宴
「『フェアリル』の活躍と、クローディアの婚約破棄を祝して、乾杯!」
婚約パーティーの翌日、フリンデル男爵に招かれたパーティー。
私達は幸せそうな家族の笑顔に迎えられた。
昨夜、クローディアと共に屋敷へ戻った私達に、夫妻とマリーベルは泣きながら感謝を伝え、使用人達も喜びに声を上げて泣いていた。
たった二日の調査だったけど、その中で夫妻と使用人達がクローディアを守ろうとどれだけ頑張っていたかもよく分かった。
その頑張りを嘲笑うように潰していたデップリードの卑劣さと同時に。
「良かったですね、ルミ様。」
「そうね。フィーとミスティが屋敷を守ってくれたから、今こうしてみんなで笑っていられる。ありがとう。」
二人はそっくりにアワアワしたけど、満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。
…可愛い…
これ抱きしめちゃってもいいよね?
ダブルで愛でてもいいよね?
「きゃっ⁉︎ルミ様⁉︎」
「んぷっ‼︎」
「ふふっ、二人とも本当によく頑張ったわね‼︎」
「あ、いいなぁ。ルミ嬢、俺もぎゅーっと」
「ギル、動いたら斬るぞ?」
「イグだってハグしたいくせに〜。」
「バッ、俺はそんな破廉恥な事は考えてない‼︎」
「勝利の抱擁だって。ね、ルミ嬢?」
「ギルからは邪な思いが伝わってくるから却下します。」
ガックリ肩を落としたギルベルトと、ちょっと顔を赤くしたイグニスを笑っていると、クローディアが両親と共にやってきた。
「『フェアリル』の皆様、この度は私の為に本当にありがとうございました。」
「お役に立てたなら良かったです。」
「『フェアリル』、君達のおかげでクローディアは…いや、我々は救われた。いくら感謝しても、っ、感謝、しきれないっ、」
フリンデル男爵の涙に、クローディアの大きな瞳からも涙が溢れ、ポロポロと白い頬を伝い落ちる。
「…お父様…っ、ふっ、」
互いを抱きしめ合う姿に、ふと…前世の両親を思い出した。
手術を繰り返す日々の中で、お父さんは目を覚ます度に泣いて抱き締めてくれていたから。
私はいつもその腕の力強さに、あぁ、まだ生きていられた。また目を覚ます事が出来た。って実感しながら泣いていたっけ。
クローディアが夫人の胸に飛び込むと、男爵はハンカチで涙を拭いながら、デップリードの処分について話してくれた。
今回の一件は多くの有力者が場に集まっていた為、仔細の報告は既に公主に伝わっているらしい。
魔鉱石鉱山の隠蔽、それにまつわる誘拐、人的災害、国庫の金品と食糧物資の横領。
ここぞとばかりに他の被害者達も声を上げている為、ファットンの死罪は確定。
一家も同様に死罪。
甘い汁を吸っていた親類縁者も、死罪または奴隷落ちが濃厚らしい。
ラセーヌ川の氾濫や飢饉での死者を鑑みれば、それは当然の報いだ。
人を死罪に追いやったのが自分だという事実は重いけど、後悔は一切ない。
調べれば調べるほど罪で溢れたあの男は、生温い制裁だけでは許されない人間だった。
あの一家の断罪無くして、フリンデル男爵家の、シュミラの街の未来はなかったのだから。
(マクスウェル侯爵も流石に庇いきれなかった様ね。デップリードは所詮トカゲの尻尾切り。黒幕にまでは届かないか。)
デップリードの悪事をここまで巧く隠蔽してきたのは、間違いなくマクスウェル侯爵。
けれど、確証にたる証拠はないし、何より相手の力が大き過ぎて、今回も深く追求する事は出来ないだろう。
(でも、魔鉱石が絡んでるとなると、放ってはおけないわ。)
初めに魔鉱石の話を聞いた時にピンときた。
どうしてスフィア王子とガリュー王子が魔石を持っていたのか…その疑問の答えがここにあると。
でも同時に疑問も増えた。
魔鉱石は魔力を込めなければ、ただの黒い石。
そして魔力を持つのは、フェリスの民か、東の最果てにある島の民だけだ。
(あれだけ魔鉱石を採掘していたということは、それだけ魔力を込める者が必要になる。でもフェリスで人が拐われたなんて聞かないし、そもそも国を出る事が滅多にない。そうなると…)
「ルミ嬢、難しい顔してるよ?」
