手紙
「ただいま!あれ?フィーとミスティは?」
「近くにある露店に行ったよ。珍しいお菓子が売ってるんだって。」
「随分と早かったが、報告はすんだのか?」
シュミラの街を出て南に進み、昼には大きな街へと到着した私達は、冒険者ギルドの三階にある宿に一泊する事にし、荷物を置いてから私一人でランフォート家に転移で戻り、お父様に今回の一件と魔鉱石についてを報告した。
「宰相閣下はなんと?」
「すぐに調査を始めるって。子供は余計な事をしないようにと釘を刺されたわ。」
クローディアを助けられた事は喜んでくれたけど、他国の貴族間の問題に自分から関わるな!ってお説教されたと言うと、イグニスとギルベルトは苦笑を浮かべた。
「ルミリアの護衛騎士としては耳が痛いな。」
「つい冒険者気分になって張り切り過ぎちゃったもんなぁ。」
「ふふっ、あんな可愛い子が不幸になるのをみすみす見逃せないものね。」
二人に後悔がない事を嬉しく思いながら、帰りにお父様に持たされた荷物をテーブルに置いていく。
「それは?」
「お父様が預かっていた手紙や荷物よ。これはグノーム家からで、こっちはサラマンディ家から、それはオンディーヌ…ミスティのお姉様からみたい。こっちはお母様が持たせてくれた荷物で、ミシルの定期報告と…アレクティスからも…?」
ロクレーヌ家の封蝋の手紙には、アレクティスの綺麗な文字で私宛と書かれていた。
てっきりフィオナ宛だと思ったから少しだけドキドキしつつ、イグニス達に手紙を渡すと、二人はそれぞれに家からの手紙を開いた。
「ただいま帰りました!」
「あ、ルミリア様、おかえりなさい!とっても可愛いお菓子を見つけたんですよ!」
「ただいま、フィオナ、ミスティ。じゃあお茶を飲みながらミシルの報告書を読みましょうか。」
フィオナ達が買ってきたのは、前世で言うところの人形焼で、焼き立てのカステラはうさぎやカメの形をしていてとっても可愛い。
テーブルに置いた手紙を渡してお茶を淹れると、後ろからなにやら緊張感が漂ってきた。
「お、お姉様から…?」
恐る恐る手紙を開くミスティにオンディーヌ家の力関係を感じて苦笑しつつフィオナとお茶を運びテーブルに座ると、イグニスとギルベルトがほぼ同時にガタリと音を立てて立ち上がった。
その表情は驚きと困惑と…怒り?
「どうかしたんですか?」
キョトンとしたフィオナの問いに、イグニスとギルベルトは互いに顔を見合わせてから溜息をついて椅子に座りなおした。
「…多分ミシル嬢からの報告書を先に読んだ方がいいね。」
「何かあったようね。フィオナ、ミシルの報告書を読み上げてくれる?」
「はい。」
まだ国を出てから一週間も経たないのに何があったというのか…と不思議に思いながら聞いていると、あまりの現実にすぐさま打ちのめされた。
「『ー…の為、暫くはこまめに報告書をランフォート家にお持ちしますので、ご確認下さい。ミシル・プロヴァイト』えっと…大丈夫ですか?」
「フィオナ…私と一緒に駆け落ちしない?冒険者生活も悪くはないと思うのだけど…」
「えっ⁉︎は、はいっ‼︎素敵だと思います‼︎私、ルミリア様とならどこへでも‼︎」
「いいね、それ。俺も一緒に行っていい?」
「…現実逃避をしたい気持ちは分かるが…」
ミシルの報告書の内容は予想以上だった。
私が国外に出た事で、身動きの取れなくなった貴族達が様々な憶測を飛ばし暴走してるらしい。
実は想い人が国外におり、その人物はルミリアが以前留学していた先の王子様だとか…
剣術大会では優勝出来なかったものの、スフィア王子かガリュー王子のどちらかに想いを寄せて、あとを追って国外に出たとか…
剣術大会で優勝したアレクティスから婚約を拒絶され、傷心の旅に出たとか…
逆にアレクティスと結婚させられないように逃げたとか…
自由恋愛に夢見て放蕩の旅に出たとか…
旅に同行しているイグニスとギルベルトのどちらかが婚約者に決まっているだとか…
噂の真偽を確かめる為に、ランフォート家にはいつも山の様な手紙が届いているそうだ。
しかも貴族間で圧力をかけあい、相手を陥れ、泥沼劇にまでなっているという。
