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5話 予期せぬ襲撃








 仕事と言っても、やる事は単純だ。

 ルイスがこれまで覚えてきた魔法の基礎や、実戦で身に着けた知識を書き殴るだけ。


 王都から魔法に関する書物を取り寄せてもいいのだが、勇者を育てるという性質上他と足並みを揃えるのは得策ではない。


 ましてやルイスが直接、しかも少人数に教えるのだからそれに見合う書物なんて作る他ないだろう。


「ふぅ、疲れた」


 自分で肩を揉みながら、ルイスは一息つく。


「皆仲良くやれているようで安心だ」


 アイニールとメイアは特に仲が良い。

 馴染めるかどうかルイスも気を使っていたのだが、メイアはまるで妹ができたかのように毎日べったりだ。


 アイニール自身も、ノヴァの憑依がなくなった事でそれなりに年相応な感情表現を得ている。


 フリーシェは皆を兄や姉のように慕い、アイニールとは同い年の友達として仲良くしているし、リリックもメイアと時々小競り合いを起こすが、それでも皆と仲良くやれている。


 あれならば、放置していても問題はないだろう。


「さぁて、もう一踏ん張りだ」


 もう少しで仕事も終わる。

 そうなれば後は眠るだけだ。


 ぐっすり寝て、明日は思う存分楽しもう。



――カラ。



 唐突に扉の開く音が聞こえ、ルイスは顔を向けた。

 机の位置からは扉が見えないので、誰が入ってきたのかは分からない。

 生徒達がもう帰ってきたのだろうか。


「フリーシェ? メイア? 誰だい?」


 声をかけてみたが反応はない。

 ルイスはペンを置いて立ち上がり、そして扉の方へ移動する。

 そして扉を覗いたが、そこには誰も居なかった。


「……空耳か」


 なんて事を呟き机に戻ろうとした瞬間、ルイスの体が突然宙を舞いベッドに叩きつけられた。


(——何だと!?)


