旅立ち
ぼちぼち更新しております。
「ん〜っ‼︎風が気持ち良い〜‼︎」
見渡す限りのオールブルー
空には真っ白な雲とカモメ
輝く太陽
そう、ここは大海原です‼︎
=三日前=
「私旅に出ます。」
「今度は何を討伐に行くんだい?あぁ、でも西の国境付近には行かないようにね。今年は花粉が多いらしいから、花粉症になってしまうよ?」
「北の森の野獣の件か?それなら明日にでも軍が動くはずだぞ?」
「いえ、国外へ旅に出ようと思っています。」
穏やかな朝食の席で優雅にお茶を飲むお父様とアスタル兄様の手から、同時にカップが落ちた。
風魔法で受け止めたので、テーブルクロスには染み一つ無いが、二人の顔が大事故だ。
「お二人共顎が外れてしまいますよ?」
「な、な、何故急に旅などと…あれか⁉︎手紙が嫌になったのか⁉︎だから言っただろう!一蹴してしまえと‼︎」
「お父様…貴族筆頭の方が何を言ってるんです。」
「ルミリア、何故もっと早くに相談してくれなかったんだい?言ってくれれば私が処分したのに。」
「アスタル兄様…その笑顔は聖騎士団団長に相応しくないお顔ですわよ。」
処分って、何する気⁉︎
直情型のアベル兄様と違って、アスタル兄様は理性的に、敵を追い詰めるから怖い。
「…まぁ、確かに騒動が大きくなり過ぎたので、落ち着くまで国を離れたいという理由もありますが、一番の理由は勉強の為です。」
「勉強?」
「はい。恋愛結婚のお許しを頂いて気付いたのです。私は恋愛について…いえ、世間の事を何も知らない。ですから、夏期休暇の間に世界を見て回りたいと思います。婚約者のいる身にもなれば、もう海外に出る機会などないでしょうから。」
……………
なんてやり取りがあった。
二人とも国外に出ることには猛反対していたが、私が一度決めたら折れない性格だと知っているので、阻止する事は諦めたらしい。
条件は色々出されちゃったけど、束の間の休息を得られるならばなんて事はない。
ちなみにお祖父様は、大量の差し入れ?と共に笑顔で送り出してくれた。
「本当にありがとう、ジェイド‼︎」
「ははっ、もう何度目だ?気にするな。ルミリアの為ならなんでもない事だ。」
大きな手に頭を撫でられて、はしゃぎ過ぎた気恥ずかしさと、ジェイドの眩しい笑顔に思わず赤くなる。
今回の旅は、公式なものではなくお忍び旅行。
ランフォート公爵家令嬢が公式に海外訪問となれば、フェリス王国の公船が用意され、立ち寄った国では王室や皇室、有力貴族に挨拶回りをしなくてはならず、自由な時間なんてほとんどない。
無理矢理時間を作ったとしても、護衛や監視に囲まれて、場所にも制限をかけられてしまうのが目に見えていた。
だから今回の私達は、『フェリスの田舎から出てきた冒険者』という設定になっている。
最初は末端貴族の娘の物見遊山!的な設定をかんがえていたのだが、お祖父様に渡された差し入れの中に、冒険者ギルドの身分証(偽名)が用意されていたのだ。
フェリスには冒険者ギルドは存在しないので驚いたが、ティル・ナ・ローグに存在していたギルドは世界共通の組織であり、ギルド会員の身元はギルド管理の下、世界共通で保証されている。
なのに偽名で通用するのか…と思うだろうが、通用するのが冒険者ギルド。
一定レベルの戦闘能力を認められれば誰でもなれてしまうが、ギルドの戒律を破った場合には最悪死刑もあるし、逃亡したとしても、世界中のギルドを敵に回すことになり、ギルドも徹底的に違反者捕縛に動くらしい。
ここら辺は、前世で蓄えたラノベ知識の通りだ。
病院のベッドの上であれだけ憧れた自由な冒険者になれるとは、夢にも思ってみなかった。
『思うままに世界を見て回るといい。』
と笑ってくれたお祖父様は、やはり私の一番の理解者だ。
そしてその全てを承知で協力してくれたジェイドもまた、良き理解者だと思う。
(私は人に恵まれてるわね。)
「姫は船首がお気に入りだなぁ。」
「だが海風は身体を冷やすのではないか?」
「でもでも、船って本当に気持ちいいですよね!僕、初めて船に乗りました!」
「私もです!ルミリ…ルミ様にお供できて、嬉しいです!」
「ありがとう、ギル、イグ、ミスティ、フィー。」
私の我儘旅に、ギルベルト、イグニス、ミスティアナ、フィオナの四人が付いてきてくれた。
最初は断ったのだが、頑なに行くと譲らない彼らに私が折れた形となった。
鮮やかな髪色は目立つ為、皆チェンジの魔法で栗色に変えて、名前もお祖父様が作ってくれたギルドの身分証にあった偽名を使っている。
偽名についてはお祖父様のセンスなので、誰も異論はないようだけど…まぁ分かりやすくて良いかな?
