ベナンの町
ベナンの町を一言で表すなら、素朴。
ファンシーアの様な個性もなく、シュミラの様な賑わいもない。
ボルワーツ王国の入り口でありながらも、ベナンはファンシーアとそう距離もないため、商団も入国手続きを済ませるだけで通過していく町だと言う。
もう少し先にあるロニアの町は薬草から作る薬が特産で、そこで商談の為に宿泊するのが普通だと護衛してきた商人が教えてくれた。
「いやぁ、『フェアリル』の皆さんに護衛を依頼して本当に良かった‼︎」
「皆さん無事でなによりです。」
渓谷での襲撃を事前に察知した私達は、商団に傷一つつけることなく、瞬時に盗賊を制圧した。
しかも盗賊は最近周囲を騒がしていた有名な盗賊団で、町の警備隊にも、ギルドにも、大変感謝されているらしい。
「本当に助かりましたよ!ファンシーアでは冒険者達も盗賊団を嫌がって、護衛依頼を引き受けてもらえずに困っていましたから。」
「そうなんですか?」
まさかあの受付嬢…護衛依頼を受理したままだったのはわざとか⁉︎
「噂では40人を超える凶悪な盗賊団と聞いていましたので、仕方がない事でしょうな。我々も諦めるしかないかと思っておったのですが、魔法使いと治癒師のいるパーティーが護衛して下さるならと出発を決意しました。が…予想以上の活躍に、年甲斐もなく胸が踊りましたぞ!」
盗賊団は左右の崖を馬で一気に駆け降りて奇襲してきた。
あの時、商人達は死を覚悟したと言う。
けれど、商団の馬車にはフィオナの結界が張られ、私が全方位への風魔法でソニックブームを放ち盗賊達は落馬。
混乱している隙に、イグニス、ギルベルト、ミスティが無力化していき、あっさりとケリがついた。
「しかし、本当によろしいんですか?」
「えぇ、こちらこそ助かります‼︎いやぁ、私は幸運な男ですよ‼︎はっはっはっ‼︎」
この商人のテンションが高いのはそれだけの理由ではない。
フェリスでは考えられないが、南の大陸には奴隷制度があり、今回捕まえた盗賊達は、全員もれなく犯罪奴隷になるそうだ。
しかも、奴隷達の所有権は捕まえた者に与えられ、若く屈強な男は鉱山夫として高く売れるらしい。
ギルドから奴隷紋を刻まれた盗賊達の権利書を渡されてドン引きしていると、商人が買い取りを申し出てくれた。
奴隷達はもちろん、盗賊団の馬の所有権も、ギルドだと安く買い叩かれてしまいますよ‼︎と助言をくれたので、ギルドに売るより安く売ることにし、そのかわり、盗賊団が溜め込んでいた貴金属で持ち主が分からないものに関しては、道中の孤児院に商会の名で寄付して回る様にお願いした。
質の高い奴隷と馬を安く手に入れられ、孤児院への慈善活動に商会の名を使えば評判も上がるのでいい事づくめだと商人は喜んでくれているが、こちらとしては全て丸投げで申し訳ないので曖昧に笑って返しておく。
「…と、言うわけで、思わぬ大金を手に入れてしまったわね…」
この討伐報酬も孤児院に…とお願いしたら、それをすると他の冒険者達が仕事をし難くなると言う事で止められてしまったが、さて、この金貨をどうするべきか…
「ルミ嬢、ここはやっぱり経済を回す為にも使っちゃうのが良いんじゃない?」
「…それもそうね!じゃあちょっと派手に使っちゃいましょうか!」
旅人が通り過ぎる町 ベナン。
この夜、ベナンの広場では、盛大な宴が開催された。
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「乾杯!」
広場のあちこちから聞こえてくる乾杯の声に、鳴り響く音楽、漂う美味しそうな料理の匂いに、子供達のはしゃぐ声。
「わぁ、このワイン、本当に美味しいですね!」
「甘口だがスッキリして飲みやすいな。」
あの後、まず向かったのは警備隊の詰め所。
盗賊団から町を守ってくれていたのはあなた方なのだから、良ければ今夜は褒賞金で一緒に飲まないかという誘いをかけた。
喜んでくれた警備隊の人達に、家族や友人も誘ってきてね!でも大人数で騒げる場所はある?なんて話をしたら、中央広場の利用許可もおりた。
うん、予想通り。
あとは商店街で食材を買い漁り、店主や買い物客にも声をかけながら歩いた結果、町を挙げてのお祭り騒ぎになってしまった。
