可愛いは正義?
今私達が滞在している街の名はファンシーア。
ここは三国へ繋がる大きな貿易路がある商人の街で、華やかな賑わいを見せていた。
「なんて言うか…可愛い街ね。」
「この街を仕切るメルヘン商会の影響が大きいらしいよ。」
ファンシーアのメルヘン商会…。
名前から連想出来るように、この街は全体的にメルヘンチックな雰囲気漂う可愛い街並みで、まるで童話の世界に紛れ込んだ気分になる。
お菓子を模した外観のお菓子屋さん。
大きなディスプレイで飾り付けた青果店。
パステルカラーの雑貨屋さん。
妖精の人形が出迎える武具屋。
ユニコーンの絵が描かれた貸し馬屋。
花が咲き乱れる露店に、絵本が目立つ様に並ぶ本屋。
何より異質なのは、店員達の衣服がパステルカラーが色違いなだけのお揃いという点だ。
「可愛い制服ですねぇ。」
「…俺はこの街には住みたくない…」
「俺も無理!ミスティは似合いそうだけどな。」
「えぇっ⁉︎僕も無理ですよ!」
実際ミスティとフィオナなら街に馴染めると思うけど、それは口にせず苦笑する。
私もこの街に住むのは無理そうだ。
子供達ならまだしも、大人が平然と着るにはファンシー過ぎる。
武器屋の厳つい店長なんか、見ていて可哀想なくらいで…あれはイタイ。
「明日の朝には出発しましょうか。まだまだ行きたい場所は多いもの。」
「賛成。ギルドの依頼にボルワーツ王国までの護衛依頼があったから、それを受注して同行しようか。」
「さすがギル様は情報が早いですね!」
なら観光は後にして、一度ギルドに戻って依頼を受けようと道を引き返す。
そんな私達の横を、ポニーが引く可愛らしい馬車が追い越して行った。
「うわぁ…馬車まで可愛いですね!ピンクのポニーなんて初めて見ました。」
「あれは染色してるんだよ。なんて言うか、徹底してるよね。」
イグニスとギルベルトは辟易した様子で馬車を見送る。
けれどその馬車は、少し先でピタリと止まった。
どうやらギルドへの用事らしい。
「どんな方が降りてくるのか楽しみですね!」
「可愛い女の子だといいけど。」
フィオナがワクワクする中、降りてきたのは可愛い少女だった。
パステルピンクのふわふわドレスを着た、おっとりとした女の子。
周囲はその少女の姿にざわつき始める。
『メルル様だ…』
『一体何をしに…』
『今度はどんな我儘を言うつもりなんだか…』
その視線に好意的なものは感じられないが、少女は気づいていないのか御者の手を取り優雅にギルドへと入っていった。
「わぁ…クローディア様とはまた違う愛らしさですね。物語のお姫様みたい。」
フィオナの方が可愛いよ〜と思いながらギルドに入ると、中はちょっとした騒動になっていた。
お姫様が受付嬢に何かを一生懸命訴えているのだ。
「ですから、その依頼は受注する者がいないのです。諦めて下さい。」
「何故なの⁉︎16歳の誕生日はもう明日なのよ⁉︎なんとかするのがあなた達の仕事でしょ‼︎」
「無理ですと何度も申し上げておりますでしょう⁉︎諦めて下さい‼︎」
「嫌よ‼︎私はどうしてもユニコーンが欲しいの‼︎お誕生日パーティーには、絶対ユニコーンに乗って登場したいの‼︎今すぐ狩に行かせなさいよ‼︎」
メルルの必死の訴えに…ギルベルトが噴いた。
それも仕方ないだろう。
ユニコーンは伝説の生き物だ。
前世と違って存在自体は認められているが、出会おうと思って出会えるものじゃない。
もし運良く出会えたとしても、ユニコーンは人の悪意に敏感で、目視できるのが精一杯だ。
唯一近付けるのは、フィオナのような心優しい純潔の乙女のみ。
少なくとも、受付嬢に絡んでいる時点で彼女がユニコーンに乗れないのは間違いないだろう。
「お騒がせしてすみません。ボルワーツ王国までの護衛の受注ですね?」
別のカウンターで受付をしてもらいつつも様子を見ていると、受注票を渡してくれた受付嬢が事情を教えてくれた。
彼女の名前はメルル・メルヘン。
メルヘン商会の年老いた夫婦にやっと授かった一人娘。
ここファンシーアの街を作ったのはメルヘン商会の創始者で、代々の商会長も街の人々から慕われる人格者らしい。
そんな街の恩人の愛娘メルルを、両親も街の住人も溺愛し、お姫様のように扱ってきた。
その結果が今のファンシーア。
街並みも制服もメルルの乙女趣味に合わせて作り変え、例外の一つも許さない。
可愛くなければイヤ。
可愛くなければ許さない!
