始まりの町
お久しぶりの更新になりました。
ラセーヌ公国で一番大きく賑わう港町のシュミラの港には、多数の貿易船が入港していた。
「ルミ、気を付けてな。気軽に楽しんでこい!」
「ありがとう、ジェイド。行ってきます!」
手を振り別れを告げて、私達はギルドを目指した。
まずはこの地に宿を借り、本や資料では知り得ないラセーヌ公国の現状を知りたいと思ったからだ。
「凄く賑わってますね!」
「あちこちから美味そうな匂いがしてくるな。」
「わぁ!綺麗なネックレス…なんて宝石ですかね。」
「見たことない物も多いなぁ。」
フェリス王国は殆どが自給自足でまかなえる為、あまり貿易は盛んではないから、他国の物は珍しくて、つい興味をそそられてしまう。
「あの宝石はネオンピンクスピネルね。あそこまで鮮やかなピンクは珍しいわ。ふふっ、フィーにプレゼントしましょうか?」
「いえ、そんなつもりじゃ‼︎それに、私にはこのネックレスがありますから、別のネックレスを買うことは一生ありません‼︎」
そう言って胸元のペンダントトップに触れ、フィオナは愛おしげにそれを撫でた。
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟なんかじゃありません‼︎僕も一生身につけます!」
「無論俺もだ。」
「姫からの手作りプレゼントだよ?誰も手離すわけないじゃないか。」
私達の胸で輝くお揃いのデザインのペンダント。
それがなんだか擽ったくて、ちょっと照れくさい。
まさか憧れのキャラだった彼らと、公式グッズをお揃いで身に付ける事が出来るなんて夢の様だ。
(まぁ、毎日が夢の様な日々だけどね。)
町を見渡しながらギルドに向かい歩いて行く。
本当に活気に満ちた町だ。
商人も客も、良い笑顔をしている。
フェリスから海を越えて南下した先にあるラセーヌ公国は、面積だけで言えばフェリス王国の十分の一もない小さな国だが、人口の比率的にはラセーヌの方が圧倒的に多い。
一軒家ばかりのフェリスの街並みとは違い、ここは集合住宅が高く立ち並び、そこかしこから人々の熱量を感じる。
そして…視線も感じる。
「なんか俺達、めっちゃ見られてるね。」
「ほら…やっぱりルミ様の魅力は隠しきれないんでしすよぅ…」
「だから聖女様に言われても…」
「し、仕方ないですよ!聖女様と女神様が並んでいれば、誰だって目を奪われてしまいますから!」
「二人が目立ってしまうのは想定内だ。ギル、ミスティ、周囲の警戒を怠るなよ。」
いやいやいやいや…
確かに私とフィオナも見られてるけど、女の子の視線はほぼ君らに向いてるからね?
私を見てる女の子からは敵意すら感じてるから。
ヒロインだけでなく、イケメン達にも自覚がないの⁉︎
イグニスの気を引き締めた凛々しい表情に、女の子達ときめいてますよ!
ギルベルトが周囲を窺う流し目で、女の子達腰砕けてますよ!
ミスティのおどおどした姿で、母性本能刺激しまくってますよ⁉︎
「…はぁ、無自覚って怖い…」
いや、ギルベルトは気付いて楽しんでるか。
「それ…ルミ様がおっしゃいますか?」
「フィーにだけは言われたくない…」
純真無垢な天然小悪魔ヒロイン様でしょうが!
「あ、あれギルドじゃないか?へぇ、中々立派な建物だなぁ。」
ギルベルトが見る先には、四階建ての大きく頑丈そうな建物があり、鉄の門扉にはギルドマークがついていた。
(ふぁ〜‼︎本格的‼︎やっぱり荒くれ者とかいるのかしら⁉︎おい、ネェちゃん‼︎とか絡まれるのかしら⁉︎)
ワクワクしながら扉を開くと、中はまさしくラノベの世界‼︎
アニメやゲームで見てきたギルドそのものの姿があった。
まるで酒場の様に昼間っから酒を飲む冒険者達。
その腰や背中には、剣やら槍やらと立派な獲物を携えている。
「あぁ?子供が何の用だぁ?おっ‼︎すげぇ上玉じゃねぇか‼︎おい、ネェちゃん!こっちに来て酌してくれよ!おじさんが冒険者ってもんを手取り足取り腰取り教えてやるからよぉ〜!」
(ふぁーーーーっ‼︎テンプレ来た‼︎これがギルドの洗礼なの⁉︎マニュアルとか用意されてるの⁉︎)
噴き出しそうになるのをグッと堪え、取り敢えず愛想笑いで誤魔化し奥のカウンターに向かう。
(これで受付嬢が高飛車で、はぁ⁉︎あんたらが冒険者⁉︎私、忙しいのよ。子供は帰りな。とか言われたら…耐え切れない…)
でも、ふわふわ癒し系って線もある…
どちらにせよ、噴き出してしまいそうだが。
「おい!無視するってのは礼儀がなってねぇんじゃねぇか⁉︎」
「礼儀だと?初対面の令…女性に下品な言葉を向ける輩が礼儀を知っているとは思えんが?」
アニキ属性だけど、やっぱり由緒ある貴族家の子息。
イグニスの堂々とした態度と迫力に、男達が僅かにたじろいでいる。
とはいえ、荒くれ者の多い冒険者の彼らがそう簡単に引く事はなさそうだ。
むしろ若僧に怯んだ事実がプライドを傷つけたのか、何人かがこめかみをピクピクさせて立ち上がった。