 気づけば、誰かが部屋の中に侵入していた。

 フードを被り、顔は見えないがシルエットは女性。


 だがそれよりも、油断し気を抜いていたとはいえ、ルイスにまったく気づかせない気配の隠し方が異常だった。


「見つけた!」


 女は叫ぶと、飛び上がって天井に着地する。

 そして足を折り曲げて脚部に力を入れると、天井を跳ねた。


「見つけたぞ、ルイス!」


 女はそう叫び、そしてフードを取り払った。

 そして――女の顔を見て、ルイスは青ざめる。


「まさか、お前は――」



 ルイスが叫ぶと同時に、その体はタックルによってベッドに叩きつけられた。








  ××××








 リリックは紅茶を飲みながら、フリーシェとアイニールが仲良く星を眺める光景を見ていた。

 こうして美形が二人揃うと、随分様になる。


「なぁに黄昏てんのよ、ルイス先生のマネ?」


 そんな声と共に、ソファに座っていた自分を押しのけてメイアが隣に腰掛ける。

 尻で押し出し、リリックを端まで追いやってメイアは一息ついた。


「星なんて学校でも見れるだろ」

「馬鹿ね、皆で旅行っていう非日常の中で作る思い出が大切なんじゃない」


「そういうもんなのか?」

「そういうもんなの」


 呆れたように溜息をつくメイアを横目にしながら、リリックは空を仰ぐ。

 ルイスが怪我をした理由を、前にメイアから聞かされた。


 そうなった経緯も、原因も、洗いざらい全て。

 そしてルイスがどのような事をメイアに話したか。


 メイアはかなり渋っていたが、それでも学校での最年長者であるリリックには話しておくと言っていた。

 あの人がどのような悩みを抱いていたのか。


「メイア、お前勇者になるのか?」

「何よ改まって、なるって前に言ったでしょ」


「……うん、なら別に良い」


 フリーシェはルイスのようになりたくて、メイアはルイスの為に、そして自分は皆を見返すために。

 だが、アイニールはどうなのだろうか。


 あの少女はこの学校に留まっている。

 ルイスから聞いた話によると、身寄りもないので王都に送り返すよりもこの学校で育てた方が彼女の為になるとの事だ。


 境遇には同情するし話してみると良い奴だと理解した。だから自分としては仲間として扱うつもりだが、アイニール自身はどう思っているのだろうか。


「ルイスさん、疲れてるだろうな」

「そうよねぇ」


「俺達も助けにならねえとな」

「ならアンタは好き嫌いせずにトマトを食べなさいよ」


「いーやーだー!」


 両耳を塞ぎ、リリックはメイアに背を向けた。

 前にルイスが作ってくれた料理でトマトを残したらメイアと大喧嘩になった。


 ルイスも好き嫌いは良くないと言っていたが、それでもトマトは嫌いなのだ。

 あの皮が嫌いなのだ。


「子供みたいに拗ねるんじゃないわよ!」

「それでも嫌なんだよ!」


 言い争っていると、フリーシェとアイニールが心配そうにこちらを見ていた。

 だがメイアはそんな事を気にせず、リリックにヘッドロックをかける。


「好き嫌いばっかりしてるから目に隈なんてできるのよ!」

「これは寝不足で隈が焼き付いちまっただけだ!」


「規則正しく好き嫌いしなければ、そんな事にはならないわよ!」

「うるせえ、なっちまったもんは仕方ねえだろ!」


 そんな会話を交わす二人を見て、フリーシェとアイニールは顔を見合わせながら首をかしげていた。









 星を見るのにも満足し、四人は部屋に向けて足を進めていた。

 あと数日で十月になる所まで来ると、夜もやはり冷え込む。

 風邪をひいては旅行の意味もなくなるので、切り上げた。


「綺麗だったね」


 フリーシェがそう言うと、メイアは頷く。


「そうね、ルイス先生にも色々と教えてもらったし」

「しかしメイアも星については中々詳しかったですね」


「私は星が好きだからね」

「へぇ、そうなんですか」


 なんて会話を交わしながら四人が進むと、部屋の扉が半開きになっている事に気付く。


「あれ、ルイスさんドア開けっぱなしじゃねえか」

「ホントだ、珍しいわね。あの人几帳面なのに」


 メイアと顔を見合わせながら扉を開き、そして中へと入る。


「ルイスさーん、ただいま」


 声をあげたが返事はない。

 リリックは首をかしげながら中へと入り、その後ろをフリーシェ、アイニール、そしてメイアと続く。


 そしてルイスの寝室の扉を開け、中に居ないかと顔を出した時。

 リリックは目を丸くして絶句した。


「リリック、どうしたの?」



 脇をすり抜けて中へ入ろうとしたフリーシェの目を、リリックは大慌てで塞いだ。

 この光景を見せるわけにはいかない。



「どうしたのよアンタ達、何見てるの?」

「メイア、今すぐアイニールの目を塞げ」


「え? どういう事?」

「いいから!」


 リリックの慌てた声に半ば押されつつ、メイアは言う通りにアイニールの目を塞いだ。

 そして首を伸ばして寝室の中を覗き、リリックと同じように絶句した。


「——嘘」


 メイアは息を呑み、アイニールの目を塞いでいた手を退けてその口を塞いだ。

 そして目隠しから解放されたアイニールは、部屋の中にあった光景に目を見開く。


「ル、ルイスさん?」


 リリックがそう声を出すと、部屋の中にいたルイスは慌てたように顔を上げる。

 そして青白くなった表情で、声を出した。


「リ、リリック!? 皆!? 待ってくれ、これは誤解だ!」


 そう声を出すルイスの姿。

 上半身は裸で、ベッドに横になっている。


 だが、この程度ではリリックは驚かない。

 リリックの目を引いたのは、ルイスの上に居る女。


 上半身が裸のまま、ルイスに跨る一人の女に目を奪われた。


「あの人」


 後ろ姿だけで、メイアは風呂場であった女性だと気が付いた。

 赤色の髪をした美人。


 スタイルの良い、引き締まった肉体をもった女性。


「ル、ルイス先生も大人だもんな。そういう事をするって理解してるよ。まぁ行きずりの女とそんな事をするとは思ってなかったけど」


 リリックは脂汗をかきながら、目を泳がせる。

 それでもフリーシェのこの光景を見せまいと、目隠しする手に力を込めた。


「いや誤解だって!」


 ルイスがそう叫ぶが、どうみても誤解ではない。

 仕事というのは、こういう事か。


 なんて、頭の片隅で考えてしまう。


「ねぇリリック、どうして僕は見ちゃダメなの?」

「子供にはまだ早いからだ」


「メイア、私の目も覆う必要はありましたか?」

「そうだった! アンタも子供だった!」


 大慌てでアイニールの目を塞ぐメイアは、頬を赤らめながらルイスから目を逸らす。

 こういう行為を見るのは初めてだ。


「ねぇルイス、この子達だれ? 知り合い?」


 騒ぐ自分達に、ルイスに跨っていた女性は首だけで振り返ってきた。

 下着は何もつけていない、完全なトップレス。


「私の生徒達だ」

「え? じゃあ学校造って教師になったって本当なの?」

「ああ、本当だってば!」


 なにやらルイスは必至そうに言っているが、リリックとメイアは何がなんやらわからなかった。

 あの口ぶりからして、二人は知り合いなのだろうか。


 そんな疑問を脳内で繰り返していると、女性はルイスから降りて目の前まで歩いてきた。


「始めましてね、私はメリッサ・マキシモフ。よろしく」


 一直線に来たから、女性は服を着なおす事なんてしていない。

 だからリリックの前でも、上半身は裸だった。


「服を着ろ、服を!」

「なんで、私に見られて恥ずかしい所なんてないわ」


「そういう問題じゃない!」

「ルイス先生! リリックが鼻血を!」


「おぉい、リリック。君はそんな初心なキャラじゃないだろ!」


 ルイスは大慌てで近くに脱ぎ捨てられていた服を女性に投げる。

 すると女性は面倒くさそうにその上着を羽織り、リリック達に向かい合った。


「じゃあ改めて自己紹介ね」


 女性は膝に手をついて、目線を合わせる。

 そして薄く微笑み、名乗った。


「私は『剛腕の勇者』メリッサ・マキシモフ」


 勇者——メリッサと名乗る女は、確かにそう言った。


「ルイスのパーティーメンバーで――」


 そこで一度言葉を区切り、そしてメリッサは横目でルイスの方を振り返った。








「ルイスの婚約者よ」






 空気が凍ったような気配を、メイアは感じた。

 実際、ここに居る誰もが矢継ぎ早に飛んでくる情報に付いていけない。


 それでも時は進み、リリック、メイア、そしてフリーシェの三人は大きく息を吸った。





「「「婚約者!?」」」






「ほう?」


 アイニールだけが興味深そうにニヤリと笑い、他の三人は声を揃えて驚いていた。


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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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