第32話:騎士は姫の為に-Urozená Hrdost-
ついに始まったメジナーロドニー大会。
そのプログラムは着実に消化され、ついにわたし達ドヴォイツェ・スニェフルカの番が来た。
対戦相手はブリタイキングダム第1代表ドヴォイツェ・サムシングエルス。
「ご機嫌よう、ドヴォイツェ・スニェフルカ。今日は良い試合にしましょう」
「はい。リザベルさん、ミーガンさん、よろしくお願いします」
わたしはリザベルさんと、そしてアマユキさんがミーガンさんと握手を交わした。
『さぁ、メジナーロドニー大会女子ドヴォイツェ部門! 次のカードはコレだぁ!』
三つ子で有名なアナウンサーの1人イオナさん。
彼女の司会が試合の始まりを告げる。
『ステラソフィア代表ドヴォイツェ・スニェフルカとブリタイ第1代表ドヴォイツェ・サムシングエルスの試合です! 一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!』
「セッカ、フォーメーションはいつも通りに」
「はいっ」
試合前の最終確認。
わたしは装騎と武装の状態、そして、手足を潜り込ませた操縦桿の具合を確かめた。
うん、問題はなさそうだ。
『試合開始の前に――アズルホログラム、スッチオーン!』
イオナさんの声で、急にフィールド全体が蒼いアズルの輝きに包まれた。
それは一瞬。
フィールドに行き渡ったアズルは輪郭を、そして色を持ち始める。
揺れる緑に空を覆う済んだ蒼。
石造りの廃墟や建造物がアズルによって形作られた。
それはアズルを用いた立体映像――霊子ホログラムによるのだ。
あっという間に屋内演習場の中に自然の景色が広がった。
『今回の舞台は遺跡のそびえるなだらかな丘! それではいってみましょう!』
わたしは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーをもう一度チェックする。
さっきから何度も繰り返している確認作業。
そう、わたしは気付いた。
もしかしてわたし、緊張してる……?
不意に、ここが大舞台だということを思い出し手に震えが走った。
「勝て――る、かな」
「セッカ」
装騎のサブディスプレイにアマユキさんの顔が映る。
その瞳は真っ直ぐわたしを見つめていた。
「何度でも言うわ。勝てるか、じゃない――勝つわよ!」
自信の炎で燃えた瞳、なんの翳りもない澄ました表情、その声にはただ勝利への確信だけが乗せられている。
わたしは顔を上げた。
そこにはアマユキさんの装騎ツキユキハナの堂々とした背中がある。
わたしは1人じゃない。
それに、この大会に備えてたくさん特訓だってした。
うん、勝とう。
アマユキさんと一緒に!
『ヴァールチュカ――開始!!』
イオナさんの掛け声と共に、まず装騎ツキユキハナが駆けだした。
わたしもその後を追いかけ走る。
不意に装騎ツキユキハナが右腕を大きく掲げた。
その手に持ったロゼッタハルバートが蒼く染まる。
まさか、これは――
「ロゼッタネビュラ!!」
「いきなり!?」
アマユキさんの必殺技ロゼッタネビュラが放たれた。
遥か先、ギィンと激しい金属音が聞こえる。
「先手必勝か……いいね」
ロゼッタネビュラの一撃を弾いたのは言うまでもなくドヴォイツェ・サムシングエルスの装騎だ。
サブディスプレイに装騎の登録情報が表示される。
幅広の短槍ルキウスを構えたブリタイキングダム製装騎カムロス。
伝説に語られる騎士のようなヒロイックな姿。
「まさにリザベルさんの……騎士」
「それでお姫様はどこかしら?」
「いました。装騎カムロスの後ろ。えっと、優雅に佇んでます」
その手に持った霊子扇グラストンベリーをなびかせる装騎アヌ。
特に何かをする様子もなく佇んでいるだけ。
「どうやら本当にミーガン1人に任せるようね」
装騎ツキユキハナは戻ってきたロゼッタハルバートを掴むと、装騎カムロスへ斬りかかる。
装騎ツキユキハナのロゼッタハルバートが装騎カムロスの短槍ルキウスとぶつかりあい、激しいアズルを散らした。
「セッカ、援護を!」
「はいっ!」
わたしも装騎カムロスにその照準を合わせると徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを撃つ。
狙いはバッチリ――だと思ったけれど、
「当たら……ないっ」
激しく装騎ツキユキハナと刃を交える装騎カムロス。
俊敏な機動で装騎ツキユキハナを翻弄するように動き回る。
「それでも、チャンスはあるはず……」
相手の動きの先を見て、アマユキさんの動き先を見て、そして撃つ。
わたし自身の射撃の腕とアマユキさんの戦闘技術を信頼すれば多少無茶なとこからでも相手の装騎を射抜くことができる。
そこまでしなければ、これからの戦いは勝てない。
「今度こそ!」
その言葉通りわたしの一撃は最高の弾道を描き、確かに装騎カムロスを撃ち抜いた――はずだった。
「また外れた!?」
確かに装騎カムロスの動きはすごい。
そんな中、装騎ツキユキハナへ誤射しないように狙うというのはとっても大変な技術を要する。
それこそ紙一重で相手に弾が当たるか当たらないかというシビアな――それどころか味方に当たるかもしれないというギリギリのところを狙わなくてはいけないことだってある。
そして今この射撃は確かに当てられるはずだった。
わたしの読みが甘かった……?
