6話 尋問会
ルイスとメリッサが並んで座り、その対面に生徒達四人が並んで座る。
「いやぁゴメンゴメン、驚かせちゃったわね」
頭に大きなタンコブをつくったメリッサは、照れ隠しをするかのようにそう言った。
羞恥心のあるポイントが、どこか人とずれている。
ルイスは改めてそう感じたが、あえて口には出さなかった。
「あの、メリッサさんって本当に勇者なんですか?」
「え、私? そうよ?」
話しながらメリッサが腕を振ると、そこに一本のナイフが具現化した。
神造武具。
刃渡りが三〇センチほどの小さなナイフ。
ルイスの包帯が巻かれた剣と同じ、メリッサの持つ神造武具だ。
「これが私の神造武具だよ。触ってみる?」
リリックは驚いたように目を見開き、ルイスもまた同じように呆れた。
今日会ったばかりの人に触らせていい物ではないだろうに。
そんなルイスの思いとは裏腹に、メリッサはテーブルにナイフを置いた。
「良いんですか?」
メイアが動揺しながら問うが、メリッサは笑いながら頷くだけだ。
「手に取っても良いよ、まぁ手に取れればの話だけど」
意味深のようにメリッサが言うが、メイアはそれを無視してナイフの持ち手に指をかける。
そして腕を引いたのだが、
「え、持ち上がらない?」
立ち上がり腰を入れて持ち上げようとするが、ナイフはピクリとも動かない。
まるで山のように重く感じているのか、メイアの顔が血で赤くなる。
「嘘でしょ、何で?」
「何してんだ、メイア」
「これ持ち上がらないのよ、重すぎて」
「そんな小さいナイフが重いわけないだろ」
そう言ってリリックが立ち上がり、ナイフを手に取った瞬間その表情が曇る。
そして顔を赤らめながらありったけの力をいれているようだが、ピクリとも動かないナイフに眉をひそめる。
「なんだ、コレ。どうなってんだ?」
リリックは驚愕の表情を浮かべ、ナイフを持つ手を離した。
神造武具の特性についてルイスはほとんど教えていない。
だからその表情も無理はないだろう。
「神造武具ってのは資格のある人間しか動かす事はできないのよ」
得意気な顔をしたメリッサは、机に置いてあったナイフを手に取ってヒラヒラと遊ばせる。
そして指一本でナイフを支え、生徒達を見つめた。
「これが神造武具だけど、知らなかったの?」
「私はまだその辺りは教えてないからね。武具を引こうとしても動かないってのは教えたが、勇者が抜いた後の事は話さなかった」
勇者が引き抜いた後の武具は、同じ勇者にしか動かす事はできない。
他人が神造武具を盗もうとしても、盗めないという事だ。
そして、勇者が死ぬとその勇者が持つ神造武具も消滅する。
これらの事は、まだ教えていない。
「なるほどなぁ、そう言う事なのか」
リリックが関心したように呟くが、メイアは表情を曇らせたままだ。
「……って、そんな事はどうでもいいのよ! そんな事より話すべきことがあるでしょ!」
メイアは怒ったように口調を荒げ、そしてルイスを見つめてきた。
「ルイス先生の婚約者って本当なんですか!?」
「ええ、そうよ」
「違う」
隣でメリッサが顔を向ける気配があるが、それでもルイスは違うと言い切った。
一方で真逆の答えを受け取った生徒達は、困惑しているようだ。
「え、あの、どっち?」
「ルイスと私は婚約者よ」
「私とメリッサは婚約者じゃない」
「ちょっとルイス! 何言ってるの?」
「君こそ何を言っているんだ、私は君と婚約した覚えはないぞ」
「酷すぎる、私との約束はどうするのよ」
「君が一方的に交わした約束だろう」
まるで水掛け論のように口論を交わす二人の間を、メイアが割って入る。
そして二人の顔を交互に見てから首を捻った。
「とりあえずルイス先生から、事情を説明してくれる?」
どこか怒ったような気配を感じつつ、メイアは静かにそう言った。
なぜか背筋に鳥肌が立つ。
それほどまでに怒らせてしまったのか。
「えっと、どこから話そうか」
メリッサとルイスの馴れ初めは、勇者になった四年前からだ。
語ればすぐだろうが、それでも色々と複雑でもある。
「じゃあまず、メリッサと戦った頃から話をしようか」
××××
ルイスが神造武具である剣を引き抜いた後はかなり面倒な事になった。まず王都の執政官達がルイスを勇者として認めるのかどうかを話し合ったのだが、王がそれを強引に中断させてルイスを勇者に選んだ。
そしてその後、ルイスは既に選ばれていた勇者の面々と対面した。
彼らの多くは半魔が勇者に選ばれた事に驚いていて、見知った顔もあったがそのほとんどが選定に異議をもっていた。
ルイスの勇者を認めたのは、ガイリックとベヘリットの二人だけ。
反対は四人、その中の一人がメリッサだった。
ジェイクを筆頭としたルイスの勇者選定の反対派。
その一員だった。
「アンタみたいな弱そうなのが勇者なんておかしいでしょ!」
それが初対面。
印象としては最悪の部類に入るだろう。
実際にルイスはしばらくメリッサが嫌いだった。