街も、人も、何もかも、可愛くなくちゃダメ。
可愛い世界こそ、メルルに相応しいんだから…と、我儘を押し通す。
けれどギルドには手出し出来ず、いつも難癖をつけては外観を変えろ!可愛くしろ!とやってくるそうだ。
(可愛いギルド…この街から冒険者が消えるわね。)
最近は、自分の誕生日パーティーのサプライズの為に、ユニコーンの捕獲をギルドに依頼に来るが…当然受注する冒険者などいるはずもなく、受付嬢に絡んでは喚き散らしているらしい。
「面倒くさい女の子だね…。」
フェミニストなギルベルトでも関わり合いたくないタイプはあるようだ。
勿論私も関わりたくないので、早々にギルドを出ようとするが…目が合ってしまった。
「っ…王子…様⁉︎まぁ…まぁまぁまぁ‼︎なんて素敵…‼︎いいわ!ユニコーンは諦めてあげる!その代わり、この冒険者を雇うわ!」
礼節無視で指まで指されて困惑していると、受付嬢はしめたっ!って顔で笑顔を向けてくる。
「護衛の依頼でしょうか?」
「明日のパーティーのエスコートよ!あぁ、素敵!きっと他の子が羨むわ!」
こっちの意見などお構いなしにはしゃぎ始めたメルルに付き合ってあげる義理もないので、受け取ったばかりの受注票を見せてお断りする。
「申し訳ありませんが、私達は既に依頼を受けて…」
「あぁ‼︎いけない‼︎こちらの依頼は既に受付を終了していたんでした!」
どこから飛んできたのか、さっきまでメルルとバトっていた受付嬢が私の手から受注票を奪い取り、クシャクシャと丸めてしまった…。
「ちょっ、先輩⁉︎それは流石にマズイですよ‼︎」
「も、元は貴女のミスでしょ⁉︎」
「はぁっ⁉︎受付終了は夕方の、んぐぐっ⁉︎」
思いっきり口を押さえて揉み合う二人にポカンとする私達だったが、ここまで来るともう笑うしかない。
「必死ですね…」
「断れる雰囲気ではないわね…」
けれど依頼はエスコート。
つまり男性陣への依頼になるわけで…
チラリと見れば、三人とも顔が引きつっていた。
「えっと…無理なら断るわよ?」
「貴女‼︎何を馬鹿な事を言ってるの⁉︎この街で私に逆らうなんてありえないのよ⁉︎だいたい、貴女達には用はないから‼︎さぁ、行きましょう、王子様!急いで衣装をあつらえなくっちゃ!」
恋する乙女の表情で、細い指が遠慮なく手を握って引っ張る。
「そうだわ!名前はなんておっしゃるの?」
一方的に捲したてる様子に、逃げられないことを悟った私達はガックリと肩を落として覚悟を決めた。
「…い、イグと申します…」
メルルにガッツリロックオンされたイグニスの顔が引きつっているのは、言うまでもない。
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