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フェアリル奮闘記


〜アルバート・フリンデル男爵の見た光景〜




「わぁ…本当に来ましたね、賊の皆さん…」


「だ、大丈夫です!僕が皆さんをお守りしますから!」


クローディアが婚約披露パーティーに出席している頃、フリンデル邸は黒覆面の賊に取り囲まれていた。


私達夫妻とマリーベル、数少ない使用人達は、不安の表情で顔を見合わせる。


二日前、夫妻の愛娘クローディアが屋敷に連れてきた、見目麗しい五人の冒険者。

娘達が町でピッグル・デップリードに絡まれたのを助けられたと聞き、お礼に晩餐をご一緒に…と誘ったところ、食事中の会話の中で切り出されたのは、婚約を破談にする算段だった。


『あんな男に可愛い娘さんを渡す事はありません。私達でよければ力になります。』


彼女達『フェアリル』のリーダー、 ルミさんの提案はあまりに現実離れしていて、言葉を失った。

他国の出身である彼女達は、この地域の最高権力者であるデップリード伯爵家に逆らう恐ろしさを知らないのだろう。

私達とて手を尽くしたが、我が領民を守る為にはもう婚約を受け入れるしかないと決意したクローディアを止める事は出来なかった。


けれど、ルミさんは美しい笑みでクローディアを見つめ、言ってくれた。


『クローディア様はとても優しくて勇気のある素敵なお嬢様です。だからこそ、幸せになってもらいたい。犠牲になるのではなく、幸せな結婚をして欲しいのです。』


その言葉は私を奮い立たせてくれた。

最後まで足掻こう。

愛するクローディアの幸せのために。と。


だが、婚約披露パーティーは二日後。

ルミさんはここまで悪評高いデップリードなら、叩けば埃が出るはずだと言って屋敷を出た。

常にクローディアとマリーベルから目を離さぬように。と、だけ残して。


そして今日、ルミさんは言葉を失う程美しい装いでクローディアを迎えに来た。

ルミさんも、後ろに控える二人の青年も、フリンデル家の家色である青を身に纏い、護衛として共にパーティーへ行ってくれるという。

愛らしい少年と少女を屋敷に残し、馬車に乗り込むルミさんは、私の目を見て言った。


『全てに決着をつけて参ります。』


もう戻らないかもしれないクローディアを送り出す悲しみは、その一言で払拭された。

彼女達に任せれば、きっとクローディアは戻ってくる。そう信じられた。


「大丈夫だ、フィー、ミスティ。ルミさんから預かった君達は、何があっても我々が守る。ルーカス、子供達を隠し部屋へ。」


「はい。マリーベル様、フィー様、ミスティ様、こちらでございます。」


隠し部屋の鉄扉ならまず破られる事はない。

後は我々が籠城し、ルミさん達の帰りまで凌げばいい。


「あなた…」


「大丈夫だ、フェルメナ。」


気丈に振る舞う妻の手を握り、覚悟を決めた使用人達と頷く。

我々はデップリードなどには屈しない。

たとえここで命が尽きようとも…


「えっと、私達はマリーベルちゃんだけじゃなくて、皆さんをお守りするよう言われてますので、隠し部屋には行かなくて大丈夫ですよ。屋敷にいる方はこれで全員揃ってますか?」


「えっ、あぁ、籠城する覚悟を決めていたからね。けれど君達のような子供が…」


「良かった。ならこの部屋に結界を張りますね!物理障壁(フィジカルバリア)!」


キラキラと淡い光が部屋中に満ちて、驚く私達にフィーがにっこり微笑む。


「ミスティ様、結界完了しました。」


「はい!えっと、ルミ様から皆さんの側を離れないようにと言われているので、お行儀が悪いんですけど…失礼しますね?」


窓を開けて、小柄な身体が窓のへりに立ち外を見つめる。


「表に8人…裏は13人…かな。」


「私も間違いないと思います。」


「これならなんとか…『揺蕩う水よ、敵を討つ一閃となれ 』水槍(ウォーターランス)‼︎」


窓の外を青い光が走り、同時に絶叫と苦悶の悲鳴がこだました。


「い、一体…何が…」


「両脚の太ももを撃ち抜いたので、もう動けないとは思いますが、伏兵がいるかもしれないので、皆さんこの部屋から出ないで下さいね。」


「わぁ、ミスティ様また精度が上がったんですね!私も頑張らなくっちゃ!」


「フィーさんの結界だって、ムラがなくて綺麗だし凄いですよ!」


「ん〜…でもギルべ、あ、ギル様とイグ様の物理攻撃には耐え切れる自信がありませんし、大きさも強度的にはこれで精一杯です。早くルミ様に近付けるように頑張らないと!」


「ふふっ、昨日イグさんとギルさんも鍛錬しながら同じ事言ってましたよ。もちろん僕も負けません!」


なんの緊張感もなしにはしゃぐ二人に、マリーベルが瞳を輝かせて走り寄る。


「ねぇ、ルミさんはそんなに強いの?」


無邪気な愛娘の質問に、二人は顔を見合わせたあとに満面の笑みを浮かべて言った。


「「ルミ様は最強です!」」


あぁ、クローディア。

お前が出会ったのは、女神の御使だったのか。







〜ギルド受付嬢 キャメルの見た光景〜



「えっ?過去の事件簿?」


「そう。特にデップリード伯爵家の関わった事件が知りたいの。」


「えぇっ⁉︎デップリード伯爵家ですか⁉︎」


綺麗なお顔に悪戯っ子のような笑みを浮かべるルミ様の言葉に、思わず叫んでしまった。

だって、デップリード伯爵家って言えば、シュミラの癌と呼ばれる権力と金にもの言わせる腐れ貴族だ。

新人冒険者が興味を持つには危険すぎる。

特に当主のファットンは美しい女性に目がなくて、その息子のピッグルもシュミラの妖精姫に手を出しているし、もしルミ様やフィー様を見たら、手に入れようとするに決まっている。