いや、これは――
「そうじゃ、ないっ。アマユキさん!!」
「斧槍が重い……それにコントロールがっ。まさかコレって……」
「リザベルさん――装騎アヌが!?」
「……でしょうね」
「さぁ、お行きなさい。わたくしのナイト! P.R.I.S.M. Akt.1――ロイヤルエール」
装騎アヌから舞い散る、アズルの輝きを感じる。
その輝きが装騎カムロスを後押しし、そしてそれはわたし達への向かい風になっていた。
「向かい風が吹くのなら――コッチは更に加速をつければいいだけよ!」
装騎ツキユキハナにアズルの輝きが宿る。
P.R.I.S.M. Akt.1、風花開花とフライア型装騎固有の加速能力の重ね掛けで装騎ツキユキハナの加速が高まった。
「力押しか。嫌いじゃない。けど――」
対する装騎カムロスにもアズルの輝きが宿る。
「加速は一番メジャーな能力なんだ」
「チッ、でしょうね!!」
「P.R.I.S.M. Akt.1……戦神一身」
装騎カムロスの動きは装騎ツキユキハナの加速を上回る速さを見せた。
よく見ると、短槍ルキウスからもアズルの奔流が見える。
加速機能を持った槍に、装騎自身の加速能力――さらに装騎アヌの支援もあわさって装騎ツキユキハナを上回るスピードを出しているのだ。
「セイジョーたるもの熱くあれ! このまま打ち負ける――そんなワケにはいかないわ!」
「ついてくる気か……いいよ、おいで」
わたしの援護射撃は全くの無意味。
装騎ツキユキハナと装騎カムロスは高速の斬り合いをしている。
となれば――
「わたしは、リザベルさんをっ」
わたしは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーをストックに仕舞うと盾ドラクシュチートから片手剣ヴィートルを抜き取った。
盾を後ろに、剣を前に――盾に集めたアズルを爆発させ、加速をつける!
