後夜祭2
「…アレクティス…」
さっきまで令嬢達に囲まれていた彼がどうしてここに…と思ったのと同時に、パタパタと軽い足音が聞こえた。
(なるほど、逃げてきたのね。)
「アレクティス様はどこに行かれたのかしら!」
「バルコニーの方に行ってみましょう!」
姿をくらました時点で、逃げた事を悟るべきではないだろうか。
剣術大会優勝者が逃げ出したくなるほどとは、なんともたくましい令嬢達だ。
「…騒がしくしてしまいそうだな。君はゆっくりするといい。」
苦笑を浮かべて背を向けたアレクティスを、半ば無意識に掴み止めた。
そしてそのまま柱の影へと連れ込む。
「ルミ」
「シッ!」
隠れたタイミングで令嬢達がバルコニーへとやって来た。
危ないところだったと一安心しつつも、今のこの状況を見られても厄介なことに気づく。
(私はともかく、アレクティスまで変な噂を立てられたら迷惑よね。彼には色々迷惑もかけたし恩もある。どこか別の場所に転移して…)
「ルミリア、」
『アレクティス、声を出すと気付かれるので、テレパスで話しましょう。』
「っ⁉︎」
『ご令嬢達に囲まれるのは色々と疲れますからね。良ければ私がテレポートで…アレクティス?』
なんの反応も返さない彼を見上げると、驚くほど間近にブルーの瞳が映った。
っていうか!これは何気に壁ドンでは⁉︎
逆壁ドン⁉︎
しかも私の手じゃなく、アレクティスの背中を壁にドンしてるタイプの壁ドン‼︎
(って、ち、近いっ‼︎)
現状を把握した顔が、一気に熱を持つ。
「ご、ごめ、」
「ん?ねぇ、あちらから何か聞こえなかった?」
(ヤバっ‼︎)
これはもうテレポートしかない!
そう思って魔力を込めた瞬間、
(…えっ…)
力強く腰を抱き寄せられ、逞しい身体に密着していた。
「まぁ、どちらですの⁉︎」
「多分あちらの…キャア‼︎か、カラス⁉︎」
いつの間に戻ってきたのか、美しい毛並みをしたカラスがバルコニーの縁に留まっていた。
それに驚いた令嬢達が逃げていくのと同時に、カラスもまた闇に消えていく。
(不思議なカラス…って、これ、どうしたら…)
令嬢達は去ったのに、アレクティスが腕の力を緩めることはない。
まだ警戒しているのかと思いつつも、さっきの事を思い出すと顔を上げる勇気もなかった。
でも、だからといってこのままでは身が持たない。
ルミリアとして生まれて初めてってくらい心臓がバクバクしてるし、密着した状態では、心臓の音が伝わってしまうだろうし、もう全身茹で上がってしまいそうだ。
(ここは冷静に‼︎そう、冷静になるのよ‼︎隠れただけだもん!身体を離して、『行ったようですね』って笑えばいいのよ!)
