表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/82

33話 勧誘


 リリックの傍を、傷だらけのドルトムントが通り過ぎていく。声をかけるべき場面なのかどうかは分からないが、それでもリリックから声をかけるのは柄ではない。

 深刻なダメージだろう。

 平然と歩いているようにも見えるが、体幹が少しだけブレている。


「我が恋敵よ」

「なんだ?」

「決勝戦、遠慮はいらんぞ」


 そう言い残して、ドルトムントは通路の奥へと消えていった。


「…………」


 遠慮、お互いが全快の状態であればそんなものを挟む余裕なんてない。自分が魔人化の反動で受けたダメージ、そしてドルトムントが羅刹と戦った上で受けたダメージ。どちらが大きいのかで言えば、もちろん後者であろう。


 だが手を抜く事、それが優しさなのかと言えばそんなわけがない。


「リリックぅ~!」

「フリーシェ! それにアイニール!」


 通路に現れた二人に、リリックは手を挙げた。


「決勝進出おめでと! リリック、すっごいカッコ良かったよ!」

「おう、ありがとなフリーシェ」


 近くまで小走りで駆けてきたフリーシェの頭を撫でて、リリックはアイニールへと目を向ける。

 一部仰々しく包帯が巻かれているが、歩く姿はもう問題なさそうだ。


「傷は平気か、アイニール」

「ええ勿論。ルイスに治してもらいました」


「そりゃ良かった、ところで馬鹿女はどこいった?」

「…………ふむ、メイアの事ですか?」


 アイニールの言う通り、メイアの姿が無い。それどころかルイスの姿も見えないのは少し変だ。この二人が来ているのなら、あの二人も来ていると考えるのが当然なのだが。


「メイアはルイスに呼ばれてどこかへ行きましたよ、なんだかメイアの眼を借りたいとか、なんだとか……」


 顎に指を添えて思い出そうとするアイニールは、一瞬だけ固まるとニマニマと変な笑みを浮かべた。


「もう、メイアが来てくれないのがそんなに不満なのですか? このこのぉ!」

「ませたガキだなぁ、お前はよ……」


 適当に答えてアイニールの額にデコピンをし、リリックは控室に足を向けた。

 しかしメイアの眼を借りたい事とは、いったい何だろう。




  ××××




 その姿を見た瞬間、メイアは息を飲んだ。

 否、姿というよりはその中身、目の前で拘束されている羅刹という名の男の内側に、無数の虫が蠢いているような、体内で蟲毒が行われているような気持ち悪さが詰まっていた。もっと内側を覗く事もできるだろうが、目を凝らした瞬間、中に居る何かと目が合った。


「ヒッ……」

「大丈夫かい?」


 思わず悲鳴を上げてしまったメイアを、安心させるようにルイスは肩を叩いてきた。


「ご、ごめんね先生。怖くて」

「そうか。でも彼の中に巣食う者があるなら、教えてほしいんだ」


 メイア達がいるのは、闘技場の地下にある牢獄のような部屋。ここへ連れてこられる前、ルイスから眼を貸してほしいと言われた。聞けば先ほどまでドルトムントと戦っていた羅刹は、アイニールのように他の魂を植え付けられているらしい。彼女と違うのは、ノヴァではなく魔物だということらしいが。


