第31話:誇りを持って高貴たれ-Královskí Rytíři-
時期は11月。
寒さが肌を刺すようになってきたこの頃、ついにその日が訪れた。
全世界から選ばれた代表騎使が相まみえる一大イベント。
メジナーロドニー大会――その日が!
「すごい……人…………」
「全世界から選りすぐりの騎使達が集まる装騎イベントなのよ。当然でしょ」
アマユキさんの言う通り、大きく掲げられた各国の国旗と様々な人たち。
今この場は世界と言うものを一つに集めたようだった。
「この大会……ドヴォイツェ部門以外にも、いろいろ――あるんですね」
「知らなかったの?」
アマユキさんの純粋に驚いたような声。
まぁ、確かに自分たちが出る大会のことをよく知りもせずに参加するっていうのは……我ながらバカだと思う。
「そうよ。個人戦から団体戦――それに装騎競技までありとあらゆる種目をするのよ。この大会わね」
わたし達の出るドヴォイツェ部門は、各国で行われた大会の結果32組のドヴォイツェを選出。
16ドヴォイツェずつAとB――2つのブロックに分けてのトーナメント戦を行う。
そして、5回の試合を勝ち抜いたドヴォイツェが騎使女王となる。
「あぁら、ナンバー2じゃない!」
不意にかけられた声。
よく知っている声がよく知っている言葉を紡ぐ。
「ドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァ……」
そこにいたのはマルクトルーキー選抜代表ドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァ。
相変わらずふんぞり返ったような態度を見せるオズドベナー・レカルアさん。
そして泰然自若として余裕の態度を見せるナラヂトヴァー・ヤロスラヴァさん。
そう、わたし達ドヴォイツェ・スニェフルカが打倒を目指す因縁のドヴォイツェだった。
「もしかしてわたくし達の応援に来てくれたのかしら?」
「まさか!」
レカルアさんの言葉をアマユキさんが鼻で笑う。
「私達はステラソフィア代表ドヴォイツェ・スニェフルカよ」
「アンタたちがステラソフィア代表ぉ!? ステラソフィアの質も下がったものね」
「何とでも言いなさい。楽しみね、そう自信満々のアナタの鼻を明かすのが」
「そういうアナタ達こそ、火に溶けた雪娘のようにあっさり消え去らないようにするのですわね」
売り言葉に買い言葉。
アマユキさんとレカルアさんの間には険悪な空気が漂っている。
「ドヴォイツェ・スニェフルカか――君たちは僕たちとは別のブロックみたいだね」
「別ブロック……ってことは、決勝戦まで勝ち上がらないと再戦、できない?」
「そうなるね」
「ふふん、それならそれで楽しみじゃない! アナタ達みたいな即席ドヴォイツェがどこまで勝ち上がれるか見ものですわねぇ!」
「ふん、ソッチこそそのドデカい態度のせいで足をすくわれないように気を付けることね」
舞い散る火花。
一通り睨み合った後、両者同時にそっぽを向いた。
「全く、レカルアは相変わらずだ。彼女はこんな態度だけど、僕はとても楽しみだよ。君たちとまた戦える時がね」
そういうヤロスラヴァさんの表情に嘘はない。
どこかうっすらだけれど、笑みを浮かべているような気さえする。
「けれど――君達は1回戦から厄介な相手と戦うことになるようだ」
「厄介な相手、ですか?」
ヤロスラヴァさんが差し出したトーナメント表。
わたしはドヴォイツェ・スニェフルカの名を探し、そしてその対戦相手の名へと視線を移す。
「ドヴォイツェ・サムシングエルス……」
それがわたし達の1回戦の相手――その名前だった。
「ご機嫌よう。ドヴォイツェ・スニェフルカ」
穏やかで優しい声がわたし達を呼び止める。
そこに立っていたのは穏やかな笑みを浮かべる1人の女性。
いや、よく見るとその背後――鋭く目を光らせるもう1人の女性の姿もあった。
「ドヴォイツェ・サムシングエルスね」
ブリタイキングダム第1代表ドヴォイツェで、わたし達の最初の相手。
「はい、わたくしはステュアート・リザベル。そしてこちらがわたくしの騎士――」
「アヴァロン・ミーガン」
淡白――というよりは必要最低限のことしか口にしないタイプなのだろう。
「それで私たちに何の用かしら?」
「セイジョー・アマユキさん、コスズメ・セッカさん。わたくし達とお茶をしませんか?」
リザベルさんに連れてこられたのは首都カナンにそびえる最高級ホテル・ユキハナ――その一室だった。
「ミーガンの淹れる紅茶はとても美味しいのよ」
リザベルさんはそう言いながらわたし達を椅子に座るよう促す。
その椅子はわたしのような素人目に見ても分かるくらい高級感の溢れる椅子。
こ、こんな椅子に座ってもいいのだろうか……?
