、二次試験では拳を交え勝利を勝ち取った。だが本戦までの一週間で、彼は見違える程の強さを得ていた。魔人化による圧倒的なまでの膂力。ドルトムントが相手の力量を見誤るはずもなく、リリックの力をしっかりと理解した。


「我が恋敵、相手にとって不足なし」





  ××××





 羅刹vsドルトムントの戦いからもうすぐ一時間になる。十分体を休められたリリックは控室の中で準備体操を始めた。フリーシェとアイニールの二人は観客席に戻り、今控室にいるのはリリック一人だ。


「ふぅ……」


 ドルトムント=ラズグッド。

 相当な強者。


 これまでの人生でリリックは常に人から虐げられてきた。ルイスと出会うまで、人間に向き合うなんて事一度だってなく、関わりを持った人間は母親たった一人だけ。


「…………」


 良い人は居ると知った。

 農家の老人や、クロード、それにガイリック。人間でありながら、半魔であるリリックを拒絶しない人間もいる。


 だが、彼らに勝ちたいかと問われれば、そうではないかもしれない。老人やクロードはそもそも兵士でも戦士でもない。ガイリックはいつか超えたいと思っているが、勇者に勝てるのは勇者だけだ。


 だから、リリックが自分の為に戦い、そして勝ちたいと思う相手はドルトムントが初めてなのかもしれない。


「やぁ、リリック」


 突然扉が開き、ルイスが顔を出した。


「ルイスさん、どうしたんだ?」

「ん? まぁ、激励にかな?」


「そうか……」


 リリックが小さく応えると、ルイスは近くにあった椅子に腰を下ろす。


「ルイスさん、俺はアイツに勝てると思うか?」

「……君はどう思う?」


「分からない」

「そっか、じゃあ私と同じだ」


 微笑みながら言ったルイスを、リリックは思わず見上げた。


「力が対等な者達の勝敗を決めるのは、戦術と運くらいだよ。だから私にも分からない」

「対等?」


 それはつまり、ドルトムントとリリックの力が同じだという事だろうか。


「自信を持っていいよ、君は強い。あとはもう自分の為だけに戦うといい」


 魔人化を教えてくれた時、ルイスはずっとリリックを気遣っていた。明日勇者が選ばれるのであれば、荒療治も進んで選んだろうが、そうではないのだからゆっくりと強くなっていけば良い。


 何度もそう言っていた。

 だがドルトムントに勝ちたいから、無理を言って魔人化を教えてもらった。


 それには深く感謝している。


「羅刹くんを生徒にならないかって誘ったんだけどね、断られちゃった」

「アイツを!?」


「才覚だけで言えば申し分ないでしょ?」


 淡々とした調子のまま応えるルイスに、リリックは頬をかく。


「仲良くできる気がしねえんだけどな」

「それは話してみれば変わるかもしれないでしょ? なにより彼はアイニールと似た境遇だったらしい」


「アイニールと?」

「羅刹くんの体内には魔物の魂が埋め込まれていた。その結果人格が侵されたり、記憶がまだらになった事もあったみたいだよ」


 アイニールの事についてはリリックも知っていたが、羅刹も同じような状況だとは知らなかった。羅刹が魔人化をした時、リリックもある程度ではあるが動揺したが、それが理由ならある程度納得できる。


「でも断られたんだろ?」

「まぁね。あの子は勇者を目指すとか、そういった目標は無いみたいだ。大聖祭に参加したのも、暇つぶしというか戦場から追い出された結果らしい」


「戦場から?」


 リリックは世界の情勢についてあまり深くはない。もともとがエルフの里で暮らしていたこともあり、そこを追い出されてからも近くにあった街の軍人になっただけだ。あまり外の世界に触れる事がなかった。


「まぁあんまり興味ねえし、生徒にならねえんだったら聞いても仕方ないか」


 そう呟きながらリリックは立ち上がって部屋の扉を目指す。


「ルイスさん、俺勝つから。見ていてくれよ」

「うん、もちろん。皆で見るよ」

「そっか……」


 ドアノブに手をかけた所でリリックは立ち止まり、振り返ってルイスを見る。


「お、お……」


 そして言いよどみながら、頬を赤らめながら。

 リリックは大声で怒鳴る。


「お、応援しろよ! 絶対だからな!」


 呆気に取られていた様子のルイスだったが、唐突に口を大きく開けて笑い出すと、立ち上がってリリックの肩を叩きて来た。


「わかった、皆で応援するよ」


 恥ずかしさで顔が赤くなる気分を胸に感じながらも、リリックは控室を後にした。




 ××××





 闘技場の中央にて、ジューナ=オ=ラスクは観客席を眺めた。

 リリック=ワーグナーvsバイエルン戦ではハーフエルフが勝った事もあり、一部では荒れていた所もあったが、ドルトムントvs羅刹戦のお陰で良い方向に盛り上がっている。


 ドルトムントの強さは素人目でも分かりやすい事もあり、本人の人気も相まって下馬評ではドルトムントが圧倒的に優勢だ。彼を一時期指導していたジェイクの性格を考えると、よくもまぁこんなにも人気者になったのだと感心する。


「あの子には厳しい戦いかもね」


 大聖祭に半魔が出場する事すら稀である。まして優勝するなんてこの数十年で一度もなかった。そもそも半魔は人前に出たがる事もないし、勇者を目指すような殊勝な者も少ない。


 虐げられている世界を救ってやろうなんて物好きは、やはり居ないのであろう。

 半魔だけの戦闘員で構成された赫黒部隊の中にも、一級兵士に並ぶ実力を持っている者も多くいるが彼らは実利だけを求めるのがほとんどだ。英雄になれるかも、なんて淡い期待を持ったとしても、ルイスのようになるだろう。


 命がけで戦ったのに、報酬を貰えなかったルイスが反旗を翻さなかったのは奇跡に近いだろう事を、王都上層部は理解しているのだろうか。いくらルイスが一時の気の迷いで行動する愚か者でないとしても、気が変わるなんて事はいくらでもある。


 もし彼と戦うような事になれば、残りの当代勇者八人を集めたとしても良いとこ五分だ。その上ガイリックやメリッサなど、ルイスに対して並々ならぬ感情を抱いている。彼に加担する事だってありえる。


 ふと観客席のある一点、ジューナが用意したビップ席に目を向けると、ルイスとその弟子達が仲睦まじく話し込んでいた。


「…………」


 ジューナの視線に気が付いたのか、ルイスはこちらに微笑みを投げかけてきた。

 彼はどう思っているのだろう。


 ジューナは特筆するほどルイスと仲が良いというわけではない。だが魔王を倒すという同じ目的を持った者同士、交流を深める事は多々あった。だが、それでも、ルイスには時々壁を感じる時がある。


 それが種族という壁なのか、ルイス自身が心に立てている壁なのか。

 あるいは、その両方か。


「フッ……」


 生徒達と楽しそうに笑いあうルイスを見て、ジューナは思わず笑みが零れた。

 なんにせよ、あの子達がいる限りルイスは大丈夫だろう。


 ジューナ自身、半魔に迫害心が無いのかと問われれば、あると答えるだろう。

 彼女が兵隊だったころ、仲間を半魔に殺された。


 それがきっかけで、半魔を強く憎む事もあったが、今は個を全体とみるような事はしていない。

 だからこそ、リリック=ワーグナーの事も、一人の人間として扱い、立ち会うつもりだ。


『長らくお待たせしました! いよいよ決勝戦の開始です!』


 実況の声に顔を上げ、ジューナは気を引き締めた。


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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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