「あ…ごめんなさい。少し気になる事があったものだから。」
「東の民が心配なのだろう?」
驚いて振り返ると、イグニスの真っ直ぐな瞳が近くにあった。
「ルミは顔に出るからな。」
「…みんなには敵わないわね。」
魔鉱石の存在で、みんなも思うところがあったのだろう。
その上で、私の気持ちまで汲んでくれている。
いや、きっとみんなも同じ思いだったのだろう。
魔力を持つ者達が、どれだけ世界に狙われているかを理解しているから。
「でも…私…」
「フィー?」
「私は…ルミ様に今の時間を大切にして欲しいと思ってます。」
「えっ…?」
思ってもみなかった言葉に瞳を瞬かせると、ミスティもフィオナと同じ何かを訴えるような表情で見上げていた。
「二人はね、ルミ嬢が自由でいられる時間が短い事を知っているから心配なんだよ。」
「あ…」
そうだった。
私が自由に国外を旅できるのは今だけ…それも夏季休暇の一ヶ月半という限られた時間。
フェリスに戻れば婚約の話も進み、卒業と同時に結婚することになるだろう。
(そうだった。私は冒険者じゃないんだものね。)
実際は好きに転移出来るから不自由を感じる事もないけれど、それを知らないフィオナ達は私の最後になる貴重な時間だと思ってくれている。
(…自己中心的な考えばかりだわ。)
私はすっかり冒険者気分になっていた。
魔鉱石に通じる黒幕を追い、魔石について探らなくちゃいけないと思い込んでいた。
ラノベの主人公のように、痛快に悪を倒して真実を暴き、ゲームのキャラのように攻略して…なんて。
(でも…これは私のでしゃばる事じゃない。)
大切な友人達を巻き込んで首を突っ込む事じゃない。
自己満足で動いていい事じゃない。
「大丈夫よ、フィー。魔鉱石の件はお父様に報告するし、必ず魔法省が調査に動くわ。」
魔石の管理を一手に担う魔法省ならば、既にスフィア王子達の魔石についても調査を始めているだろう。
これは国家間、いや、世界規模での問題になる案件だから、私が勝手に動いていい問題じゃないのだ。
「それが良いだろうな。これだけ大規模な採掘があったなら、黒幕も大きいはずだ。フェリスの諜報部も動く。」
「それに東の民が利用されてるのか、協力しているのかも分からないしね。そもそも、東の民がまだ存在してるのかも分からないんだろ?今俺達に出来る事はないよ。」
剣武に妖精の加護を得ているフェリスと違い、東の民は魔力しか持たないとされており、世界中から魔力を狙われ、東の民は狩られて絶滅したなんて説もある。
島の場所すら東とだけで、実際の場所すら知られていないのだから、安否を確認する事すら出来ないのが現実だ。
「そう、ですよね。私達学生ですもんね!ごめんなさい、ルミ様!」
「謝る事なんてないわ。それより、まだ旅は長いんだから、楽しくいきましょ!私、フィーと行きたいところややりたい事がいっぱいあるのよ?」
「私もです!いっぱい楽しい思い出作りましょうね!」
翌日、私達は日が登らないうちに街を出る事にした。
デップリードの悪事を暴いた冒険者『フェアリル』の噂が街中に広まっているらしいとキャメルちゃんが教えてくれたからだ。
「『フェアリル』の皆様、本当にありがとうございました。」
見送りに来てくれたフリンデル一家に頷いて、用意してくれた馬車に乗り込む。
「馬車までお借りしてすみません。」
「何を言うんだ!君達への恩はこの程度では返せない!他に何かあればなんでも言ってくれ。」
「…なら…」
夫人に肩を抱かれる二人の可愛い妖精姫。
「クローディア様とマリーベル様の結婚が幸せなものであるように願います。貴族にはむすがしい事だとは承知していますが、愛した人と結ばれてくれたら嬉しい。」
「ルミお姉様…」
「幸せになってね、クローディア、マリーベル!また会いましょう!」
姿が見えなくなるまで手を振ってくれた可愛い二人の幸せを心から願う。
そして改めて、自分自身もそうありたいと思えたのだった。
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