その軌跡はまるで一条の流れ星――多分。
「シューティングスター!」
装騎アヌを正面に見据え、加速を重ねた。
わたしの装騎スニーフは装騎カムロスの横を抜け、装騎アヌの元へ――
「させない」
「阻まれた!?」
わたしの目の前には装騎カムロスの姿。
装騎ツキユキハナとの打ち合いをしている最中だったというのに、わたしの動きを察知して妨害してきたのだ。
「狙いは良い。これが噂に聞くステラソフィア――さすがだ」
「まだよ。セッカが作った隙は――」
「甘いっ」
わたしに気を取られてできた隙。
そこに仕掛けた装騎ツキユキハナの一撃――それも弾き返された。
1人で2騎を相手にこれだけの戦い。
伊達に、今までの試合を1騎で勝ち抜いただけのことはある。
「けど、あれだけ急激な動き――装騎が耐えられるはず……」
一番の驚きはそこだった。
わたしへの妨害も、アマユキさんの攻撃をも防いだ装騎の、そして短槍の動き。
例え目がついていこうとも、そして体を動かすことができようとも、そこまでの動きをすれば装騎をダメにする可能性が高い。
「わたしのマーズスタンスは正確には加速能力じゃない。アズルで関節などの脆い部分をカバーすることで加速や無茶な動きに耐えられる――そういう能力だ」
ミーガンさんの圧倒的な戦闘能力。
それにリザベルさんのロイヤルエールとP.R.I.S.M.のマーズスタンスが組み合わさって1騎で数々のドヴォイツェに勝利を収めたのだろう。
「そして、行くぞ!」
装騎カムロスが纏う気迫がより一層強まった。
短槍ルキウスの切っ先が装騎ツキユキハナを睨む。
「ドーン・オブ・ザ・ナイト」
瞬間、鋭い一撃が装騎ツキユキハナへと放たれた。
「ううん、違うっ」
わたしは咄嗟に装騎スニーフを走らせる。
「衝撃が来ない……!?」
防御の構えを取るアマユキさんが驚愕の声を漏らした。
アマユキさんの驚きは当然だ。
だって、相手の攻撃を防ぐために防御態勢を取ったのに、その肝心の攻撃が全くこないのだから。
確かにその一撃は放たれた――――"ように見えた"のに。
「そこだ」
最初の一撃はきっと気のせい。
この一撃こそが本命。
ガードの構えを取る装騎ツキユキハナ――その隙を突くように、
「穿つ」
「ヴェトルナー・スチェナ……っ」
わたしはP.R.I.S.M. Akt.2を発動させると風の壁を作り出し、装騎カムロスの一撃を受け止める。
「風花開花!」
そして装騎ツキユキハナの相手を吹き飛ばす風の一撃。
それは装騎カムロスを吹き飛ばし、互いの戦いを仕切り直させた。
「セッカ、私が何とか隙を作るわ。アナタはアヌを仕留めなさい」
「はい。ですけど、ミーガンさんは強いです。どうやって突破しましょう……」
「少し頭を捻らないといけなさそうね」
「脳みそこねこねですね」
「何言ってんの」
わたしの冗談にアマユキさんは呆れたような声を出す。
えっと……つまらなかった、かな?
「気持ちだけ受け取るわ。さっ、やるわよセッカ!」
「は、はいっ」
とりあえずは、今まで通り装騎カムロスと切り結ぶ。
その中でなんとか突破口を見つけ、突破手段を考える。
何ができる?
わたし達の持っている手札の中で、どのカードなら装騎カムロスを突破することができる?
「セッカ、太陽遊星天って知ってる?」
「それって……合体技の?」
太陽遊星天。
それは幅広の武装の上にほかの装騎を乗せ、カタパルトのように射出するという合体技。
多少の応用で細かい狙いは変わってくるけれど、基本的な使い方としてはそれが主だ。
確かその技はアマユキさんの憧れの先輩、ディアマン・ソレイユさん、ロズさんが得意とする技だったはずだ。
その技をやる?
わたしと、アマユキさんが?
「そうよ。私がカムロスに横薙ぎで一撃を入れるわ。そのタイミングでロゼッタハルバートに飛び乗りなさい。アヌのところまでぶっ飛ばしてあげるわ」
「できる、んでしょうか?」
「できるかできないかじゃない――」
「やる、んですね」
「セッカならできるわ」
「え?」
「次から5撃後、合図するわ」
「は、はいっ」
装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを振り上げる。
一撃目。
合体技を使うことをミーガンさんに悟られてはいけない。
二撃目。
わたしは今まで通り装騎ツキユキハナを援護する為に片手剣ヴィートルを閃かせる。
三撃目。
アマユキさんの動きを感じる――不思議とわたしの身体もその動きに合わせることができていた。
四撃目。
自然に装騎スニーフと装騎ツキユキハナが万全の位置に収まる。
五撃目。
装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを大きく構え、そして――