「ママ〜‼︎こんなにお肉がたくさん‼︎本当に食べてもいいの⁉︎」
「女神様に感謝して食べるのよ。」
(へぇ、ボルワーツ王国は女神信仰なのね。)
「はぁい!女神様、ありがとうございます!」
…何故こっちを見てお礼を…
何故私を拝むの⁉︎
どこから見ても冒険者でしょ⁉︎
「ふふ、ルミ様は世界共通の女神様ですからね!」
「やめて…。そんな性格じゃないことは、もうみんなも知ってるでしょ?」
「俺は知れば知るほど女神様だと思うけどなぁ。」
「僕もそう思います!」
「ははっ、民から慕われるのは悪いことじゃない。」
「もぅ、本当にそんなんじゃないのに‼︎」
グラスのワインを一気に飲み干し、ほぅ、と息を吐く。
この世界では16歳からワインを飲めるけど、過保護なお兄様達に止められて、今まであまり飲んだ事がなかった。
こんな風に気兼ねなく飲めるのも、冒険者ならではの気安さだろう。
(美味しい…。前世は未成年で飲めなかったけど、こんなに美味しいものだったのね。)
テーブルに並べられたオードブルも、とってもワインとの相性がいい。
特に柔らかなクリーム状のチーズを生ハムで巻いた一品が美味し過ぎて、ついついワインが進んでしまう。
「ルミ、少しペースが早くないか?」
「お料理が美味しくてついね。」
「ルミ様、こちらの果実酒も美味しいですよ!桃の香りと甘味が濃厚で、こちらのりんご酒はサワーで割ってあるので爽やかです。」
「ありがとう、フィー。」
桃のお酒で乾杯すると、周囲が一段と賑やかになってダンスが始まった。
老若男女、子供達も輪になって踊り出す。
「わぁ!楽しそうですね!」
「ふふっ、女の子達がイグ達を見てソワソワしてるわね。一緒に踊りたいみたい。」
「じゃあルミ嬢、俺と踊ってくれますか?」
「ごめんなさい。今はちょっと酔ってるから、後で踊りましょ?」
ギルベルトの誘いを断ると、勇気を振り絞った女の子達がテーブルを取り囲み、三人をダンスの輪へと連れて行く。
(計算通りね‼︎)
そう、これは全部私の計算による状況‼︎
ゲームの中で、ヒロインはお酒に弱い事と親友のミシルに話していた。
なので、宴の喧騒と酔いに任せて、フィオナの本心を聞いちゃおうって作戦だ。
ちなみに、私やフィオナに誰も声をかけてこないように、認識阻害の魔法障壁と防音壁を張ってある。
「フィオナ、顔が赤いけど大丈夫?」
「ふふっ、顔に出やすいのでお恥ずかしいです〜」
酔ってても可愛いフィオナは、りんご酒がお気に入りなのか、ゴクゴクと速いペースで飲んでいる。
これは潰れてしまう前に話を聞かなければ。
「あ〜、ファンシーアでは大変だったわよね。」
「はい‼︎まさかイグニス様を連れ去る女の子がいるなんて思いませんでした!イグニス様はルミ様のなのにっ‼︎」
「それなんだけどね、確かにイグニスは私の騎士ではあるけど、恋愛は自由だし、そんなに怒らなくても…」
「…ルミ様は怒ってないんですか?」
「えっ?そう、ね。あの我儘振りに怒ってないと言えば嘘になるけど、メルルはイグニスに一目惚れみたいだし、驚きすぎて怒るのも忘れてたかな。」
「確かに凄い行動力でしたものね…」
「…そうね。でも、メルルの前に飛び出したフィオナの行動力にも、私は驚いたのよ?」
聞くなら今、今しかない‼︎
「もしかして、フィオナはイグニスが好きなの?」
ニッコリとなんでもない風を装って聞いてみる。
ちょっと目もとろんとしてるし、今なら本音が聞けるはず…
「もちろん好きですよ〜?イグニス様もギルベルト様も〜かっこいいですし〜、ミスティ様はかわいいしぃ〜」
違うよ〜、そうじゃなくて、
「確かにみんな素敵よね。じゃあ、フィオナは恋人にするならどんな人がいい?タイプとかさ。」
「タイプ…」
ハッキリ名前が出なくても、これならある程度絞り込めるはず。
コテンと首を傾げて考える姿は、なんともあざと可愛いけど…これ他の人の前に出しちゃダメなヤツだ‼︎
みんな惚れちゃうヤツ‼︎拐われる‼︎
「そぅですねぇ〜…優しくてぇ、強くてぇ、」
これは共通よね…
「とっても頼れてぇ、凛々しいけど可愛くてぇ、」
これも共通…何気にみんな可愛いものね。
「なにより美しくてぇ」
美しい…それって、アレクティス?