意を決して身体に力を込める。が、次の瞬間、私は両腕に抱き締められていた。
「っ…⁉︎」
驚きと動揺。
何故自分がアレクティスに抱き締められているのだろう…
「良かった…」
「えっ…?」
「貴女を…いや、願いが聞き届けられて良かった。」
ふっと力の抜けた腕が私を離し、優しい瞳が微笑む。
「貴女には、幸せになって欲しい。」
「アレクティス…ありがとう。」
私も笑顔を返す。
でも、溢れてくる涙を抑えきれなかった。
せっかく綺麗にメイクしたのに、憧れだった人の前で泣くなんて恥ずかしい。
ランフォート家の令嬢が、人前で泣くなんて許されない。
そんな事が頭を掠めたが、涙を止めることなんて出来ず、アレクティスのハンカチが涙を拭ってくれる。
「ロミオ、こんな場所に連れ出して、一体何の御用ですの?」
離れた場所から聞こえてきた声に、また息を潜めて身を寄せる。
だが、様子からしてアレクティスを追いかけてきたわけではないらしい。
「あぁ、聞いてくれ、愛しいジュリエット…」
ロミオとジュリエット…なんて悲恋的な名前のカップルが登場してきたのか。
いや、カップルならこのままここにいるのは気不味い。
今度こそ転移するべきかとアレクティスを伺うと、彼も頷いてくれた。
(ふむ、どこがいいかしら。)
「ジュリエット‼︎俺は君との婚約を解消したいんだ‼︎」
頭の中から、転移先にイメージしていた景色が吹っ飛んだ。
『愛しいジュリエット』じゃないんかいっ‼︎と突っ込んでしまったからだ。
「ロミオ…まさか…まさか貴方…」
ほら、ジュリエットショック受けてるじゃん‼︎
毒…はないだろうけど、殺傷沙汰になる流れじゃない⁉︎
「君の想像通りだと思う。僕は…真実の愛を貫きたいんだ‼︎」
「あぁ、ロミオ…ルミリア様に恋してしまったのね…」
((⁉︎))
思わずアレクティスと顔を見合わせてしまった。
まさかこんな場所で、予期せぬ相手から想いを伝えられてしまうなんて…しかも婚約解消って…
『ルミリア、貴女が気にする必要はない。』
頭に響くアレクティスの気遣う声に、思わず苦笑を浮かべる。
やはり公爵家の影響力は大きい。
私に認められた自由恋愛は、貴族なら一度は夢見る自由。
それをランフォート家の令嬢が手に入れたとなれば、私も…と夢見る者が出て来ることは目に見えていた。
現に今、婚約を解消して真実の愛を…なんて言っているのが証拠だろう。
『ありがとう、アレクティス。でも…傷付く彼女を目の前にしてしまうと、責任を』
「真実の愛‼︎素晴らしいわ、ロミオ‼︎」
「分かってくれるのかい、ジュリエット!」
(ジュリエット⁉︎分かっちゃうの⁉︎)
「勿論よ‼︎あの麗しいルミリア様に恋するのは当然だもの!きっとライバルは多いでしょう。でも、頑張って下さいな!私も頑張りますわ‼︎」
「もしや、ロクレーヌ様か⁉︎そうか‼︎互いに素晴らしい方に恋をしたようだね。流石だ、ジュリエット‼︎」
((……………))
なんだかお互いに激励しあってる?
そもそも、ロミオ&ジュリエットって名前だけで、愛し合った婚約者ってわけでもないのだろう。
『お、親の決めた婚約者に愛情を持てないのは、よくあるお話よね。』
『あ、あぁ、そうだな。』
『盗み聞きの様な形になってしまいましたし、そろそろテレポートしま…』
「あぁ、愛しいジュリエット!例えルミリア嬢と結ばれても、君との絆は永遠だよ!」
「勿論よ、愛しいロミオ!私がロクレーヌ夫人になった暁には、貴方を取り立ててあげるわ!」
『『…………』』
「「愛してる!真実の愛を叶えられなかった時は、結婚しようね(しましょうね)‼︎」」
そう言って抱き締め合う二人から目を逸らし、私達は会場近くの人の気配のない廊下に転移した。
「……愛って…なんでしょうね…」
「…互いに相手選びには気をつけよう。」
きっとアレクティスに令嬢達がわんさかと群がっていくだろう。
純粋な彼が、悪女に引っかからなければ良いなと思いつつも、天使なフィオナがいれば大丈夫だろうと微笑んだ。
「さぁ、アレクティス様!まだ後夜祭は続いてますわ!一緒にダンスを踊りましょう!」
「良いのか?」
「えぇ、さっきのを見ていたら、なんだか色々考えるのがバカバカしくなってしまったわ。だから、私達も人の目を気にせず、楽しみましょう!」
微笑み合う私達が会場に戻りダンスを始めると、辺りは一気に騒めいたものの、皆がダンスに加わり後夜祭は大いに賑わった。
ミスティ、イグニス、フィオナ、ミシルとも踊った私は、胸の奥から湧き上がる幸福感を抑えきれず、ずっと笑いっぱなしだったと思う。
幸せだ。
本当に、本当に、幸せ。
そんな私に優しく微笑んでくれたフィオナを、想いのままに抱き締めたのだった。
4/2
更新不定期ですみません。
読んで下さる方に感謝です!