「悪いことはいいませんから、関わり合いにならない方がいいですよ。大きな声では言えませんが、色々と黒い噂が耐えない家ですから。」


「それ!その黒い噂、知りたいなぁ。」


「えぇっ…」


蠱惑の眼差し…

美女のおねだりって狡い‼︎


「おい、嬢ちゃん達、まさかデップリードの依頼を受けようってんじゃねぇよなぁ?」


「まさか。私達はただ、可愛い女の子の幸せを願っているだけですよ。」


その一言で、みんなの頭には『シュミラの妖精姫』が浮かんでいた。


「でもルミ様、デップリード伯爵に逆らえば、どんな報復があるか…」


デップリード伯爵の悪行に、政治不介入が原則のギルドは手が出せない。

依頼でもあれば調査は出来るが、そもそもそんな依頼を出した事が知れれば、シュミラの町では生きていけなくなる。

報復を恐れて誰も逆らえず、見て見ぬ振りをするしかないし…何より冒険者は正義の味方ってわけじゃないから、みんな面白くない程度の認識しかない。


「大丈夫よ。私達は元々旅の冒険者だし、この国の人間でもない。だから政治的圧力は無意味だし、物理で潰しに来るなら…返り討ちにしちゃえばいいわ。」


る…ルミ様素敵すぎる‼︎

やっぱりフェリス王国の方は必殺の魔法を使えるのだろうか⁉︎

それともギル様達が手練れ⁉︎


「…分かりました!ルミ様とフィー様はギルドの保護対象者ですし、ギルドの宿なら夜襲の心配もありません!牽制はされますが、いくらデップリードでも、ギルドを敵に回すような事は出来ないはずです!」


「ありがとう、キャメルさん。じゃあ早速デップリードに関する事件や噂、教えてくれる?もちろん情報料は払うから。」


パチンと飛ばされたウィンクに貫かれ、私はフラフラと…でも迅速に書類をかき集めた。


(あ、いけない!先に応接室にお通ししなくちゃ…えっ?)


とりあえずの資料を抱いて受付に戻ると、ルミ様達は沢山の冒険者達に囲まれていた。


「…それが原因の土砂崩れじゃねぇかって噂なのさ!」


「馬鹿か!ありゃマクスウェル領に送る木材がカサ増ししたから地盤が緩んだ!」


「確かにマクスウェル領の商人どもがコソコソ出入りしてやがったな…」


「俺も見たぞ。あんまりコソコソしてたんで、盗賊団かと思ったくらいだ。」


「デップリードが男色って話もあるぜ!」


「孤児院の体格の良い子供を次々に養子縁組してたあれか?あれはデップリード夫人のハーレムって話だぞ?」


「んなわけあるか!あの歯抜けのトムや鼻でかジムがハーレム要員なわけねぇだろ!」


「確かにトムはジリヒーン男爵の屋敷には居なかったなぁ…」


「子供達の行方不明ってのも、実は嗜虐趣味のデップリード一家が玩具にして殺しちまったなんて話もあるくらいだ。」


冒険者にとって情報はお金。

なのにみんなは知る限りの情報をルミ様に渡していた。

これはデップリード伯爵家への嫌悪からなのか、ルミ様が魅力的過ぎるからか…うん、多分両方かな。


「流石冒険者ですね!町の人達とは違う着眼点をお持ちだわ!」


嬉しそうなルミ様は手元の紙に情報を書き込み、イグ様は輪に入っていない冒険者に話しかけて情報を集めている。


「キャメル嬢、その資料はこちらにもらおう。」


「あ、ありがとうございます!」


紳士ぜんとして重たい紙の束を軽々と受け取り、それをルミ様のテーブルに並べていくイグ様…


(…一体何者なんだろう…)


フェリス王国から来た見目麗しい五人の新人冒険者。

三年間受付嬢をして来たけれど、ルミ様達は…全然冒険者に見えない。

実は王族なのよ。とか言われても納得出来ちゃう立ち居振る舞いだし、むしろ只者なわけがない。

ルミ様なら、デップリードの悪事を裁いて下さるんじゃないかって、そんな期待をしてしまう。


そんな事を思いながら、じっとルミ様を見つめていると、バチっと視線が合って慌てて資料を取りに戻った。

私だって役に立ちたい。

きっとみんなも同じように思って協力してるんだ。


「あ、キャメルさん!」


呼ばれた名前にドキッとして振り返ると、ルミ様、イグ様、ギル様の素敵な笑顔がそこにあった。


「チーム名を決めたの。『フェアリル』妖精の使徒、『フェアリル』よ。」


「『フェアリル』…はい‼︎ギルドに登録させていただきます!頑張って妖精姫を助けましょうね、『フェアリル』の皆さん!」


ドキドキと胸が高鳴るのが分かる。

王族、貴族、冒険者、そのどれよりも、ストンと胸に落ちた妖精の使徒。

物語の一ページを綴るように、私はギルド名簿にチーム名を書いた。


これから始まるであろう『フェアリル』達の物語に想いを馳せて。





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