(お父様は何も言わなかったけど、随分と面倒をかけてしまっているのね…。)
「ほ、放蕩の旅だなんて…ルミリア様を侮辱してます‼︎許せませんっ‼︎」
「婚約者騒動の最中に旅に出てしまったんだもの。仕方がないわ。でも、ありがとうフィオナ。」
「ルミリア様…」
「それで、イグニス達は大丈夫なの?家に圧力をかけられたりしていない?国に戻って構わないのよ?ごめんなさい、私のせいで…」
「…いや…それが…」
「爺さんは、何が何でもルミリア嬢を嫁にしろって言ってるよ。」
「ギルベルト、お前っ‼︎」
「隠したって意味ないだろ?旅に同行するからには、色々言われる覚悟だってしてたんだし。」
グノーム家からの手紙を差し出されて文面を読むと、懐かしい文字が力強く綴ってある。
『ーーー…此度の騒動で貴族達は金と権力を使い、何としてでもルミリアを手に入れようと躍起になっておる。奴らの様な腐った若造に可愛いルミリアを渡す事だけは我慢ならん。ルミリアはお前には過ぎたる令嬢ではあるが、お前がルミリアを想っているのなら、何としてでも心を射止めよ。そしてルミリアをわしの孫にするのだ!これ以上アランの奴に孫自慢をされてなるものか‼︎いいか、何があってもルミリアを嫁にするのだ!可愛いひ孫も期待しておるぞ。』
「……グノーム辺境伯ったら…」
うちのお祖父様は私を小さな頃から軍部に連れ歩いていたから、グノーム辺境伯とも何度もお会いしていて、その度にとても可愛がってもらっていた。
女の子の孫がいないグノーム辺境伯が私を抱っこしようとする度に、お祖父様がニヤニヤと何かを言っていた気がするけれど、まさか孫自慢だったとは…
「そりゃ俺だって頑張るけどさ、ひ孫は流石に早いよねぇ?」
「ひまっ⁉︎」
「ギルベルト様っ‼︎ルミリア様の純潔は私が守ります‼︎もし破廉恥な事を考えたら…」
フィオナの魔力が膨れ上がり、それを慌てて宥めてから差し出されたイグニスの手紙を手に取る。
イグニスの反応からするに、書いてある事の大筋はグノーム家こらの手紙と同じ様な事なのだろう。
「あの…無理して見せる事はないのよ?」
「…いや、ギルベルトだけではフェアじゃないからな。」
気まずそうな表情だが、イグニスが望むのなら…と目を通す事にした。
『ーー…だが、我がサラマンディ家は、如何なる圧力にも屈しはしない。学生の間だけとはいえ、ルミリア嬢へ騎士の誓いを立てたならば、全身全霊をもってお仕えせよ。サラマンディ家はルミリア嬢を歓迎する用意は出来ている。追伸 父として、お前の健闘を心より祈る。』
…歓迎する用意とは…
「…えっと、ミスティ様のお姉様はなんと?」
「ふえっ⁉︎あ、あの…その…お二人と…同じ様な内容…でした…」
顔を真っ赤にしながら見せてくれた手紙を、フィオナが受け取り読み上げる。
『――…良いこと?この機会に、必ずやルミリア様をお迎えするのです。決して他国の男に渡してはなりません。ルミリア様はフェリスの至宝。美しきランフォート家の血筋をお迎え出来れば、オンディーヌ家の美しさは1000年の輝きを約束されるでしょう。醜い貴族達の圧力や嫌がらせは1000倍にして返しておくから、貴方は家を気にする事なく旅を続けなさい。追伸 美しく可愛い妹の帰国を待っているわ。』
「「「………………」」」
周囲が暴走しすぎじゃない⁉︎
サラマンディもグノームもオンディーヌも、貴族達から圧力をかけられているのは間違いないらしい。
続けて読んだお父様からの手紙にも、ルミニス男爵家やプロヴァイド男爵家など友人達への圧力や嫌がらせに対し、ランフォートが出来る限りのフォローすると書かれていた。
「…なんて言ったらいいか…。その、ごめんなさい…」
「ルミリアが謝ることじゃない。」
「そうだよ。悪いのは身の程知らずの馬鹿達だ。」
「姉様達が暴走しててすみません…」
「ルミリア様が気にする事はありませんよ‼︎」
優しい言葉にありがとうと伝えたかったけど、開いた口は音を出してはくれない。
ごめんなさい以外の言葉を音にする事を、身体が拒絶している様だ。
(フィオナの幸せな未来を狂わせて、どんな顔をしてありがとうなんて言えるの?)