「よろしいですよ。わたくしが許可します」
リザベルさんにそう言われると、なぜだか抵抗感がなくなった。
まだほとんど会話はしていないけれど、彼女から不思議なカリスマのようなものを感じる。
「それにしても、その、すごい部屋ですね……」
丁寧に整えられた一室。
高級感に溢れる内装はここが高級ホテルだからかと思ったけれど……
「ええ、ミーガンが用意してくれましたの」
リザベルさんの言葉から、この家具は全て自前のものだと言うことが判明した。
「ミーガンさんがですか!?」
「ええ。わたくしはここまでしなくてもいいと言ったのだけど……」
「お嬢様をみすぼらしい部屋に居させることはできない」
静かに紅茶をテーブルの上に置きながらミーガンさんはそう言った。
「みすぼらしい、ですって?」
ミーガンさんの言葉に意外にもアマユキさんが反応した。
「マルクト共和国屈指の大財閥セイジョー財閥が誇る超高級ホテルに泊まって――言ってくれるじゃない」
「セイジョー財閥、セイジョー・アマユキ……あなたはセイジョー財閥の方ですの?」
「そうよ」
「あらあら……失礼致しましたわ。ミーガンも謝罪を」
「は。申し訳ございません」
「なんか釈然としないわね……」
「まぁまぁ、アマユキさん」
わたしがアマユキさんをなだめている間にも、ミーガンさんは黙々と準備をしていく。
テーブルの上には様々なお菓子が並べられ、とても美味しそうな匂いを発している。
「早くしないと紅茶が冷めてしまいます。美味しいうちにどうぞ」
リザベルさんはわたし達にそう勧めながら紅茶を飲む。
わたしとアマユキさんはそれに倣って紅茶を口に付けた。
「おいしい……!」
「…………ほんとね」
「ね、ミーガンの淹れる紅茶は世界一でしょ?」
「はい!」
それから何気ない会話が始まる中、わたしはずっと考えていた。
きっとアマユキさんもだろう。
それはわたし達がヤロスラヴァさんから聞いたこのドヴォイツェ・サムシングエルスの話についてだ。
「そう言えば聞いたけれどアナタ達――いえ、アナタ」
アマユキさんが目を向けたのはミーガンさん。
「"たった1人で"戦って、ブリタイ代表を勝ち取ったらしいわね」
そう、ヤロスラヴァさんが言っていたのはそのことだった。
なんでもこのドヴォイツェ・サムシングエルスは――今までの試合全てミーガンさんたった1人で勝利したとか。
「ええ。ミーガンはとっても頼もしいわたくしの騎士なの」
1人で2人を相手にし、そして、国の代表にまで上り詰める。
彼女の力は侮れないものがあった。
けれど……本当に?
わたしはリザベルさんを見る。
どれだけミーガンさんが強くてもたった1人でそこまで勝利を重ねられるものなのだろうか?
「これも姫……いえ、お嬢様が共にいてくださったからです」
「ふふ、謙遜だわ」
ミーガンさんが静かに頭を垂れる。
「ミーガンはいつもわたくしを守ってくれるの。子どもの頃からそう――ずっと、ずっと一緒にいたわ」
それから聞いたのはリザベルさんとミーガンさんが幼い頃の話。
2人とも家同士に縁があり、幼いころから姉妹同然に育ったこと。
ミーガンさんはいつも傍にいてリザベルさんを守ってくれていたこと。
「ミーガンったらおかしいのよ。紅茶にミルクを入れるんじゃなくてミルクで紅茶を煮出しちゃうの」
「東の方ではそういう淹れ方があると言うので……」
「ええ。とても美味しかったわ」
なんだか半分はのろけ話を聞いてるような気分になってくるが、2人の結びつきがとても強いのがよく分かる。
そしてその結びつきは――
「脅威ね……」
古くから一緒にいて、互いのことを知り尽くした2人組。
最高クラスの腕を持つ騎士、ミーガンさん。
今までの試合、その実力を全くあらわにしていないリザベルさん。
「長く引止めしてしまいましたね。駅までお送りします」
「お嬢様はホテルでお待ちを。わたしがお送ります」
「いいの。わたくしとても楽しかったわ。そのお礼代わりです」
「しかし、日も暮れます。外は危険です」
「危険があればミーガンが護ってくれるでしょ?」
「はい」
「では行きましょう。ふふっ、なんだかお友達とイケナイコトをしてるみたい!」
日はすでに傾き、刻一刻と闇が深くなっていく。
「セイジョー・アマユキさん。ごめんなさいね、こんなことに付き合わせてしまって」
「なんで?」
「わたくしがお話している間、あなたは詰まらなさそうだったから……」
「別に。お世辞にも楽しかったと言うつもりはないけれど、コチラにとって利はあったわ」
「あら、わたくし喋りすぎてしまったかしら?」
「いささか」
「ごめんなさい。わたくし、お友達と呼べる方がミーガンしかお傍にいなくて。あなた達は歳も近いものですからつい」
「わたしは楽しかったです。またリザベルさんやミーガンさんとお話したいです!」
「ありがとうコスズメ・セッカさん」
やがて見えてきたのは、眩い光を発するカナン駅。
「リザベルさん、ミーガンさん、試合では正々堂々戦いましょうっ」
「ええ、最初の相手があなた達で良かったわ。きっと楽しい試合になることね」
「セッカ、そろそろステラソフィア行きの機関車が来るわよ」
「お嬢様、そろそろ……」
「あ、はいっ、アマユキさん」
「そうね。次は試合で会いましょう」
和やかに手を振るリザベルさんを背に、わたし達は駅へと足を踏みいれた。
「お嬢様、警戒を」
「ええ、わかっています。やはり彼女の差し金、ですか……?」
「恐らくは」
「こんな異国にまで刺客だなんて、大層ですね」
「だから私は言ったのです。日が暮れては危険だと」
「だからわたくしは言いました。あなたが、護ってくれるでしょ?」
「はい」
ミーガンは静かに頷くと、剣を閃かせた。