(来たばかりで揉め事はなぁ…。こんな時、ラノベではどう対処してたっけ…)
前世の記憶を思い返していると、スッと目の前に影が入った。
「もう!本部で揉め事はご法度ですよ⁉︎喧嘩するならまずは今までの酒代のツケを払って、それから除名されて下さい!」
「じょ、除名ってお前、キャメル、俺達はただ礼儀ってもんをだなぁ…」
「それこそ辞めてもらえます⁉︎うちはギルド‼︎酒場じゃないんです!お酌して欲しけりゃ、依頼を達成してお金を稼いで、そういうお店に行って下さい!」
キャメルというらしい少女に怒られて、男達はぶつぶつ言いながら座ると、また酒を飲み始めた。
「大変失礼致しました。私は受付のキャメルと申します。当ギルドは初めてですよね?こちらでご用件をお伺いします。」
案内された先は、受付ではなく二階の応接室だった。
変に目立ってしまった私達への配慮らしいが、なるほど…気の利くふわふわ癒し系だったらしい。
手際良く冷たい飲み物まで用意してくれた。
「ありがとうございます。私はルミ。こちらは仲間のフィー、ミスティ、ギル、イグと申します。今日初めてラセーヌ公国に来たので、色々とお話しを伺いたいと思いまして。」
「そうでしたか。皆さんはギルド会員の方でよろしかったですか?」
「はい。これがカードです。」
五枚のカードを渡すと、それを見たキャメルの瞳がキラキラと輝いた。
「まぁ…まぁまぁ‼︎魔術師に治癒師‼︎そうですか、フェリス王国から‼︎やはりフェリス王国は七色の花が咲いているんですか⁉︎常に虹が架かっているとか!国中が魔法に溢れているんですよね⁉︎」
「えっ…」
どうやらこのお嬢さんは、フェリス王国を夢の国だと思っているらしい。
確かにフェリス王国は入国に厳しい審査があるため、誰でも入れる国ではないけれど、だからといって仮にも世界規模であるギルドの人間がここまで誤解しているのは如何なものか…
「そうですね。美しい花が咲いている国ではありますが、虹は雨上がりの時にしか架かりませんし、魔法を使いこなせるのは、殆どが貴族の女性です。殆どの女性は微弱な魔力しか持たないので、きちんと魔法が行使出来るのは一部の者だけですよ。」
「えっ⁉︎そうなんですか⁉︎あ、でも、国民が美男美女ばかりと言うのは本当なんですね!皆さん素敵な方ばかりですから!」
確かに美男美女ばかりだけど、この四人は別格って言うか、この世界の主人公的な存在だからね?
国民全員がこのレベルだと思わないで欲しい。
曖昧な笑みを浮かべる私に気付いたのか、キャメルさん、いや、キャメルちゃんかな?は、慌てて受付嬢の顔に戻り奥の扉に手を向けた。
「失礼しました。あちらのお部屋でお話ししますので、どうぞこちらに。」
応接室に案内され、この国のこと、周囲の国との力関係や、モンスターの出現情報など、キャメルちゃんは親切丁寧に説明してくれた。
なんでもフェリスから来る冒険者は他国の事をあまり知らない事が多いらしい。
かく言う私も、貴族令嬢として外交も学んできたはずだが、知らないことも多いのだと思い知る。
そして…理解した。
(やっぱり外はティル・ナ・ローグの世界なのね…)
混沌の森やゲートは存在しないが、世界マップはティル・ナ・ローグと酷似している。
プレイ中は精神状態最悪だったから記憶は曖昧だし、国の名前とか全然覚えてないけど、形や港など移動に使ったゲートの場所には覚えがあった。
「ギルドの四階が宿になっていますので、滞在中はそちらをご利用下さい。」
「ありがとう。助かります。」
パーティー内に治癒師や魔法使いがいると、保護の為にギルド内にある宿を使えるらしい。
お祖父様はそれも見越してカードを発行してくれたんだろう。
信用できる宿を探すのって大変だから、これは本当にありがたい。
「あの…不躾なお願いなのですが、お仕事の依頼をお願いすることは可能でしょうか?」
キラキラと…そりゃもうキラキラと瞳を輝かせてこちらを見るキャメルに、嫌な予感しかしない。
「悪いが、俺たちはまだ依頼を受けるつもりはない。国の内情も碌に知らないうちは、不用意なことは出来ないからな。」
イグニスがきっぱり断った事を、内心ちょっと残念に思いながらも仕方ないよね…と苦笑する。
言ってる事はもっともだし、何よりこれ以上私の我儘に付き合わせる事は出来ないもんね。
期待してるキャメルちゃんには悪いけど…
「す…素晴らしいです‼︎驕る事のない慎重さ‼︎残念ではありますが、感動しました‼︎きっとすぐに上位ランカー入りされるのでしょうね‼︎」
…いい子だなぁ…
「改めまして、シュミラの街へようこそ!私は夕方まで受付にいますので、何かあればお声がけくださいね!」
可愛く良い子な受付嬢という幸先の良い出会いにほっこりしながら、宿に荷物を置いた私達は、早速街の散策に出かけるのだった。
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