シュミラの妖精
「見て、フィー!とっても素敵なグラスよ!あ、でもこっちのティーカップもデザインが変わっていて素敵!」
「ふふっ、ルミ様、こっちのランプも色ガラスが綺麗で素敵ですよ。」
ギルドを出てから、私達は観光客丸出しで街の散策を楽しんでいた。
見た事のない物に目を輝かせ、知らない食べ物を食べ歩き、ジャンルの豊富な本屋さんでは、大量の本を買い込んだ。
「自由って幸せ…」
「ははっ、ルミ嬢は立場的に出来ない事が多かっただろうしね。国外ではいっぱい羽目を外しちゃいなよ。」
「ルミ、フィー、疲れていないか?時間はたっぷりあるんだ。休憩しながら回ればいい。」
…優しい…しかもエスコート上手。
ギルベルトはともかく、イグニスは女性の苦手な兄貴設定だったはずなのに、流石は伯爵家子息だ。
しかも強くてイケメンというハイスペック。
流石は大人気乙女ゲームの攻略対象者。
男の人って、女の買い物に付き合わされるのを嫌うって聞いてたけど、うちの騎士様方はそんな事おくびにも出さない。
周囲の女の子達が羨ましそうにこっちを見ているのも仕方がないね。
「ありがとう。そうね、お茶でもしましょうか。さっきの本屋さんが、ケーキの美味しいカフェを教えてくれたの。」
「わぁ、ケーキですか⁉︎楽しみですね!」
キラキラ笑顔のミスティ可愛いなぁ。
でも完璧に女子枠だね。
緩む表情をそのままにカフェの方に歩いて行くと、ちょっとした人集りを見つけた。
「何かしら。いくら人気のお店でも…」
「クローディアお姉様‼︎」
「マリーベル‼︎やめて下さい‼︎妹に乱暴しないで‼︎」
女の子の悲鳴のような叫びに、イグニスとギルベルトがこちらを見る。
私が頷くと、二人は人混みをスルリと抜けて、人集りの中心に出た。
「やめろ。レディに対する狼藉、見過ごす事は出来んぞ。」
「あ〜ぁ、こんなに小さなレディを泣かせるなんてなぁ。大丈夫かい?」
続く私達の前には、でっぷり太った貴族だろうお坊ちゃんと、その取り巻きがイグニスに威圧されている様子が見えた。
その後ろには、五歳くらいの女の子を抱き締める少女の姿。
「な、なんだお前ら‼︎関係ない奴は引っ込んでろ‼︎」
「この方が誰か知らないのか⁉︎」
胸を張るお坊ちゃんが不敵に笑う。
「知らんな。」
「可愛い女の子達を怯えさせてる時点で、たいした男じゃないだろうね。」
「この方はデップリード伯爵家のご子息ピッグル様だぞ⁉︎分かったら消えろ‼︎」
デップリード⁉︎ピッグル⁉︎名は体を表すっていうけど、なんてぴったりな名前なの‼︎
吹き出しそうなのを堪えていると、隣でフィーとミスティも震えていた。
これは笑っちゃうよね⁉︎
私達は悪くないはず!
「知らんと言っている。」
「去るのは君達のようだけど?」
ギルベルトが周囲を見渡すと、やっと周囲の非難する目に気付いたのか、テンプレな言葉を吐き捨てて去って行く。
「お前ら、覚えてろよ‼︎」
「クローディア‼︎お前は僕の婚約者なんだ‼︎次無礼な真似をすればただじゃおかないからな‼︎」
クローディアとは少女の方だろうか。
ピッグルの言葉に肩を揺らして怯えながらも、小さな妹を守ろうとしている姿がいじらしい。
「大丈夫ですか?」
「は…はい、ありがとうございます。」
イグニスの手に戸惑いがちに手を伸ばした少女は、ブロンドの長い髪を揺らして立ち上がった。
(か、可愛いっ‼︎)
クローディアは、ビスクドールのような可憐で可愛い女の子だった。
それが粗野で横暴なピッグルの婚約者⁉︎
あり得ない…まさに豚に真珠案件ではないか‼︎
「ふぇ…クローディアお姉様…」
「泣かないで、マリーベル。私は大丈夫よ。」
気丈に振る舞ってはいるが、明らかに顔色が悪い。
「イグ、ギル、お嬢様を店内にお連れして。」
突然声を掛けてしまった私に、サファイアのような綺麗な瞳が向けられる。
陶器のような真っ白な肌も、柔らかなウェーブの絹糸のような髪も、大きな瞳と小さくてぷっくりした唇も、大好きだったビスクドール作家さんの作品にそっくりで、あまりの可愛らしさに思わず飛びつきたくなってしまった。
「いえ、これ以上ご迷惑をおかけするわけには…」
「お気になさらないで。こうしてお知り合いになれたのも何かのご縁ですもの。」
私達の隣では、ミスティとフィオナがマリーベルちゃんをお茶に誘い、可愛い笑顔を見せてくれていた。