「太陽――」
「遊星天……っ!!」
薙ぎ払ったロゼッタハルバート――その刃にわたしは飛び乗る。
身体を押さえつけてくる重圧。
一気に加速していくわたしの装騎スニーフ。
そこに盾ドラクシュチートを使った霊子爆発による加速を加える。
わたしの装騎スニーフは、ミーガンさんの装騎カムロス――――その頭上を飛び越え、そして、
「何だって!?」
「ミーガンを突破するなんて。やりますね」
装騎アヌの目の前へと降り立った。
勢いを殺してはいけない。
加速そのまま、わたしは片手剣ヴィートルの切っ先を走らせる。
「シューティングスター!」
装騎アヌは――動かない。
いや、その手に持った霊子扇グラストンベリーを閉じるとその先をわたしの方へと向けてきた。
片手剣ヴィートルと霊子扇グラストンベリーがぶつかり合う。
「えっ」
瞬間、わたしの装騎スニーフは宙を舞った。
身体を襲う浮遊感は一瞬。
その次に、全身を揺らす激しい衝撃が走った。
装騎スニーフが地面に叩きつけられたのだ。
「王家流武術」
そう言えば聞いたことがある。
いや、ロイヤルバリツのことではなくて。
東洋では相手の力を利用することで相手を倒す技があるということを。
リザベルさんの使った技はそれとよく似たもの。
わたしの一撃――その威力を利用して装騎スニーフを地面へと叩きつけたのだ。
「それだけではありません。P.R.I.S.M. Akt.2王家領域――この力によってわたくしのロイヤルバリツはより力を増す」
そういえば宙に巻き上げられた時わたしは見た。
装騎アヌの足元、ホログラムの草原が磁界のような紋様を描いていたことを。
リザベルさんの使うロイヤルバリツの力に、P.R.I.S.M.ロイヤルフィールドの相乗効果でわたしの装騎スニーフは宙へと投げ出されたのだった。
「まだ、いけますっ」
予想外の手痛い一撃だったけれど、まだ装騎は十分に動く。
装騎アヌは仕掛けてこない。
きっと彼女が得意なのは迎撃戦。
「わたしから仕掛けなければ来ない、ということですか」
だからと言って仕掛けないわけにはいかない。
わたしだって、伊達に今まで戦いを積み重ねてはいない!
「アズルバースト!」
装騎スニーフは加速をつける。
「ロズム・ア・シュチェスチー」
それと同時にP.R.I.S.M.能力を発動させた。
「これは――っ」
装騎アヌを引き寄せ、彼女の動揺を誘う。
そして――
「スターライト・ハートビート!!」
わたしの流星は一瞬で数を増す。
流星群のような斬撃を、
「ロイヤル――エール!!」
向かい風が邪魔をした。
装騎アヌは霊子扇グラストンベリーを振り払う。
装騎スニーフがその動作につられるように地面へと叩きつけられた。
「きゃ……っ」
やっぱりリザベルさんは――強い。
「いえ、セッカさんもお強いです。まさか、あんな技を使えるなんて」
聞こえる声は穏やか。
装騎アヌもその涼し気な態度と気品を少しも崩していない。
「では、わたくしも――奥の手、使わせていただきます」
装騎アヌの纏うアズルが輝きを増した。
「王家の剣」
握りしめた霊子扇グラスントンベリーからアズルの刃が伸びる。
装騎アヌは左手を背後に回した状態で一気に踏み込むと、その刃を突き出した。
わたしは片手剣ヴィートルでその刃を弾く。
「ふふっ、たまにはいいですね。こうやって、身体を動かすのも!」
装騎アヌの突きはとても鋭い。
わたしはその一撃を、片手剣ヴィートルと盾ドラクシュチートを駆使して凌ぐ。
「えいっ!」
隙を見てわたしは盾ドラクシュチートを装騎アヌへと押し付ける。
その盾を装騎アヌは引っ込めていた左腕を表に出すと、その一撃をロイヤルバリツで受け流した。
「ひっ」
バランスを崩したそこに、ロイヤルセイバーの刃が閃く。
「ツィ、ツィステンゼンガー!!」
わたしは咄嗟に片手剣ヴィートルを盾に仕舞い、そして徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを構えた。
「は、はやい――っ!」
わたしでもビックリだ。
まさかこの一瞬で、徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを発射可能な態勢にまで持ってこれるなんて。
そしてもう一つビックリなのは、わたしの撃ったツィステンゼンガーの一撃を装騎アヌが回避したことだった。
「辛うじて……と言ったところですけれどっ」
無理な態勢で回避したからだろう。
装騎アヌのロイヤルセイバーもわたしの装騎スニーフには当たらない。
「わわっ」
「……っ!」
そしてバランスを崩したわたし達2騎の騎体が激しくぶつかった。
瞬間、わたしの視界を蒼い輝きが遮った。




