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バースディパーティー



「まさか王子様がイグニスだったとは…」


「私はてっきりミスティ様だとばかり思ってました。」


「僕には無理です‼︎」


実は私もミスティが王子様役なんだとばかり思ってた。

可愛いものが大好きなら、ミスティ一択だし。

けど、どうやらメルル嬢は凛々しい王子様がお好きらしい。


あれからイグニスは拐われるように馬車…ポニー車?に乗せられて、メルヘン商会の屋敷に連行されてしまった。

取り残された私達は、二人の受付嬢から土下座謝罪をされて、明日のパーティーに警備員として客を装い出席するようにお願いされた。


…実はメルヘン商会からパーティーの警備依頼があったが、誰も引き受けなくて困っていたらしい。


謝罪を受けながらも、面倒ごとをまとめて押し付けられた感はあるものの、イグニスを連れて行かれてしまった以上はどうにもできず、私達はパーティーに参加する事になった。







そして翌日…


「こ…これは…」


「わぁっ‼︎お似合いですわっ‼︎さすがは妖精の国フェリスの冒険者様方‼︎」


「メルヘン商会指定のドレスを、こうも優雅に着こなせるなんて‼︎しかも美男美女でお似合いですわっ‼︎」


大絶賛の受付嬢達…

うん、これはいい加減キレても良いんじゃなかろうか?


「ルミ様とっても綺麗…」


「えっ?」


「あの、まるでティターニア様のようですっ‼︎」


キラキラした瞳で見上げてくるのは、コロポックルのような衣装を着たミスティとフィオナ。

…可愛いなぁ。


「ルミ嬢レベルになると、なんでも着こなせちゃうね。すごく可愛いよ。」


「なっ‼︎か、可愛いなんて…」


思わず赤くなった顔を押さえるが、やっぱりこれはないと思う。

何やら嬉しそうなギルベルトの衣装はピーターパンで、私の衣装はティンカーベル。

乙女ゲームの世界観だからか、この世界にもこういった童話は多く伝わっているみたい。

でも…こんなムキムキなピーターパンいないからね⁉︎

ミスティとフィオナはメチャクチャ可愛いけど‼︎

ムキムキな青年の半パンはキツいよ⁉︎

ふくらはぎとかパンパンだよ⁉︎


「本当に可愛いよ。でも、他の男には見せたくないかな…」


「そうですね。ちょっと露出が高すぎて心配です。」


「ちょっとじゃないわよ⁉︎」


絵本で見ると可愛いけど、リアルティンカーベルはありえないほど露出が高い。

葉っぱで作ったドレスをイメージしたスカートは太ももの際どいとこまで見えてしまうし、胸元だって開きすぎ。

背中は羽根を付けるために腰近くまで開いたデザインで、間違っても公爵令嬢に許される様な格好ではない。


「申し訳ありませんが、メルヘン商会指定の衣装でないと参加が出来ないんですよ。大丈夫‼︎皆様とってもお似合いですから‼︎」


綺麗!可愛い!似合ってる!と太鼓判を押して、受付嬢達は私達を馬車に押し込めて送り出した。


(あの人達…これは依頼達成後にお仕置きが必要じゃないかしら…)


引きつる頬をさすりながらため息を吐きながら、隣ではしゃぐミスティとフィオナの愛らしさに癒される。


(ま…ものは考え様だよね。前世でも一度コスプレしてみたいと思ってたし、せっかくなら楽しまなきゃ損…あれ?そう考えると、やりたい事リスト一つ達成?)


ゲームキャラのコスプレがしたかったんだけど、それは日常生活がコスプレみたいなものだし、憧れたハロウィンもティンカーベルならありな気がする。


「わぁっ‼︎これがメルヘン商会のお屋敷…」


停まった馬車を降りれば、そこはまさにおとぎの国。

見渡す限りのコスプレ集団、派手なサーカス団、可愛い食べ物の露店、空に舞うバルーン。

盛大なお祭り騒ぎだった。


「ルミ嬢‼︎七色の綿菓子です‼︎」


「宝石みたいなキャンディー‼︎」


「ふふっ、フィー達は露店を回ってきていいわよ。私とギルは一度イグの様子を見てくるわね。」


可愛いコロポックル達を見送り、屋敷を目指して人混みを歩く。

魔女や妖精、熊やパンダ、小人に天使に猫耳にうさ耳…

これならティンカーベルも浮かないだろう。


「お手をどうぞ、可愛い妖精さん。」


「ふふっ、ありがとう。素敵なピーターパン。」


ギルベルトはピーターパンを知らないらしいけど、パッと見お揃いの私達の衣装を思ったより気に入っているらしい。歩きながら簡単にピーターパンの話をしてあげると、なぜだか嬉しそうな顔で握った手に力を込めた。


「そっか、ティンカーベルはそんなにピーターパンが好きなんだね。」


「そうね。ウェンディにやきもち妬いちゃうシーンがとても可愛いの。」


「でもここにウェンディはいないよ?」


「?」


「だから、(ピーターパン)は、(ティンカーベル)だけのものってこと。」


繋いでいた手の甲にリップ音を立ててキスされて、一拍置いてからカッと顔が赤くなる。


(ふ、不意打ちっ‼︎)


そうだった!ギルベルトは油断ならない相手だった!