「…ありがとうございます。では、お礼にごちそうさせて下さい。」
「良かった!私達まだ街に不慣れなので、お話を聞かせて頂けたら嬉しいわ。」
店に入ると、騒動を見ていた店員が私達を置くの席へと案内してくれた。
他の客席からの視線を気にしないように…という配慮らしい。
メニューに迷うフリをして風魔法で声を拾えば、様々な情報を集める事が出来た。
『可哀想になぁ…』
『妖精姫があんな奴に嫁ぐなんて…』
『デップリード相手じゃ何も出来ないよ…』etc…
さっきのピッグル・デップリードは、この街の有力者であるデップリード伯爵家の跡取り息子。
権力を傘に着る、見たまんまの粗野で横暴な我儘の能無し坊っちゃんで、色々問題を起こしている街の厄介者らしい。
一方で、クローディアの評判は同情的なものばかりだった。
二人は平民にも優しく評判の良いフリンデル男爵家の令嬢で、クローディアはその美貌から、『シュミラの妖精』と呼ばれているらしい。
クローディアに懸想したピッグルが結婚を迫ったのを拒否したせいでデップリード伯爵家に目をつけられ、様々な妨害や嫌がらせの結果、没落寸前にまで追い詰められてしまっているそうだ。
彼女は家族の為に結婚を決意し、二日後に婚約披露パーティーが開かれ、一週間後のクローディアの誕生日に結婚することが決まっている。
(だからあんな態度だったってこと⁉︎)
あの戯言が真実だったなんて、断じて認めたくない。
「あの…ここのお店はチェリータルトがとっても美味しいんです。」
ずっとメニューを見ていた私に笑いかけてくれるクローディアは、本当に良い子だと思う。
あんな酷い目にあったばかりなのに、気丈に振る舞い笑ってくれる。
周囲の同情の眼差しから見ても、良い子なのは間違いないだろう。
こんな彼女が、あの傲慢豚男のお嫁さんなんて、あってはならない悲劇だ。
「あ、ご挨拶が遅れてすみません。私はクローディア・フリンデルと申します。あの子は妹のマリーベルです。」
隣のテーブルでミスティとフィオナ、ギルベルトとケーキを選んでいたマリーベルちゃんが、慌てて立ち上がり淑女の礼をとる。
「さきほどは助けていただきありがとうございます。妹のマリーベルです。」
「まぁ、素晴らしい挨拶ですね。私は冒険者のルミと申します。こちらは私の仲間のイグ、ギル、ミスティ、フィーです。お見知りおきを。」
ちょっと冒険者を気取って礼をすると、マリーベルちゃんのクリクリおめめが私を見つめる。
姉妹揃って最高級のビスクドールの様に可愛い。
昔ネットで見かけてどうしても欲しかったビスクドールによく似ているからか、胸がキュンキュンしてしまう。
(あの時は30万以上するから諦めたけど、フリンデル姉妹の人形プライスレス‼︎あ〜…可愛すぎてツライ‼︎)
悶える気持ちを抑えて微笑むと、マリーベルちゃんはハッとして顔を赤くした。
「ごめんなさい!ルミお姉様があまりにキレイで…」
ルミお姉様‼︎
「…マリーベルも大きくなったらクローディアお姉様やルミお姉様みたいになれるのかな…」
「マリーベルちゃんは今でも十分尊いわ‼︎大きくなったらまた違う魅力を発揮して、クローディアちゃんと並ぶ美人姉妹になるのよ!あぁ…想像だけで尊い…」
「本当に⁉︎良かった!私ね、大きくなったら地位と権力とお金を持った人と結婚したいの!美貌は女性の武器だもの!」
おぅ…マリーベルちゃんしっかり者だね。
でもお姉様はその美貌で大変な事になっているみたいだけど…
「そうしたら、クローディアお姉様をピッグから必ず救い出すんです!」
ピッグ…許すまじ‼︎こんな小さい子になんて決意をさせるんだ‼︎
更に怒りが湧き上がり、ニッコリとマリーベルちゃんに微笑むと、隣からイグニスが吹き出す声がして振り返る。
よく見れば、他のみんなも笑ってて、ギルベルトなんてウィンクしてきた。
(みんな本当に男前なんだから…)
笑い出した私達に、姉妹揃って可愛く首を傾げるから、ますます気持ちに火が付いた。
「クローディア様、よろしければお聞かせ願えますか?」
キョトンとした姉妹は私達の笑みに顔を見合わせ、戸惑いながらも話してくれた。
…ん〜…パーティー名が欲しいところだけど、ま、それは後々にして、私達の冒険者初仕事は、なかなかの大仕事になりそうだ。
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