 それがどのような魔物なのか、調べるのがメイアの役目だ。


「彼の体の中に、虫みたいなのが無数に蠢いている。体がまるでアリの巣みたいに食い破られているみたい……」


「なるほど、体の中か」


 目の前にいる羅刹は、うつ伏せのまま手足を光の柱で固定されている。

 気を失っているようだが、体から溢れ出る魔力が室内を満たし、異様な空気に包まれていた。


 押しつぶされそうな、息苦しくなるような空間にメイアは息を荒げる。


「一応私が治療したんだけどね、動けるようになった瞬間暴れだしたのよねぇ。とりあえず拘束したんだけど、魔物関係ならルイスの手が必要だろうなって思ったの」


 ジューナがそう呟き、それにルイスは頷きだけで応えた。


「ねぇルイス。この子、なんで暴走してるの?」

「多分魔人化の副作用だろうね、魔物に人格を支配されているらしい。昔私の仲間がこうなっているのを見た事がある」


「その人はどうなったの?」

「死んだ。というよりは死ぬ以外に止める方法が無かった」


 淡々と話すルイスに、メイアはためらいがちに目を向ける。魔眼は発動したままなので、ルイスの過去も見えるかと思ったのだが、どうやらプロテクトをかけているようだ。


 だが、それでもその表情はどこか悲しげだった。


「じゃあこの子も殺処分する? 私としても放置しておくわけにはいかないのよね」

「……そうだねぇ、まぁ殺すしかないかなぁ」


「ルイス先生?」


 あまりにも呆気なく応え、神造武具を具現化させたルイスにメイアは思わず後ずさる。

 自分の知っているいつもの先生とは違う雰囲気に、メイアは冷や汗をかいた。


「ジューナ、拘束を解いてくれ」

「いいの? 暴れるわよ?」


「大丈夫、それよりメイアを守ってくれ」

「りょーかい、じゃあ拘束解くわよ?」


 そう言ってジューナが指を鳴らすと、羅刹を拘束していた光の柱が消滅する。


「ガァァァアアア!」


 それと同時に跳ね起きる羅刹の姿は、人の顔をしていなかった。右目は三つに分かれ、それぞれが複眼のように格子状になっており、右腕は合計七本にまで増殖していた。やせ型だった体は膨れ上がり、部屋の天井を砕く勢いで膨張している。


「なるほど、右か」


 その瞬間、ルイスの剣を覆っていた包帯が解け、その刀身を露にする。

 メイア自身も初めて見る、ルイスの武器。


「神器解放――赫月輪廻」

「うわっ、ヤバ!」


 そう叫んだのは羅刹ではなく、となりにいたジューナだった。

 彼女は大慌てでメイアを胸に抱くと、目の前に分厚い結界を張る。


「街ごと切らないでよ!」


 街ごと?

 その意味が理解できなかったメイアを無視して、ルイスはその刀身を振った。薄く国鉄色に輝く鉄の板にすら思える刃が羅刹の肩から袈裟切りに、なんの躊躇もなく一閃に振られた。


「え?」


 そこでメイアは一瞬だけ見えた、ルイスの持つ剣がより一層黒さを増した瞬間を。


「ガァァ……アァ……」


 黒い血潮を傷から吹き出し、羅刹はその場に座り込む。やがて四肢を垂れたまま、首を垂れた。

 気を失っているのは見ただけで解るが、それ以上に羅刹の膨張していた体がしぼみ、もとの痩せ型な体へと戻っていった。


(何が起こったの?)


 文字通り目を凝らして見るも、メイアには何が起こったのか理解できなかった。ただわかったのは切られた羅刹には傷跡が無いという事と、ルイスの持つ剣から黒煙のようなものが溢れ出ている事くらいだ。


「ちょっとルイス、解放するなら先に言ってよ!」

「ごめんごめん、だけど仕事は終わったよ」


 そう言ってルイスが親指で後ろを指さすと、人間の姿に戻った羅刹の姿があった。先ほどまで彼の体内を蠢いていた虫のような何かは消え去り、ただ普通の、何でもないただの男の子の姿だ。


 心臓は動いているし、彼の中で意識があるのをはっきりとメイアは見ている。

 殺していない。


 それだけは確かだ。


「……グッ!」


 唐突に、呻き声と共に羅刹は目を開けた。

 そして体を起こし周囲をキョロキョロと眺めた後、茫然とした表情で正面に立つルイスを見上げる。


「ボクは、一体……?」

「ふぅ、治ったようだね」


 治った?

 ルイスの言葉でハッとしたようにメイアが羅刹を観察すると、体のどこにも魔物のような影はない。


 何が起こったのか、メイアにはさっぱりだった。

 羅刹が切られた事は確かなのだが、その傷も無くなっている。


「アンタは確か……」

「そう言えば自己紹介をしていなかったね、私の名前はルイス=アドレルト。赫黒の勇者と呼ばれて――いや、呼ばれてないか」


「一体、俺に何をしたんだ?」

「君の中に混ざっていた魔物を切り取った、と言っても分かりにくいかな? まぁなんにせよ、君はもう魔物との融合はなくなった」


「……何だと?」


 そう問い返しながら羅刹が自分の体を確認し、数秒それを続けたあと唖然とした表情でルイスを見上げる。


「一体、どうやって……いや、それよりもなぜ俺を助けた?」

「まぁ色々と言いたい事はあるんだけどね、それより君に勧誘したい事があるんだ」

「勧誘?」


 ルイスが勧誘と言った時、メイアはふとある事に思い至った。

 だが、そんな事をするとは思えない。

 そんな事を考えていたメイアを無視して、ルイスは微笑みながら、


「君、私の生徒にならないかい?」



 羅刹へそう告げた。


先週は休んで申し訳ないです。

お詫びに三日連続くらいで更新します!


それとオーバーラップとMFの新人賞両方一次突破してました~!

久しぶりの一次通過でとても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