最近集団行動だったし、ルミリアの警戒心も解けていたから油断した…。


「…可愛い。ねぇ、今日は俺だけのティンカーベルってことでいいかな。」


「な、何を言って…」


「もしティンカーベル()ピーターパン()を望んでくれるなら…他の誰にも目移りなんかしないよ?」


「っ、ギル…?」


「俺がピーターパンなら、やきもちなんて妬かせない。ティンカーベルだけを大切にする。」


大きな手が頬を包む様に触れて、今は茶色に変化している瞳に見つめられる。

真剣な瞳を前に、私はただただ見惚れてしまう。

色気のある整った顔立ち。

薄い唇。

男らしい首筋。

幾度となくときめいたギルベルト・グノームのスチルとまったく同じ顔。

でも今は、ゲームでもファンブックでもなく、本物が目の前にいる。

暖かな体温を持って、私を見つめている。


「っ、」


意識した途端、心臓がバクバクと鳴り響き、顔だってものすごく真っ赤で変な顔になってると思う。

これはコスプレの一環で、なりきったお芝居の一幕。

そう思うのに、なんだかとっても恥ずかしい。


「…ルミ」

『皆様‼︎本日はメルルの誕生日パーティーにようこそおいでくださいました‼︎』


ギルベルトの言葉と同時に響いた声に、会場が一気に湧き上がる。

どうやらメルルの父の商会長のようだ。


『ではご紹介します!私どもの愛娘!メルルでございます!』


バァンと開け放たれた屋敷の扉から、レッドカーペットが飛び出して道をつくり、その上を可愛らしい姫と凛々しい王子が腕を組んで歩いてきた。


「⁉︎⁉︎⁉︎」


「っ、ぶはっ‼︎い、イグ、マジかっ‼︎」


か…かぼちゃパンツの王子様⁉︎


割れんばかりの拍手の中を、豪奢なピンクと白のプリンセスドレスを着たメルルと、かぼちゃパンツの王子様にされたイグニスが歩く。


(あの子っ‼︎なんてもんを着せるのよっ‼︎)


ギルベルトが爆笑するのも仕方がない。

漢の中の漢と呼ばれるイグニス・サラマンディが、あんな子供のような衣装を着せられているんだから。

濃紺のかぼちゃパンツから伸びる白タイツの脚はムキムキで、全体のアンバランスさが見ていてイタ過ぎる。

当のイグニス本人は感情のない顔でただ歩くだけ…。

きっと現実を直視出来ない…したくないのだろう。


クスクスと周囲からも笑い声が聞こえてくる。

…それが異様に腹立たしい…

これは『フェア☆恋』への冒涜だわっ‼︎


「あんまりよ…あんまりだわ‼︎全然イグの魅力を理解してない‼︎私の友達を笑い物にするなんて…絶対許さないわ‼︎」


パチンと指を鳴らし、その瞬間、イグニスの衣装が凛々しく威厳ある王子のそれへと変化する。

おぉっ‼︎と周囲がどよめく中、黄色い悲鳴も上がった。


(そうよ!イグニスはカッコいいの!断じてかぼちゃパンツの白タイツ王子じゃないんだから‼︎)


もひとつ指を鳴らせば、悪魔の姿を模した大きなぬいぐるみがイグニス達に襲いかかり、イグニスはそれを一刀のもとに斬り捨てる。


ちょっとした寸劇の余興だが、イグニスはこちらの意図をすぐに理解したようで、文句無しの立ち回りで悪魔達を斬り伏せ、ぬいぐるみから出てきたネックレスをメルルに渡して幕を閉じた。


「ヒュ〜、イグってばキメてくれたねぇ。」


「…行くわよ、ギル。」


劇が終わり、招待客に囲まれているメルルは、イグニスの腕にべったり甘えてご満悦の様子。

だがエスコートの役目はもう十分果たした。


「あれ?もう撤収?」


「エスコートに劇とネックレスのオプションをつけたのよ?十分だわ。」


「もう少し俺だけのティンカーベルでいて欲しかったんだけどなぁ。」


「っ…もぅ、からかわないで!」


「もし俺が王子でも、ティンカーベルは迎えに来てくれた?」


ちょっと寂しげな表情に、ドキリと胸が鳴る。


「…当たり前でしょ?王子でも、ピーターパンでも、コロポックルでも、必ず迎えに行くわ。大切な仲間ですもの。」


「ははっ、そうだね。じゃ、さっそく仲間を助けてやりますか!」


ギルベルトが人を掻き分け、その後ろに続く。

メルルは周囲からお祝いの言葉をもらいながら、イグニスとの関係について声高に話している。


「うふふ、私の王子様は素敵でしょう?」


「えぇ、素晴らしいお方ですね!」


「あの…メルル様とはどういったご関係で?」


「だから、私の王子様よ。ねっ、イグ!」


ねっ、と言われて頷く筈がないだろう。

案の定イグニスは頷く事もなく、かといって観衆の前で強く否定することも出来ずに困った顔をしている。

元々女性と接触することが苦手な彼だ。

あんなにも大勢の女性に囲まれているだけで戸惑うだろうに、否定しないのをいいことに、メルルは妄想全開のドリームを展開し続けている。


「やっと出会えた運命の王子様なの!いつだって私を想ってくれるし、強いから守ってもくれるわ。何でも言う事を聞いてくれるのよ?ふふっ、羨ましいでしょう?」


「理想の王子様ですわね!」


「さすがはメルル様ですわ!」


「うふふっ、次の結婚披露パーティーでは、もっと素敵な出し物を用意するつもりよ!」


(結婚披露パーティー⁉︎)