貰った身分証にはライラックとアレクティスのものもあった。
偽名はライとアレク。
うん、分かってた。
お祖父様、考えるのが面倒だったんだね。
二人も旅に同行したいと言ってくれたんだけど、家の都合で長期間は国を空けられずに断念。
でも何かの時にはテレポートで迎えに行くと伝えてある。
因みに…ミシルには早々に断られた。
なんでも『国内での情報収集が忙しい』らしい。
『国に戻った時に状況が分からないのはお困りでしょう?それと、ルミリア様の行方が分からないとなれば騒ぐ者も大勢いますから、適当な情報を流して対処しておきます。』
なんて頼もしいの、ミシル・プロヴァイド…。
って言うか、何者なの⁉︎
「でもルミリ、ルミ様、冒険者だなんて、本当に大丈夫なんでしょうか…」
不安げな瞳に見上げられ、胸がキュン、してしまう。
いつもの制服姿も可愛いけど、治癒師設定で白いローブを身に纏ったフィオナは、その清廉さから聖女のようだ。
「大丈夫よ、フィー。あくまで身分証として使うだけだから。」
「いえ、そうではなくて…」
ギュッとローブの裾を掴み、言いにくそうに視線を伏せてしまう。
(あぁ、そうか…)
魔法はフェリス王国特有の力。
つまり、冒険者には治癒師や魔術師など滅多にいない。
たまに東の果ての国の者や、フェリスの民が冒険者になる事もあるらしいが、希少で有用な治癒師と魔術師を巡ってパーティーに取り込もうと争う事もあるらしい。
中には盗賊に攫われてしまうなんて酷い話もあった。
きっと
フィオナもその辺りが不安なのだろう。
「大丈夫。貴女は私達が守るわ。それにね、治癒師はギルドにとっても保護対象だから、迂闊に手を出す輩はいないのよ。」
それだけ稀有な存在なのだが、一方で、魔力は生まれた土地を離れると緩やかに失われていく為、冒険者生命は短く、数年荒稼ぎして引退する者ばかりらしい。
しかも冒険者になるのは魔力の少ない平民がほとんどなので、治癒といっても実際は傷を塞いだりと表面的で大したレベルではない。
「でもさ、わざわざ目立つ設定にしなくても良かったんじゃない?」
「治癒師と魔術師の設定は、『フェリスの田舎から出てきた初心者パーティー』がギルドの保護と優待を受けるのに都合が良いとお祖父様は判断したのね。でも依頼を受けるわけじゃないし、心配いらないわ。」
国境を越える時も、この身分証…ギルドカードで簡単に通る事が出来るし、宿もギルドが提携している比較的安全性の高い宿に泊まれる。
一人旅ならなんとでもなったが、みんなが一緒だとそうともいかないし、お祖父様には本当に感謝しかない。
「だからフィーも安心してね。」
「違います!私が不安なのは…」
大きな瞳に見つめられ、思わず首を傾げてしまう。
「っ〜‼︎やっぱり心配です‼︎全然隠せてないですからね⁉︎こんな可愛くて綺麗でセクシーで美人で品が良い冒険者なんていませんから‼︎ルミ様の魔術師姿素敵すぎますからね⁉︎」
「…え?」
そんなにおかしいだろうか…と衣装を見るが、別段違和感はない気がする。
ハロウィンに着る魔法使いのコスプレ感はあるけれど、ラノベでもゲームでもアニメでも、魔法使いと言えばこんな感じだった筈。
(お祖父様が用意してくれたのは一般に売られている冒険者の装備ばかりだし、これが普通だと思うんだけど…露出が多いのは確かに気になるかな。)
黒のコルセットワンピースはミニ丈で、かなり胸元が開いている。
ニーハイブーツとか、まさか自分が履く日が来るとは思わなかった。
でも黒に金糸で薔薇の刺繍がされたマントは気に入っている。
(うん、いかにもラノベの魔法使いって感じ。)
「ここにミシルが居たら、また埋まりたいって言いますよ⁉︎もっとルミ様はご自身の魅力に自覚を持って下さい!」
「聖女様のようなフィーに言われても…。」
「ルミ様もフィーさんも、とってもお似合いだと思います!」
「ふふっ、ミスティも似合っているわよ。もちろん二人もね!」
狩人風のミスティと、戦士風のギルベルトとイグニス。
うん、やっぱりイケメンは何を着ても絵になるわ。
「ルミは随分楽しそうだな。」
着慣れない姿に苦笑を浮かべるイグニスに、ちょっと浮かれすぎたかと反省しつつも、込み上げる笑みを隠す事が出来なかった。
だって、こんなにワクワクすることがあるだろうか。
夢に見たラノベやゲームの世界‼︎
冒険者なんて、自由の象徴のような職業だ。
チート能力満載なこの身体なら、公爵家令嬢よりも冒険者の方が楽しく生きられただろうと思う位だ。
(だからちょっとくらい楽しんでもバチは当たらないよね!)
「ふふっ、楽しい!今とってもワクワクしているのよ!」
吹き抜ける海風にマントがひらめく。
僅かに混じる緑の匂いに、ジェイドがニッと笑った。
「見えたぜ!あれがラセーヌ公国、シュミラの港。冒険の始まりの地だ!」
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