勝者の望み
更新遅くてすみません。
読んでくださる方がいらっしゃると嬉しいんですが…
審判の勝利宣言を受けて、アレクティスの身体がグラリと揺れた。
思わず立ち上がったものの、私はその場を動かなかった。
それは泣きそうなフィオナがアレクティスに駆け寄っていくのを見たから。
けれど…アレクティスは剣を高く掲げ、真っ直ぐに来賓席…ランフォート公爵であるお父様に顔を向けた。
それに気付いた周囲は静まり返る。
ロクレーヌとランフォートが、この結果をどう受け止めるのか。
誰もがその答えを見守っている。
「実に見事な勝利でしたな。」
にこやかに拍手を送るお父様に、アレクティスは深いお辞儀をする。
そして会場中に響く声で告げた。
「私、アレクティス・ロクレーヌは、ルミリア・ランフォート嬢との婚約の権利を放棄します。」
僅かに騒めくが、それは誰にとっても想定通りの答えだったのだろう。
この学園に関わる貴族なら、皆お家事情は知っている。
「なるほど。では、別の形で勝者の褒賞を考えねばなりませんな。」
「ならば、一つ願いを叶えて頂きたい。」
間髪入れずに答えたアレクティスに、お父様は笑顔を消した。
同時に、お父様の近くに座っていたロクレーヌ公爵の表情も険しくなる。
剣術大会を婚約者選びの場にしてしまった事から、今大会の運営費は全てランフォートの寄付から成っている。
つまり、勝利であるアレクティスの願いを叶えるのは、ランフォート公爵本人となる。
お世辞にも友好関係にあると言えない二つの家で、一体どんなやり取りが行われるのか…
誰もが固唾を飲んで見守った。
「ほぅ、願い…か。どんな内容にせよ、私の一存では確約できない。学園長と相談の上」
「いや、貴方にしか叶えられない願いです。」
「…と、言うと?」
「ルミリア嬢に、彼女自身が婚約者を選ぶ権利を与えて欲しいのです。彼女が選んだ、愛する者と結婚出来る権利を。」
会場中が動揺して騒めき立つ。
貴族の令嬢にとって、結婚は政治。
これは常識だ。
国の為、家の為、領民の為、より良い婚姻を結ぶ事こそが、貴族令嬢の責任と義務。
三大貴族であるランフォートは、下位の貴族の規範でなくてはならない。
なのに、私が責任と義務を放棄するわけには…
「私は、いや、我々は、その為に今この場にいるのです。」
その場に跪いたアレクティスに続き、救護テントから出てきたイグニス、ライラック、ギルベルト、ミスティが跪く。
「…君達はルミリアとルミアの学友だね。話しはよく聞いているよ。だが、ルミリアは公爵家の人間だ。その責務を放棄する事は許されない。」
強く断言するお父様に、ライラックが顔を上げる。
「承知しております。だが、ルミリア様はフェリスの至宝と呼ばれる才知あるご令嬢。そのお方が選ぶ伴侶なら、国や民を失望させる事はないでしょう。」
「我が娘の眼は確かだからね。けど、恋愛結婚なんて言いだしたら、悪い虫が寄り付きそうで親としては心配だ。自慢になってしまうが、ルミリアの美しさと聡明さは見ての通りだからね。」
次にイグニスとギルベルトが立ち上がり声を上げる。
「ご安心ください。婚約者が決まるまで、我々がお守り致します。」
「誰にも姫を傷つけさせやしません。」
一体…何が起こっているのだろう。
目の前で進む話しに、思考が追いつかない。
(愛する者と結婚…?なんでそんな話しに?)
「ふむ、まぁ優勝者の願いでは仕方ない。」
(えっ⁉︎そ、そんなあっさり⁉︎)
「元々どこに嫁がせても問題が出て来るからね。本人の意思で選ぶなら角も立たないだろう。」
騒ついていた貴族達も、思う所があるのか、反論はでない。
(それが本音⁉︎そもそも、大会の賞品にされたのもこれが理由⁉︎ちょっとお父様…私の扱いが雑過ぎるのではなくて⁉︎)
「けど意外だったよ。私はてっきり優勝候補である君達の誰かが婚約者になると思っていたんだ。娘は好みではなかったかな?」
明らかに揶揄って…いや、ちょっと違うかな。
あれは「俺の娘との婚約の権利を放棄するとか、何考えてんだ?」の顔だ。
親バカだかならなぁ…。
「ぼ、僕達はっ、ルミリア様が大好きですっ‼︎」
叫んだミスティの声が会場に響く。
多分オンディーヌ伯爵だろうか、蒼白になって口をパクパクさせている。
「ルミリア様は、僕なんかにも凄く優しくして下さる、本当に素敵な方です!だから…誰よりも幸せになっていただきたい…だから僕達は、ルミリア様の幸せな結婚を願うんです!」
「ルミリア様は、地位も権利も魔力も持った凄いお方です。その上美しくて、優しくて、責任感が誰よりも強くて、才知に溢れて、誰もが憧れる…。けどルミリア様は、いつだって人の事ばかりで、ご自身の幸せは全然考えてなくて…こんなにも優しい…優し過ぎるルミリア様は、愛する方と幸せになって欲しいんです!」
(ミスティ…フィオナ…)
「ははっ、愛されているなぁ、ルミリア。」
優しい声と瞳が私へ向けられる。
「…はい。彼女達は、私の愛する大切な友人。私は本当に幸せものです。」
心からの笑顔を浮かべた瞬間、会場中から歓声が上がった。
ミスティとフィオナは泣きながら手を振ってくれて、私も涙を浮かべて手を振れば、イグニスやギルベルト、ライラックも笑顔を見せた。
『優勝者 アレクティス・ロクレーヌ‼︎ これにて、剣術大会終了とする!』
学園長の声が響く中、アレクティスだけは瞳を閉じていた。
高潔なる白銀の騎士。
前世で私の心を満たしてくれた彼は、今生でも優しく気高い彼のまま。
(私は彼に…彼らにどう報いたらいいんだろう…)
鳴り止まない拍手の中で、シナリオから外れた彼らの未来を思うのだった。
3/16
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次からは乙女ゲーム要素満載です。
甘いお話が書けたらいいなぁ。