思わずギルベルトと顔を見合わせていると、メルルの暴走は更に続いていく。


結婚披露には公主を招いて盛大にお祝いするの!

…来るわけないでしょ。


入場はユニコーンに乗って二人で登場するの!

目撃情報もないのに、ユニコーンが捕獲出来るとでも⁉︎

しかも男が乗れるわけないでしょうが…


新居にはお菓子の屋敷を建てるから、皆さん是非遊びに来てね!

人より先に蟻が群がるわっ‼︎


もう突っ込みすら追いつかない…


「…ねぇ、ティンカーベル。早く王子様助けてやらないと、色々限界だと思うな…」


「そうね。色々限界だものね…」


可哀想に、イグニスが見たことのない顔になってる…


(さて…穏便にと思っていたけど、メルルには少しお仕置きが必要よね。)


でも今日は彼女のバースディパーティー。

これだけのお客様を前に恥をかかせるわけにもいかず、どうしてやろうかと思っていると、騒めきと共にメルルの声が響いた。


「なんなの、あなた達‼︎」


「私達はイグ様の仲間です‼︎勝手にイグ様を婚約者にしないで下さい‼︎」


「あの可愛いコロポックルは…」


イグを背に庇いメルルと対峙するのは、私の可愛いフィオナだった。

ミスティはオロオロしながらも、二人の間で仲裁しようと頑張っている。


(えっ…これってもしかしてイグニスルートの逆ナンパイベント⁉︎)


イグニスルートだと、夏休みに偶然街で会ったイグニスとヒロインは仲良く買い物する事になり、ヒロインが露店にお菓子を買いに行っている隙にイグニスが逆ナンパされるイベントがある。

令嬢達に囲まれて困り果てるイグニスを、ヒロインは助けようとするが相手は引き下がらず…


「イグは私の王子様よ!まさか貴女、イグの事が好きなの?残念だったわね!ちょっと可愛いからって、この私に勝てるわけないでしょ?イグは私のものよ!」


令嬢達の身勝手な言動に、ヒロインは思わず叫ぶのだ。


「ありえませんね!イグ様はルミ様のものです‼︎」


…あっれ〜…?

そこは『イグニス様はものではありません‼︎』のはずでは⁉︎

てか、私のものじゃないよ⁉︎

もしかして私の騎士って言いたい?

フィオナ…語弊があり過ぎるよ…


「ルミ?誰それ。知らないわ。それにね、私がイグを欲しいと言っているんだから、関係ないわ。」


我儘娘の成れの果てか…。

流石にこの発言には周囲もドン引きしている。

それでも誰からも非難されないのは、この街において、メルヘン商会の影響力が大きいからなのだろう。


(これはちょっと放って置けないわね。)


チェンジ(変化)の魔法を使い、私とギルベルトの容姿と衣装を真っ白なローブに変える。

イメージは白魔導だ。


風の魔法を使い、イグニス達までの人集りに道を作ると、その異変に気付いたフィオナが、私達を見て瞳を輝かせた。

一方で、メルルは困惑しながらも、イグニスの腕に抱き付いてこちらを警戒している。


「な、なんなの⁉︎あなた達のような者を、パーティーに招待した覚えはないわよ⁉︎」


「メルル様、私は貴女に呼ばれて参ったのですよ。ですが…時期尚早であったようですね。」


さも残念と言わんばかりに首を振り、私はフィオナに。

ギルベルトはミスティの前に出る。


「今の貴女は清廉な乙女とは言えない。もっと人を思いやり、人に優しく、思慮深くおなりなさい。」


「なっ、なんなのよ!偉そうに‼︎」


メルルが怒りに震えて前に出た隙に、イグニスも私達の方へと回ってメルルを見つめた。


「イグ⁉︎どうして⁉︎」


「メルル嬢、貴女が素晴らしい令嬢になる事を祈っている。」


茫然とするメルルの目の前で、私とギルベルトは光に包まれ姿を変えた。

彼女が欲してやまなかったユニコーンの姿に。


「嘘…」


「メルル様、ユニコーンは人に好意を持ってはいない。私はこの者達に助けられた縁から人を嫌ってはいないけれど、もう二度と人と接することもないでしょう。それでも、貴女がフィーのような清廉な乙女となる事を祈っています。」


私の背にフィオナを、ギルベルトの背にイグニスとミスティを乗せて、私達は空を駆けて屋敷を後にした。

せめて誕生日を祝うように空へと虹を掛けて、会場へと降り注ぐ光を残して。





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