今はそうでもないのだが、それでもかなり苦手意識があった。
「それが何で婚約者になるのよ」
ルイスの回想を中断させ、メイアが顔を近づける。
「い、いや、そこから先は私が本当に勇者の資格があるのかという事で決闘になり、それに見事勝利した私がメリッサに認められたというだけだ」
「それが何で婚約者になるわけ?」
「そ、それは……」
「ねぇリリック、婚約者ってなぁに?」
ルイスが返答に詰まっていると、フリーシェがリリックに問いを投げていた。
そんなフリーシェを見て、メリッサは顔を近づける。
「やーん、この子可愛いわね。アナタなんて名前?」
「えっと、フリーシェです……」
相変わらずの人見知りを発揮し、フリーシェはリリックに寄り添った。
リリックの腕に掴まり、怯えた表情を浮かべている。
「フリーシェちゃんね、ほらコッチにおいで」
そう言ってメリッサはフリーシェを軽く抱き上げて自分の膝に乗せた。
フリーシェの前で手を交差させ、怯えるフリーシェのことなどお構いなしだ。
「――チィッ!」
メイアの舌打ちが聞こえ、目を向けると背後に炎が見える程に怒っていた。
初めて見る表情に、ルイスも内心冷や汗をかく。
「メリッサさん、そんな事は今どうでもいいんです。肝心なのはなんで婚約者になったかって事ですよ!」
「えー、簡単な話よ? 私は自分より強い男と結婚したかったの」
あっけらかんとした表情で、メリッサは簡単に言いきった。
「ルイスが私より強かったから求婚したの」
説明不足でも何でもない。
文字通りメリッサは自分より強いからという理由で求婚して来たらしい。
「本当に苦労したのよ、ルイスの行き先を誰も教えてくれないし」
ガイリックは、ルイスが彼女の事を避けていると理解しており、事情を察して追放先を言わないでおいてくれたのだろう。ジェイクも答えなかった事は謎だが、どちらにせよ居場所を知ればメリッサは間違いなく押しかけてきただろう。
「既成事実さえ作っちゃえばコッチの物だと思ってたのに、まさか邪魔が入るなんて思いもしなかったわ」
「勇者の考えじゃないよねソレ、英雄の考えじゃないよねソレ」
ルイスは突っ込みをいれながら肩を落とす。
なんにせよ生徒にとんでもない光景を見せてしまったのは事実なのだ。
「でも正直油断ならないわね、まさかこんな可愛い子を三人も囲ってるなんて」
「フリーシェは男だよ」
「可愛ければ男も女も関係ないわよね~フリーシェ?」
「え、あの、その……」
「やーんこの子可愛いわぁ、ねぇルイス貰っていい?」
「駄目に決まってるでしょ、何言ってるんですかアナタは!」
机を叩いて立ち上がり、メイアはメリッサを睨む。
「というか非常識ですよ、女が夜這いだなんて」
あれを果たして夜這いと呼んでいいのだろうか。
そんな事を考えたがルイスは口を挟まなかった。
「ん~? 嫉妬してるのかしら? 大丈夫よ、私は可愛い子なら男の子でも女の子でも構わないから」
「いやそう言う話じゃなくて」
「じゃあどういう話? ルイスに結婚を迫ってアナタにどんな不利益があるの?」
考えていなかったのか、メイアは目を泳がせながら固まった。
そして何も思いつかなかったのか、助けを求める視線をリリックに向ける。
「アンタも何か言いなさいよ!」
「えぇ……俺ぇ?」
困ったようにリリックは頬をかき、そして数秒唸った後に話を始める。
「はぁ……えっとメリッサさんッスよね。ルイスさんは俺達の先生なので、結婚されると困るというか……その、何だろ……別に良くない? ルイスさんが誰とどこで乳繰り合おうと……」
「良くない!」
メイアの剣幕にリリックも押されているようだった。
そりゃそうだろう。
「そう言えばこの子達ってどういう集まり? 生徒ってこれで全部なの?」
メリッサは生徒達を眺めながらそんな事を呟いた。
まぁ学校といいつつも生徒が四人だけならそうなるだろう。
「勇者を育てる学校なんだよ、だから生徒達も才能ある子達だけだ」
「相変わらず変わった事をしてるわね」
メリッサはそう言って笑うが、そんな彼女を睨みながらメイアはまた口を開く。
まるで額に青筋が見える程の剣幕だ。
「アナタは半魔を嫌ってたんでしょ、そんな人がルイスさんと結婚っておかしくないですか?」
「あら? 昔はそうだったけど、今は違うわよ。今はルイスの事を愛しているわ」
「ぐぬぅ……」
昔は昔、今は今。
実際メリッサが言うようにルイスはもう気にしていない。
昔揉めた程度の事を、今更になって掘り返す気はない。
「あ、そうだ!」
メリッサが何かを思いついたかのように手を叩く。
そしてルイスの方に目を向けて、また笑った。
「ルイスと結婚したら私も一緒に先生になるわ。そしたら教えられる量も二倍になるわよね!」
「そんなの私が嫌です!」
その後も続けるメイアとメリッサの口論を眺めながら、ルイスは肩を落とす。
「駄目だこりゃ」
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