でも優しい彼らは私の謝罪を受け入れてはくれない。
私は自分の自由と引き換えに、彼らの自由を奪ってしまったのに…
「…こんな事、私が言える立場ではないけれど、どうかお願い。みんなにも、愛する人と結婚して欲しいの。家の事は必ずランフォートが対処して迷惑をかけないようにするから、だから私の為に愛を諦めないで…」
「ルミリア様…」
フィオナの柔らかな手が私の手を包んでくれる。
一番懺悔したい相手なのに、一番優しいフィオナ。
「フィオナ、ごめんなさい、私…私が…」
「ルミリア様は大きな勘違いをされています。」
はっきりと言い切ったフィオナは、驚く私に微笑んだ。
「ルミリア様がいてくださるから、私は学園が好きになりました。ルミリア様がいてくださるから、毎日が楽しく幸せなものになりました。イグニス様、ギルベルト様、ミスティ様、ライラック様、アレクティス様も、同じ気持ちです。剣術大会の為の修行の日々で、私達は同じ気持ちを共有しているのだと知りました。だから間違いありません!」
「そんなこと…私はいつも厄介ごとばかりに巻き込んで、迷惑をかけてばかりなのに…」
「厄介ごと?…一つも思いつきませんけど?ミスティ様、何かありました?」
「分かりません。僕は一緒に魔法を学べる様になって、お友達も増えて、嬉しい事ばかりなので…。イグニスさんはどうです?」
「分からん。俺はルミリアと出会い、強くなれた。剣技はもちろん、騎士として精神面でも成長出来ていると感じている。ルミリアは俺に足りない物をいつも示してくれる。この出会いを、俺は妖精王に感謝している。ギルベルトは思い当たる事はあるか?」
「ん〜…全然。ルミリア嬢と出会ってから、美味しいお菓子と手料理を食べられて幸せだし、街へのデートも楽しいしね。毎日美しい花を愛でられるのは、男にとって何ものにも代え難い幸福だね。あ、あと、ルミリア嬢が学園に来てくれたから、ルミアとも出会えたってのも感謝してる。」
思わぬ言葉に驚いていると、イグニスとミスティも隣で頷いていた。
「確かにな。ルミアとの出会いは俺達を強くしてくれた。圧倒的な強さを前に、己の未熟さを痛感し、世界の広さを教えてもらった。」
「ルミア様がいなければ、今の僕はいません。」
「腐ってた俺が前を向く切っ掛けをくれた奴だからね。きっとライラックも同じ事を思ってるよ。俺達の慢心を、あいつは見抜いてへし折ってくれた。それに、ライバルとの出会いは宝だからね。」
「ふふっ、ルミリア様は私達に幸せを運んで来てくださった女神様なんです。だから謝ることなんて一つもないんです。それに、私達が愛を諦めるなんて、絶対にありませんから。」
愛らしい笑顔で再び手を握られ、その力強さに少し驚く。
「ルミリア様と出会って、愛の素晴らしさを知ってしまいましたからね!もちろん貴族としての義務は忘れていませんが、私達も愛する人と結ばれたいって思っています。」
「…良かった。フィオナ達なら素敵な恋愛結婚が出来ると思うわ。いつだって力になるから、なんでも言ってちょうだい。」
そうだった。
『フェア☆恋』は元々愛を貫くゲームなのだから、彼らがお家事情に屈する可能性は低い。
それに、夏休みイベントも、こうして一緒に旅をしていたら、ちょっと補正がかかる感じで再現される可能性が高い。
学園内でも、必須イベントは必ず実行されていた。
つまり、まだ『フェア☆恋』は完全にストーリーが破綻しているわけじゃないのだ。
(だとすれば、ライラックとアレクティスも呼ばないとフェアじゃないわよね。)
相変わらずフィオナの気持ちは分からない。
全体的に好感度が高い今の状況ならばハッピーエンドは迎えられる筈だ。
(何よりここは現実の世界。条件を満たせなかったからって、トゥルーエンドの道が消えたわけじゃない!フィオナの気持ち次第だ。)
この世界への転生を神に、素晴らしい出会いを妖精王に感謝して、フィオナの手を握り返す。
(任せて、フィオナ‼︎私はモブのセリフすら網羅したプレイヤーよ‼︎どんな補正をかけても、必ず全員の夏休みイベントを発生させてみせるわ‼︎)
きっとチャンスはやってくる。
やってこないなら作ってやる。
私はフィオナと騎士達の為に、決意を新たにするのだった。
7/15
体調を崩していたので更新が止まっていましたが、またぼちぼち再開したいと思います。
お付き合い頂けたら嬉しいです。