でもライラックも美人顔だし…どちらにしろ、ここにいない二人のどちらが本命の可能性が高いわね。
「フィオナはそんなルミリア様のすべてが大好きなんですぅ!」
「私かっ‼︎」
へにょりと笑ったフィオナは、私のことをいかに好きか、尊敬してるか、尊いか、を力説してくれた。
本音は聞けたけど、違う…そうじゃない…と、恥ずかしさも相まって、ついついお酒を飲みすぎた。
(わ、わらしが酔ってどうすんの〜…)
ふわふわとした心地良さと、大好きなフィオナが伝えてくれた言葉の数々が嬉しくて、目的も忘れて顔が緩んでしまう。
「ルミリア、大丈夫か?」
「ん〜…いぐにす?あれ?障壁は〜?」
「っ、…だ、だいぶ弱ってはいるが、張ってあるから心配するな。俺達にはお前がくれた魔石があるから入れたんだ。」
「そっかぁ…魔石を使いこなせて優秀らねぇ!よしよし!」
「なっ…酔い過ぎだ!宿の手配をしたから、もう帰ろう。」
「ん〜…」
ふわふわふわふわ気持ちいい。
もう目が…開かない…
このまま寝たら、いい夢が見られる気がする…
でも…何か大切なことを忘れてる気もするんだけど…
「いいから寝てろ。」
「…ん、いぐにす、優し…」
「…こんな事をするのはお前にだけだ。」
ため息混じりの呟きを遠くに聴きながらも、温かな体温に身を委ね、そのまま意識を手放したのだった。
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「ん〜…頭が痛い…」
「大丈夫ですか?お水どうぞ。」
翌朝、酷い頭痛と酒臭さで目が覚めると、昨日と同じ服装のままのフィオナと私がいた。
どうやら酔い潰れたのを運ばれたらしい。
「途中から記憶がない…フィオナは覚えてる?」
「実は私お酒に弱くて、乾杯から後は何も覚えていないんです。」
「そう…。取り敢えずお風呂に行きましょうか。このままじゃ酷すぎるわ。」
二日酔いで顔はゲッソリ。
髪はボサボサで、服はシワシワ。
これでイグニス達の前に出るなんて、『フェア☆恋』には出来ません。
自分とフィオナに解毒の魔法をかけて二日酔いを治し、ランフォートの浴室にテレポートする。
フェリスでは珍しくもないお風呂だけど、基本的にお風呂は貴族や裕福な商人なんかしか使わないらしい。
魔法なしで水汲みは大変だし、薪を燃やすのも手間と時間がかかるから、庶民は川や湖で身体を清めたり、桶のお湯で身体を拭くくらいしか出来ないとか。
冒険者になったからには、郷に入っては郷に従えっていうし、浄化の魔法と湯桶で我慢してたけど、今日は少しゆっくりしたい気分だ。
「朝食の時間まではまだあるし、ゆっくりしてから戻りましょ。」
「えっ、あの…ご一緒してもよろしいんですか?」
「私とフィオナの仲じゃない。あ、一緒にお風呂は抵抗があるかしら?」
「まさか‼︎光栄です‼︎こんな素敵なお風呂に、ルミリア様とご一緒出来るなんて、夢のようです‼︎」
「ふふっ、大袈裟なんだから。」
でもランフォート家のお風呂が素敵なのは本当。
だってこれは、お父様が愛するお母様の為に造らせた特注品なのだから。
「グリフィス領は温泉が多いから、お母様がとってもお風呂好きなの。」
「公爵様は奥様をとても愛していらっしゃるんですね。」
「そうね。両親は私の理想の夫婦像だから。」
赤やピンクの薔薇が浮かぶ湯に身を浸し、甘やかな薔薇の香りを深く吸い込む。
これはお母様の香りだ。
「理想の夫婦像…。そっか、立派な見本が身近にあったのね…」
当たり前の光景すぎて、思いもしなかったけど、私が理想とするのは両親の様な関係なのだ。
愛して、愛されて、沢山の子供に囲まれて…
「あ、あの、ルミリア様、世界は、広いと思うんです‼︎」
「フィオナ?」
グッと距離を縮めてきたフィオナの瞳が必死に見えて、「そうね。」と微笑み返す。
「きっと…色々な愛情があって、色々な夫婦があって、景色とか、美味しいものとか、色々…だから、その…旅…続けますよね?」
あぁ…ヒロイン尊い…
マジで可愛い…
「もちろんよ!フィオナと行きたいところはまだまだあるのよ?夏休みは始まったばかりだもの!」
「はいっ!私もルミリア様とご一緒したいです!」
キラキラの可愛い笑顔が眩し過ぎる…
うちのヒロインちゃんは、本当に天使だ。
ヒロイン力半端ない!
攻略対象者達が恋するのも納得の可愛さだ。
前世で初めて逆ハーレムエンドを知った時、現実じゃありえないって笑った自分に教えてやりたい。
選ばれしヒロインなら、現実でも迎えられるエンドだと。
メルルで痛い目にあったけど、あえて言わせて欲しい。
可愛いは正義だ‼︎
この後、のぼせるまで旅の話で盛り上がり、旅先に戻った私達がミスティに心配されて泣かせちゃったのは、次のお話し。
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