夏休みイベントに向けて
パーティーから抜け出した私達は、そのままギルドへ戻るとボルワーツ王国へ向かう商団の護衛を受けてすぐに街を出た。
言いたい事だけ言って消えたのだから、後処理は色々大変だろうけど、それはイグニスを勝手に差し出した受付嬢令嬢達へのお仕置きだとでも思ってほしい。
護衛依頼は昨日受付嬢が受注票をクシャクシャにしたものの、一連の騒ぎで受注はそのままになっていたから助かった。
「ぶっ、か、カボチャパンツっ、」
「次口にすれば斬る…」
「ギル、イグは『フェアリル』の為にメルル嬢の言いなりになっていたのよ?感謝こそすれ、笑うなんて失礼だわ。」
商団の馬車に揺られながら聞いた話しは酷いものだった。
イグは『フェアリル』を盾に脅され、あのメルルプロデュースのカボチャパンツスタイルを着せられ、一切口を開かないよう命じられていたのだ。
散々メルルの我儘に付き合わされて、イグニスは身も心も疲弊しきっている。
それに追い打ちをかけるなんて…ギルベルトにもカボチャパンツを着せてやろうかしら。
(それにしても…やっぱりあれはイグニスルートの夏休みデートイベント…よね。)
断定するには色々と違い過ぎるが、否定するにはセリフや状況が酷似していた。
(イグニスルートなら、フィオナはイグニスが好きなの?でもあの時、フィオナは『ルミ様のもの』って言っていた。あれは私の騎士だからなのか…それとも私がイグニスを好きだと思ってるのか…)
「あの衣装、きっとミスティ様なら似合ってたでしょうね!」
「えぇっ⁉︎に、似合いませんよ‼︎」
…絶対似合うと思う。
うん、絶対可愛い。
フィオナの様子を見ている分には、特別ギルベルトを意識している感じはしない。
そもそも誰かに恋してるって雰囲気もない。
ゲームの中の彼女は、恋を自覚した途端に乙女思考になってたし、気付かないわけないって思ってたんだけど…
もしかして、この場にいないライラックやアレクティスなのだろうか。
(一度アレクティス達も連れてくるべきね。じゃないと夏休みイベントが発生しない。ギルベルトとミスティの夏休みイベは…)
「それより、次のボルワーツ王国とはどんな国なんだ?あまり聞かない国だが。」
記憶を辿っている耳に声を掛けられ、慌てて笑顔を貼り付ける。
「国土は広いけど、特別な資源や農産物がないから、フェリスまで名前は聞こえてこないのよ。農業中心の自然豊かな国ね。それと…王国とは言っても、ガラシアの属国で、ザナク王国との壁として存続を許されているらしいわ。」
この南大陸で名高いのは、戦争が絶えない戦闘狂民族のガラシア王国、自然に恵まれたボルワーツ王国、鉱山が多く鍛治技術で戦争兵器を次々と生み出すザナク王国の三代大国。
ボルワーツはガラシアとザナクに挟まれていて、長年の戦いで疲弊していたところをガラシアに強襲されて陥落した。
これでガラシアはボルワーツという名の壁を得て、食糧問題をボルワーツに任せ、自分達は思いのまま暴れられるようになった。
けれどガラシア王の後継者争いが激化して、今は開戦どころではないらしい。
「次期ガラシア王はボルワーツとザナクを手に入れ、国土だけなら世界最大の国の王になれるわけだから、後継者争いは当然だろうね〜。」
「ガリュー王子はこんな大事な時期にフェリスへ留学に来ていたんですね。やっぱり暗殺を恐れてでしょか?」
「いや、あの王子が暗殺に臆するとは思えん。最強と名高いフェリス軍の視察か、人脈作りか…」
「それと魔法の情報…でしょうね。」
私の言葉にハッとした顔をして、言わんとした事を理解してくれたらしい。
そう、ガリュー王子は魔石を持っていた。
しかも大会で魔石の力を使えていたのだ。
ガリュー王子の派閥がどれだけの規模を持つのかは分からないが、もし、兵士が皆魔石を使って戦えるなら…
「そ、そういえば、ガリュー王子は王になるって自信満々でしたね…」
「魔法を理解し、魔石を使いこなすことが出来るなら、フェリス軍の戦い方を応用して自軍を強化する事が出来る。それに、フェリスという大国との人脈を持っていれば、ガリュー王子は魔法すら操る王子として支持を集められるでしょうね。…なるほど、私へのプロポーズも、剣術大会出場も、すべてはこのためだったのなら納得いくわ。」
「「「それは関係ないと思う…」」」
「自分で言うのもなんだけど、私は公爵家の娘で、フェリス大将軍の孫娘よ。そしてティターニア様の愛し子で強い魔力も持っている。加えて結婚適齢期だもの。魔石を使い後継者争いを勝ち抜く王子の伴侶役にはうってつけだわ。」
これでガリュー王子は、未知の力である魔法をも操る強王となるだろう。
「でもでも‼︎アレクティス様が優勝したんですから、もうガリュー王子は関係ないですよね⁉︎」
「ミスティ様の言うとおりですよ。もう関係ない話しですし、ルミ様が気にすることなんてありません。純粋に旅行を楽しみましょう!」
「…そうね!ボルワーツは果物がとっても美味しくて、ワインが美味しいそうよ。」
色々気になることはあるけれど、それにフィオナ達を巻き込む事はないし、何より今は夏休みイベントが最重要‼︎
お父様からも手を出すなって言われてるしね!
「ガラシアの砂丘と海のコントラストは絶景で、最高のデートスポットらしいよ!」
「化学の発展しているザナクの街並みや生活も興味深いと、以前ライラックが話していたな。」
ほぅ、ライラックが…
「ならザナクに行く時は、ライラックも誘いましょうか。」
「いいですね!きっと喜ばれます!」
フィオナが乗り気…
そして化学とライラック…
これは夏イベントの予感⁉︎
「ふふっ、楽しく…イグ、ギル。」
「「‼︎」」
商談の馬車が渓谷を抜けきる直前、周囲に醜悪な気配を感じて全員が身構える。
「さぁ、キッチリお仕事をして、ボルワーツで美味しいワインを飲みましょうか。」
この日の夕方、私達は40人の盗賊を引き連れてボルワーツ王国の入り口、ベナンの街に到着した。
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